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勇者の息子 ~異世界転移と魔王の復活~  作者: 地脇ニク男ドル子
勇者の息子は女に甘い
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その3

「勇者様だ! 勇者達がお見えになったぞ!」

 ある者は興奮気味に勇者の来訪を喜び。


「ありがたや、ありがたや。今日この日のことは一生忘れませんぞ」

 ある者は手を合わせながら天を仰ぎ。


「皆の者、道をあけよ! 勇者様を盛大に出迎えるのだ!」

 またある者はこの場を仕切り勇者への花道を作る。


 王国北の小さな村ローエン。そこでは大勢の村人が勇者の出迎えのため、門の前へと大挙していた。

「だっはっは、出迎えご苦労諸君! 父のアトスをも超える逸材であるアレス様が久々に来てやったぞ!」

「な、何かよく分からないけど、聖剣アトスとレーヌ様に選ばれたビスタ様よ!」

この盛大な催しに無論、尊大勇者とチョロ盗賊が気を良くしないはずがなかった。


「こら、お前達! 道を開けないか! 勇者様が通られるのだぞ!」

「あー構わん構わん。許してやってくれ。この俺に少しでも近寄りたい気持ちはよ~く分かるからな」

「あたしに触れると火傷するわよ~? 今やあたしはレーヌ様の使いと言っても過言ではないんだから」

「お前達だお前達! 門の前でふんぞり返っている金髪とチビだ!」

 そう、気をよくしている二人は全く気付いていないがこの歓声は決して、ただの勇者の息子と一介の盗賊に与えられているものではないのだ。二人に与えられているのはたったの二つ。そこを退けと言う怒声と、何だこいつらと言う奇異の視線である。


「到着だー! 勇者様が入られるぞー!」

 門の近くにて一人の兵が大きな声をあげる。その直後、二人の背後からやって来たのは二頭の白馬と大きな馬車であった。

「早く退け二人ともー! 引き殺されたいのかー!」

「何かちょくちょく怒号が聞こえる気がするんだけど」

「俺達の姿を見たいがあまりズルして最前列に割り込もうとする奴がいるんだろう」

「そうなのかしら」

 と、そこでビスタはようやく背後に迫って来る気配に気付いたようだった。チラリと後ろを振り返った。


「げっ!? ちょ、ちょっとアレス! 後ろ後ろ!」

「あ? 後ろがどうした?」

「後ろよ! とにかくここから退かないと蹴り飛ばされるわよ!」

 一足先にビスタは進路から外れ道の脇へと避難。一方でアレスの方は違った。

「後ろ? 蹴り飛ばされる? 何言ってんだあいつ」

 未だビスタの言葉足らずな忠告を理解出来ずにいた。ひとまずは後ろと言うキーワードを元に、何気なく後ろを振り返ってみるところから始めることにしたのだ。


 もう間もないところまで、白馬が迫ってきているとも知らずに。


「んー? ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 寸前のところで停車した馬車に、アレスは情けなくも尻もちをつく。直後に驚いたのか、白馬は前肢を持ち上げ雄大に嘶いた。

「これいかんぞ、そこの者。いくら勇者様にお会いしたいとは言え、馬車の進路を塞いでは」

「嫌いだ嫌いだ馬なんか大っ嫌いだいつか世界中の馬と言う馬を狩りつくしてやるんだ勇者様の偉大さ賢さ勇猛さを思い知らせてやるんだー」

 御者の苦言などアレスには全く聞こえていなかった。放心状態のまま馬へのうわ言を淡々と呟いていた。


「どうかしたんですか?」

「おお、勇者様。申し訳ありません。お怪我はありませんでしたか?」

「大丈夫。それよりどうして急停車を?」

「この者が道を塞いでおりまして」

 アレスを指さす御者の後ろからひょっこり顔を覗かせたのは言わずもがな。歩くご都合主義流星と小さな召喚士ルドンナである。

「あ、元勇者君じゃないか」

「元と言うなヘボ! ちょうどいい、ここで会ったが百年目! 今すぐ白黒つけてやる!」

 流星の顔を見るや否や精気を取り戻したアレス、血気盛んに転生返しを引き抜いた。

「さぁ降りて来い! 大衆の面前でお前の惨めな泣きべそ姿をお披露目してやらぁ!」

「泣きべそ以上に惨めな姿を見せたあんたが言ってもねぇ」

「ごめん、僕今日疲れちゃって。明日にしてくれないかな?」

「はぁ? 馬車に乗って移動していただけで疲れただぁ? こちとらてんやわんやのすっとこどっこいを乗り越えてここまで来たんだぞ! 甘えたこと抜かしてんじゃねぇ!」

「何がてんやわんやで何がすっとこどっこいなのよ」

「いやいや、ずっと馬車に乗っていた訳じゃないよ。ちょっと待ってて」

 流星一行は一旦馬車の中に引っ込んだ。続いて馬車の扉が開かれる。そこから一つ、黒い塊が路上へと放り出されたのだった。


「おぉー! あれは!」

「ツノネズミだわ! 本当に退治してくださったのね!」

 しかも一つだけではない。二つ、三つとその後もどんどん放りだされていく。その度に観衆は拍手喝采。次第に誰が始めたか分からないカウントダウンの声が、人々へと伝播していった。

 最終的にネズミの山は、十匹にも及ぶこととなった。最後に扉からはやや頬が紅潮したルドンナがおずおずと。そして流星がぺこぺこと謙遜しながら姿を現した。

「実はここに着いた時、村の皆からツノネズミ退治を依頼されてね」

「このところ、大きいツノネズミが異常繁殖しているそう、なんです」

「なんで僕達が退治してきたんだ」

「この野郎、いい人アピールか」

 人当たりの良さそうな微笑みを湛え事の顛末を説明していく流星。多くの声を一頻り浴びた彼は、ネズミの山の隣にて右手を高く挙げる。その瞬間、沸き立つ村内は一斉に静まり返った。



「皆さん! 持ち帰ったネズミはこれだけですが、とりあえず狩れるだけ狩ってきました! これでしばらくは安心して暮らせると思います! このネズミはどうぞ、食料としてお使いください!」



 流星が高らかに宣言すると、人々の盛り上がりは最高潮へと達した。流星! 流星! と讃えるべき勇者の名を何度も何度も連呼する。村長の計らいにより、今宵は盛大な宴が催されることも決定した。きっと村にいる誰もが楽しみにしているに違いない。

 ただ一人、蚊帳の外となっているとある男を除いては。


「うわ~、凄い盛り上がり。何かあたし達、とんでもない相手と戦おうとしているのね、ってアレス! 何処行くのよ!」

 そっとその場を後にする二人。アレスは道端の小石に全ての怒りを込めて、思いっきり蹴り飛ばした。

「不愉快だ! ひっじょ~~~~~~に不愉快だ! 俺は寝る! 誰が宴なんかに参加してやるもんか!」

「あんたも意固地ね~。ま、とりあえず宿でも探しましょ」

 アレスは肩を怒らせ、ビスタは飄々と後ろ手に歩く。宿の看板はすぐに見つかった。どうやら一階は酒場を経営しているようで、テラスとカウンターは既に大勢の人でかなり賑わっていた。他の酒場と見比べても、頭一つ抜けているであろう盛況っぷりである。


「おう、さっきの痛いお二人さんじゃねぇか」

「痛い言うな!」「痛い言うな!」

「がはははは、面白い奴らだな」

 店のテラスに陣取るおじさん集団の声に二人同時に反応する。テーブルには木のジョッキ、瓶も数本開いており、辺りは非常に酒臭い。酒が苦手なアレスにとって居心地は最悪、ビスタも鼻をつまんで渋い顔をしている。さっさと部屋にこもろうと、二人は宿の受付へ足を進めていった。

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