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後半、完結!

異世界にやって来て、ガンセイザーに初めて変身した日から三年が過ぎた。

精霊から大精霊の協力があれば地球に戻れるかも、と話を聞いて喜んだのも束の間。

大精霊はダークバッシュに封印されたと聞き、八陣将や四天王を倒した俺達は勇み足で空中に浮かぶダークバッシュの居城へと向かい、奴と対峙し挑んだ。



その結果、全滅。



ダークバッシュには全て筒抜けだったのだ。


世界を暗雲で包み、更に一方的に負けた俺達のこの戦いを全世界へと放送、しかも世界中の人々の声がこちらに届くけど、こちらの声は届かないという状態。

人々を絶望に落とすのに時間はかからなかった。


そしてダークバッシュは筒抜けだった理由を語る。

八陣将も四天王も自分の力の一部であり、倒せばその力と情報はダークバッシュへと戻り、俺達への対策も容易だと。

そして、人間が絶望に包まれる様は最高の愉悦だと。


残るはガンセイザーだけだ、とも。


その俺は最初の一撃で弾き飛ばされ、意識が飛びそうだ。

首を捻ったのか痛くて右側にしか向けないけど、あちこちが尋常じゃないくらい痛い。

心の声の診断だと肘より先の左腕が潰れて、右脚は骨折している、内臓には石や折れた肋骨の破片が突き刺さり長くは持たない、だそうだ。


回復のできるカスミは気絶、レンは魔法を封印されて戦えず、仲間二人もボロボロ。

ジュンヤだけが辛うじて立っているだけで、押せば倒れそうな感じだ。

ダークバッシュはジュンヤが倒れなかった事に感心している。


俺は壁伝いに歩きながら、ジュンヤの前に立とうとする。


(ダークバッシュがこれ程とは。

今のガンセイザーでも倒すのは無理だろう。)


でもさ?


(分かっている。けど、あえて警告はさせてもらうよ。)


おう。

心の声と会話しつつ、俺はなんとかジュンヤの横まで歩き、肩を掴む。


「ジュンヤ、バトン…タッチ……だ。」

「カ、カズキ!?」


俺の姿を見て驚くジュンヤをよそに、彼の肩を軽く後ろに引くと簡単に尻餅をついた。

同時に…


『『『バカヤロー!!お前みたいなザコに何が出来るってんだ!!!』』』


世界中から罵声が飛んできた。

そりゃザコだし、最初にやられたけどさ…

凹むなぁ。


(君はそんな弱いメンタルは持っていないだろう?)


ヒド!

まあ、その通りだけど。


(そして先ほどの話の続きだ。)


分かってるよ。


(世界中に注目されている今、変身すれば二度と変身出来なくなる。

それでも変身するのかい?)


覚悟は決めてる。

変身出来なくなるより、今変身しない方が後悔する。

コイツを倒せば終わりなんだ。


(そうか…それでこそ、か。ならば行くぞ。変身!)


『ガンセイザー!』


世界中の人々の前で、どうしようもない悪の前で、共に旅をした仲間の前で、俺は変身をする。

仲間たちから、世界中から驚きの声が聞こえる。

ダークバッシュは感心しているようだ。


(ガンセイザーとしてのチカラは十分にあるが、奴は強い!

持てる力全てを使わねば。)


おう!


「フォームチェンジ!」


この旅でチカラを貸してくれた全ての精霊の力を宿し…


「アークセイザー!」


まずは牽制を兼ねた右ローキック、からの!


「ベヌデオルに見せた技か。」


ダークバッシュは見切っている、とでも言いたげに俺の背後へと回り込み諸手突きで心臓辺りを狙ってくる。

俺はローキックの勢いを殺さず、重心を右足へ移動させながら上半身を低く横に捻って一回転する。

すると諸手突きを躱しながらダークバッシュの腕を担ぐ感じになり、その腕を掴んで姿勢を戻すついでに奴を背負い込み、思いっきりブン投げる!

頭から落とす感じで!!


「先程の技は技の起点、敵の行動によって別の技が派生するという訳か。」


頭から落とされまいと左手を床に付け、背負い投げモドキの威力を殺したダークバッシュは投げられた勢いを利用して距離を取った。

くっそ。


(焦るな、まずは堅実に攻め、必殺の大技を叩き込む隙を作るんだ。)


大丈夫、分かってる。

もっと上手く投げられなかったかと思っただけだ。


「なかなかに強い、が我には及ばぬよ。」


この時俺は、余所見をしていない。

ダークバッシュから目を離していなかった。

それでも、それ以上に奴の方が速く、目前に迫ったニーキックを、防御も回避もできずに顔面への直撃を許してしまった。


「ごっ!?」


その威力は最初に俺が受けた衝撃波の比じゃなく、打ち上げられる形でこの広間の天井近くの壁まで一直線に飛ばされ、そこを破壊する事で辛うじて勢いは止まった。

そして俺は受け身も取れず、叩きつけられるように床へと落ちる。

ダークバッシュの一撃による衝撃は凄まじく、俺がぶつかった壁周辺はガラガラと崩れ落ち、落石による地味なダメージを俺は受けるハメになった。


「ベヌデオルが貴様を取り込もうとしたのも頷ける。

さあ、これを凌げるかな。」


もうもうと立ち込める土煙の中、聞こえてきたダークバッシュの声。


(カズキ、そのままガードだ!)


直後に聞こえてきた心の声に従って、身を伏せた状態でガードをすれば、ダークバッシュが放ったらしい衝撃波が頭上をいくつも通り過ぎていった。

ガードで身構えてなかったら、最初の衝撃波で身体を浮き上がらせて、続く衝撃波の餌食だっただろう。


(よく耐えた。)


心の声が褒めてくれる中、どうすれば?と次の手を考えようとしてソレはすぐに気付いた。

知らない技なら当たる?


(可能性は高そうだ。)


ローキックからの背負い投げモドキのコンボは初めてだったけど、どちらも八陣将相手にやったことがあるからダークバッシュは対応できた。

けど、技と技の繋ぎ目は対応できてなかったのだ。


(ぶっつけ本番でマンガやゲームの技を再現するのは褒められたものではないが…体力の残りを考えると、ひとつかふたつなら、再現を許そう。)


考えを先読みされた。

まあ、心の声の協力も得られたし、アレやってみるか。

土煙が晴れようとする中、俺は立ち上がり、ジュンヤ達との距離を見る。


(カスミは気絶から回復してるようだ。

距離も十分にあるし、君がやろうとしてる技に巻き込まれる心配もないだろう。)


サンキュー、目測が分からんから助かった。

手刀の構えでダークバッシュに狙いを付けて、ダッシュで近づく!


「先の攻撃を回避しておきながら、土煙というアドバンテージを使う事もなく突撃とは、些か失望だな。

それとも何かしらの狙いなり策でもあるのか?」


俺の攻撃レンジに入ってなお、やれやれ、といった感じで余裕ぶったコイツの鼻っ柱を叩き折ってやる!

そして、右の手刀を振りかぶったところで両手の指を鉤爪のように構え、


「竜王爪連撃っ!!」

「く…っぐ!?」


叫びと同時に左右交互に袈裟斬りの軌道で六連撃の光の爪を放つ。

って!

セリフが修正されない!?


(正体がバレている以上、修正する意味はないだろう?)


ごもっとも。

一方で俺の技を敢えて受けたダークバッシュは、竜王爪連撃の最後に仕込んだ罠にまんまとハマった。


「む?!こ、これは!」


最後に仕込んだのは、『クロスバインド』という十字の光が敵を拘束する技で、本来なら手刀で放つものだ。

それを五指で放ったとこでその強度も何割か増しているのか、ダークバッシュを拘束出来たのは思った以上の成果だ。


(カズキ!)


おう!

この隙を逃さずに俺は飛び上がり、狙いを澄ませる。

持てる全ての力を込めて…


「シャイニングバスター!!」


右脚に精霊達の力となる六つの光が集まる。


「キィーーーーーック!!!」


最強の状態での全身全霊を込めた一撃(キック)が、ダークバッシュへと向かう。

が、キックが奴の胸に突き刺さる瞬間、何かに阻まれた。


「何!?」


俺のキックを阻むのは、ダークバッシュの左手。

その表情に浮かぶのは僅かな笑み。


「くく…ははは、中々の威力ではないか。」


こ、こいつ拘束を解きやがった!

ちなみに言っておくと、周囲の床石はシャイニングバスターキックの圧力によって、ダークバッシュを中心に深く広いクレーターになっている。

最初の頃に放ったクラッシュハンマーキックとは比べ物にならない威力なのに、奴は平然としていた。


「まあ、勇者とやらよりはマシな……何っ!?」


驚きの声がダークバッシュから漏れ、見れば奴の左手が黒い粒子になって消えていってる!

これは…!


(まさか効いている、のか?だが…)


なら!決めるしかないよな!!


「トドメだーーーー!!」


持てる力を振り絞るようにキックの威力を上げると、ダークバッシュが粒子になって消える速度が上がる。

同時にこの戦いを見ている人々からの期待の声が上がった。


「バ、…バカなぁっ?!」


その言葉を残してダークバッシュは消えたけど、あまりに呆気なくて何かミスったような不安が拭えない。


(かつてのベヌデオルと同じだ。)


心の声がベヌデオルと同じ『やられたフリ』だと告げた。

同じ手に引っかかったのかよ!!

しかもダークバッシュの姿は消えているから、探し出すのはかなり難しい。

残る体力も少ない、やられた…!


「くくく、誰を探している?」


背後から声が聞こえるものの、振り向きたくても振り向けない。

なぜなら…


「貴様には色々と驚かせて貰った。

瀕死の状態からあれ程の威力がある攻撃を繰り出した事も合わせて、な。

良い余興だった。」


ダークバッシュの腕が俺の胸から突き出していた。


みんなの嘆く声が聞こえる中、俺は、自身が死に向かっていくのを感じていた。

気絶しないのは、心の声…セイザーの力のおかげだろう。

コイツ、強すぎる……!


ずるり、と腕は引き抜かれて俺は力なく倒れた。

それを見ていた世界中の人々から嘆く声が上がり、その声も徐々に遠く聞こえ、だんだんと意識が遠のいていくのが分かる…



(カズキ。)



心の声が語りかけてくる。


(まだだ。)


何が、まだなんだ?


(まだ、君の勝利を信じる人がいる。)


誰だよ…俺、負けたじゃん。


(私の事だ。)



(君は気付いていないのかい?

全力を尽くし、心臓を潰されてなお、君はガンセイザーの姿のままだという事を。)


はは…マジか…どんだけ期待されてるんだか…

じゃあ、死んでも勝とうか。悪に。


(私と共に。)


頼むぜ…


「む!」


ダークバッシュの驚く声が聞こえた。

朦朧とする頭で俺はなんとか立ち上がると、ダークバッシュは驚いた表情を見せた。


「心臓を貫かれ、なぜ立ち上がれる?」

「…なぜ?」


決まってる。


「お前が、どうしようもない悪で!」


そして、


「俺は、その悪を討つ!」


(私の力。悪を許さぬ想い。君の心の全てを信じるんだ。

それが…)


『ガンセイザーだからだ!』


心の声と重なる。

ぶっちゃけ虚勢だけど、諦める訳にはいかないしな。

とはいえ、フォームチェンジも解けてるし、何かしようにも胸に空いた傷のせいで体力はもう無い。

さて、どうす…


『やっつけて、ガンセイザー!』


る……か…?

不意に聞こえたそれは、いつか聞いた子の声。

あの時、俺が勝つと信じてくれた最初の想い。

あんな小さな子の想いでも溢れる程の力が湧き出し、胸の傷が癒えていくのを感じる。

見ていて…信じてくれたのか。


『頼むぜ、ガンセイザー!』


こんな迫る絶望感の中でも、俺を信じてくれる想いがある。

力強く踏みしめる力が湧いてくる。


『カズキ!今のアンタならやってくれるって、みんな信じてるよ!』


ガンセイザーとして関わった人だけじゃない。

カズキとして知り合った人達からも俺を、ガンセイザーを信じてくれる。

悪を討つ為の力がみなぎる。


「カズキ!いや、ガンセイザー!」

「カズキ…くん…」

「カズキ。」

「カズキ・リクドー!」

「カズキ殿!」


共に戦ってきた仲間が俺の名前を呼ぶ。

一瞬、瞬きよりも短い時間、俺は後ろを振り向いた。

言葉は無かった。いらなかった。

でも、その目は俺の勝利を信じてくれる目だった。


俺の心に、勇気が溢れてくるのを感じる。


(これは…!無限の力に目覚めたのか!)


やってやろうぜ。


(ああ、決着を着けよう。)


『超変身!』


(私達が繋いだ世界中の人々の想いを今、ここに!)


『グランセイザー!!!』


分かった。ここにきて、ようやく。

セイザーは信じてくれる人の想いを受けて、限りなく強くなれる事を。

俺はいつからか、精霊の力に頼ってたんだな…

溢れる力が虹色のオーラとなって噴き出している。


「な、何が起きている…?!」


俺の身に起きている現象にダークバッシュが戸惑っているようだ。


(奴には理解出来ないだろう。

その身をもって教えてやるといい。)


だな。


「言った筈だ。俺は悪を討つ者だと。

しかし俺一人の力は弱い。

だが俺は、一人で戦っている訳じゃない!」


一歩、ダークバッシュへと踏み出すと奴も一歩下がる。


「全ての人の想いと!」


言葉と共に一歩踏み込むと、まるで瞬間移動のようにダークバッシュの前へと飛び込む。

奴は、反応出来ていない。

ガラ空きの身体に、右のボディブローを入れる。


「俺達と仲間達の心!それが!!」


よろめいた所で、左でアッパーカット。

ダークバッシュの体が大きく浮く。


「ヒーローの力だ!」


俺も空高くジャンプし、右脚に力を込める。


(カズキ、今の状態なら分かる。

狙うなら…ココだ。)


分かった。

心の声がダークバッシュとは違う方向を示すが、躊躇うことなく頷く。


「セイザー!」


溢れ出す七色の虹が右脚に集い、より光り輝く。


「ファイナルッ!!」


込められた力が眩い光を放ち、


『『『『『『「キーーーーーーーーック!!!!」』』』』』』


全ての人の想いと声が重なった一撃を放つ。

狙うは……そう。先ほどのクレーターの中心。


「まさか…しまっ…がは!!」


天地を貫くような極大の虹色の光の柱となって、俺はダークバッシュの『浮遊城』を貫き、ダークバッシュはそれを阻もうとして近づくもののアッサリ弾かれた。

光の柱は遥か彼方の土地からでも、肉眼でハッキリと見えるほどだった。


やがて光の柱は収まり、キックの影響で地上まで降りた俺は城を見上げる。

城の断面は何か球体っぽかった生物が蠢いているが、俺の攻撃の影響で虹色の光となって消えていっているようだ。


「あれが…ダークバッシュ本体…?」


(なんと醜悪な。)


一言でそれを言い表すなら、皮を剥いだ人間を切り分けて、混ぜ合わせて無理矢理球体にしたような感じか?

表面?には、ギョロッとした巨大な目と唇のない剥き出しの巨大な口があって……ハッキリ言って気持ち悪すぎる。


(カズキ、呆けている暇は無い。

今の状態の内に城に残る彼等を連れて来なければ。)


おっと、そうだった。

城もダークバッシュ本体っぽいのが消えた事で崩壊が始まってるしな。


俺はジャンプをして、ジュンヤ達の前に着地する。

ダークバッシュ本体を倒した事と俺のキックの威力により崩れ始めた城の中、ジュンヤ達は退路が無くなっていたようでどうしようかと相談している所だった。


「すまない、だが、ダークバッシュは倒した。

城が崩壊する前に脱出しよう。」


相談の結果、ジュンヤはカスミを抱き抱え、レンは俺の背中にしがみ付き、残る二人は俺が片手で抱える感じだ。


「くく……やら、れたなぁ…」


いざ、城を脱出…という所で、ダークバッシュの残滓が現れ、俺は咄嗟に攻撃できる構えを取った。


「我…はもう、消えよう…。

だ、が…これは貴様に消せまい!!」


ダークバッシュが霧散するように消え、代わりにドス黒い靄のようなものが上空へと集まっていく。

あれは何だ!?


(あれは…!)


心の声が何かを察したようだ。

ジュンヤ達の方を見れば、ジュンヤだけが険しい顔をしている。


(カズキ、あれは……)


黒い霧の正体、心の声が語ったのは俺にはどうしようもないものだった。


(人々の絶望の集合体だ。)


ダークバッシュが集めた人々の心の闇、今なお広がり続けて人々の心へと帰るのだろう。

そんなものを放置すれば人々の心は絶望で満たされ、確実に世界から人々が死に絶えてしまう。

心の声はそう言った。

しかしガンセイザーでは、悪ではないアレをどうにかする力はない。


(出来るとしたら…)


勇者、か?

そう思って再びジュンヤを見ると、タイミング良く彼も俺に目を向けたのか、お互い目が合う。

そしてこちらの意図を理解しているのか、それともコクリと頷いた。


「ガンセイザー。」

「ああ、任せたぞ、ジュンヤ!」


握手をするように手を差し出せば、ジュンヤも戸惑うことなく俺の手を握る。

そして、無限の力をジュンヤに貸し与えれば、彼の格好に変化が現れた。

着ていた服装がライダースーツとマフラーへと変わった。

ただ仮面は無いし、鎧とかはそのままだ。


ちなみに俺の格好は変わらず、ガンセイザーのままだ。


「これは…!」


ジュンヤが驚きの声を上げるが、理解したのかすぐに無言で頷いた。

ほかのメンバーも『ジュンヤに力を貸す』ことを察したのか、それぞれが思い思いに言葉を交わして力を貸していった。


「ジュンヤ…。」

「……。」


カスミが不安な面持ちでジュンヤを見つめるが、ジュンヤは何も言わずにそっとカスミに口付けをし、ニッと笑った。


「行ってくるな。」


ちょっとコンビニまで、なノリで言葉を発したジュンヤは俺を見て頷く。

俺がこうして今だにセイザーの姿でいるのを、ジュンヤは理解しているのだろう。

だからこそ俺も攻撃の姿勢を即座に取れるんだけどな。


「やってやれ、ジュンヤ!」

「ああ!」


少し距離を取ったジュンヤが俺に向かって走り出し、軽くジャンプをする。

俺はそれに合わせて、ジュンヤを打ち上げるかのようにキックを放つと


「セイザー、カタパルトキック!」


思わず叫んでしまった。

打ち上げられたジュンヤの身体は勢いよく空へと飛び、僅か数秒後には雲のように広がる絶望の闇の中へと消えていった。


「ジュンヤ…」


心配そうなカスミの声。


その後、誰も言葉を発することなく、長い沈黙が辺りに漂う。


………


………………


…………………………



どれほどの時間が過ぎたか、悲壮感を漂わせ始めたカスミに俺は、(ガンセイザー)だからこそ声を掛けた。


「ジュンヤなら必ずやり遂げる。」

「え?」

「信じるんだ。

この旅で紡いだ絆、ガンセイザー(みんな)の想い、そして勇者(ジュンヤ)の力を!」


俺はジュンヤが消えた空を指差し、


「必ず、帰ってくると!」


そしてこの言葉に反応するかのように絶望の闇がひび割れ、輝く光が溢れ出した。

それと同時に光の中から小さな影を見つけ、カスミもその影を見つけたのか、口元に手を添えながら瞳に涙を浮かべた。

それに続くようにレンや仲間の二人もジュンヤを見つけて、歓声を上げた。

遠目に見えるジュンヤは自由落下…ではなく、何かの力で速度を落としながら降りてきているようだ。

その顔には満面の笑み。


俺はそれを見て、ようやく終わったと確信する。


溢れ出した光は消えることなく世界を覆うと、まずジュンヤが消え始める。

みんなが驚く間もなく、カスミ、レンと続いて消え始めた。

おそらく、役割を果たしたから地球に…日本に帰るのだろう。


「ああ、終わった…な。」


そう呟いた俺はそっと瞼を閉じると同時に、わずかな浮遊感を感じていた。



◆◇◆◇◆



重さを感じて、目を開けば


「ここ、か。」


異世界の始まりの地。

無人島、ジュンヤが聖剣を拾った場所。

目の前には持ち主の居なくなった聖剣が大地に突き刺さっていた。


分かってる。


俺が帰れない理由。

俺だけが、ここに飛ばされた理由。

俺が、最後になさねばならない理由。


「…ぐっ!?」


『お、のれぇ!』


頭に響くのは、ダークバッシュの声。


「は、はは!ザマァ、みやがれ…」


あの時、ダークバッシュは俺の心臓を貫くと同時に、取り込む為の種子を残していたのに俺は気づいていた。

そして俺は、コイツに気付かれないようセイザーの力の全てをジュンヤに託して、ギリギリまでガンセイザーで居られるように力を残していたのだ。


今の俺は何の力も無い死にかけた存在。


つまり、ダークバッシュは俺を取り込もうとしても糧にすらならない、という訳だ。


更に、俺だけが戻れなかったのは。


この為だろう。


俺は目の前の聖剣を逆手に持って引き抜くと、それを高く掲げ…


『!?』


俺は眼を瞑る。

ダークバッシュが何かを言っているようだけど、無視。

そして、全てを終わらせた。



◆◇◆◇◆



「……懐かしい、な。」


玉座に座ったまま、少し眠っていたようだ。

この世界来て間もない頃の記憶。

忌々しいものだけど、今となっては些末な出来事。


なにせ。


この世界そのもの(・・・・・・・・)を取り込んだ今(・・・・・・・)異世界へのアクセス(・・・・・・・・・)も可能になった(・・・・・・・)のだから。


召喚した人間に甘い夢を見せながら、俺の糧とする。


そして俺の力は増していき、いずれは俺自身が異世界へと渡る力も得られるだろう。


ふ、ははは!



アッハハハハハハハッ!!

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

僕のイメージではありますが、ヒーローとは悪を討つ孤高の存在、勇者はどんな絶望も希望に変える存在、となってます。

これは飽くまでも僕のイメージであって、皆さんがイメージするヒーロー像や勇者像とはかけ離れてるかもしれません。

なので、皆さんが持つヒーロー像と勇者像は大切にして下さい。

それはアナタだけのヒーローと勇者ですので。


そしてネタバレです。

実はショートストーリーズにある、とあるお話の過去の物語となってます。

話そのものは同時期なのですが、諸々の理由からガンセイザーの話はずっとお蔵入りしてました。

話を打ち始めたのも実はウィザーズ・アカデミアと同時期だったりします(苦笑


なんだか纏まりありませんが、これにて失礼します。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

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