前半!
変身ヒーローを異世界転移させてみた。
大きな焚火を囲んで、みんなが好き好きに飲めや歌えやのお祭り騒ぎだ。
まだ昼間だってのに。
まあ厄介事が片付いて、村の行事である奉納祭が無事終わったのだから、はしゃぐ村人達の気持ちもよく分かる。
あ、ども。俺は六堂カズキ。
ちなみにここは異世界だ。
なぜなら一ヶ月前、先生に言われて図書室の古書整理をしていたら、見知らぬ海岸に立っていたのだ。
まあ、空に浮かぶ島とか地球には無いから異世界だろうね、これ。
これってラノベ風に言うなら、異世界転移かトリップか?
スタート地点が無人島、ステータスもチートも無いというベリーハードな難易度に内心ガッカリしたのは内緒だ。
それと、俺の他にも古書整理を命じられた同じ班の三人がいる。
本当は計六人の班なんだけど、後の二人はサボってたからここには居ない。
その三人の名前は、天城ジュンヤ。
ジュンヤの彼女、東雲カスミ。
そしてカスミの幼馴染、海原レン。
こうして見ると、見事に俺だけハブられてるし、それだけ無人島生活は大変だった。
なんせ、多少とはいえサバイバル知識があるのが俺だけな上に、クラスメイトというだけで親しくもない上に料理の“り”の字すら知らない女子二人…
言いたい放題、わがまま放題だから一度キレたわ。
俺一人で行動すると言った二日目に三人が謝ってきたが。
で、ある日漂着してた舟を利用して改造。
二週間分の食料と水、集水装置と空の水筒をいくつか用意して出発。
俺らが無人島以外の陸地に到着したのはそれから二十日後。
浜辺に打ち上げられた舟の中、グッタリしていた俺達を見つけてくれたのがこの村の人達だ。
甘い考えで島を出たのは分かっていたけど、陸地…しかも人里近い場所だったのは運が良かった。
介抱してくれたお礼に、と、ジュンヤは厄介事(モンスター退治)を考えなしに引き受けた挙句、何の用意もなしに森に入ってピンチに陥るものの、無人島で拾ってた錆びついた剣が光り輝いて新品同様の豪華な剣になって切り抜けるとか、もうこれジュンヤが伝説の勇者っぽいね!
カスミはカスミで傷付いたジュンヤを一瞬で治すし、気が抜けた所で別のモンスターがやって来た時はレンが魔法っぽい風を起こして切り裂いた。
状況だけ見ると、勇者はジュンヤで聖女はカスミ、魔法使いのレン…だな。
俺?
何の力もないから、無人島生活以上の疎外感さ。
ははっ!(自棄)
今もジュンヤを中心にチヤホヤされてるから、手慰みに独楽を作ったら子供にチヤホヤされた。
違うんだ、俺は女の子にチヤホヤされたいんだ!
「キャアァァァッ!!」
うん、他にもこんな風にキャーキャー言われてみたいね。
ちくしょー。
「がはっ…」
いじけてしゃがみ込んだ俺に勢いよくぶつかって来たのは、ジュンヤだ。
俺は勢いに負けてコイツの下敷きになったが。
「カズキ…か、スマン、助かった…」
いや、ただの偶然ダヨ?
剣を杖がわりにしてヨロヨロと立ち上がるジュンヤの先には、森で出会ったモンスターとは異なる…辛うじて人型を持っている異形の化け物がいた。
「な、なんだ…あれ…」
生物学とか詳しくない俺でも分かる。
色んな生き物の一部だけを身体にくっつけたような、チグハグで不自然で吐き気を伴う気持ちの悪い生物と言えばいいだろうか?
そんな化け物を挟むように、向こう側にはカスミとレン。
レンは魔法を撃とうとしてるけど、化け物が避けたら俺ら…主にジュンヤへ当たる事を恐れて撃つに撃てないっぽい。
カスミもダメージを負ったジュンヤの回復に近寄りたくても、化け物のせいで通り抜けられない、と。
コッチは手負いのジュンヤと特に特別な力の無い俺。
「強い力を感じるというからやって来てみれば…この程度とはな!
この俺様の一部になる価値も無いっ!」
挟み撃ちでコッチがピンチとか、無いわぁ。
ゲームなら負け戦闘で、展開を考えるなら勇者だけが生き残ったり、誰かが犠牲になって勇者覚醒もありそうだ。
まあ、あの化け物はジュンヤをロックオンしてるっぽいし、俺だけ逃げようと思えば逃げられるな。
逃げられそうにないけど。
「う、うえぇぇぇ」
そんな事をチラッと考えていたら、化け物の前にいつの間にか子供が居て、その化け物の姿を見て泣き出していた。
「逃げるんだ、坊や!!」
よろめきながらも子供に近寄ろうとするジュンヤだけど、怪我のせいで身体が思うように動けないようだ。
「うん?俺様の前に出たということは、殺していいってことだな?
よしよし、見せしめとして殺すか。」
化け物はニタリと笑い、まるでボールを蹴るようにゆっくり足を振り上げ、子供目掛けて振り下ろそうとする。
(見ているだけかい?)
心に響いた声に反応するより早く、気付けば俺は子供を掴んでいた。
って、何やってんだ俺!?
「くっそ!ジュンヤ、頼む!!」
半ばヤケ気味に子供をジュンヤの方に投げると、いきなり化け物の前に躍り出た俺に
「貴様が代わりに死ぬのか、いいなぁ、人間の情とやらは。」
化け物がニヤついた顔で俺の横っ腹を蹴り上げ、その勢いで身体は宙を舞うハメになった。
納屋っぽい屋根に叩きつけられた衝撃で屋根は壊れ、俺は納屋の中に落ちた。
「い…ってぇ…」
思わず呻いたけど、息が出来ねぇ…
目を回してるせいか、方向感覚?も分からん…
しばらく悶えていたけど、痛みは引かないし動ける感じが全くしない。
というか、意識が遠のいてきてヤバい感じだ。
ヤバい、マジでヤバい。死ぬのか、俺?!
「ぐ…死にたく…ねぇなぁ…」
思わず呟いた。
(キミに資格あり、と認めよう。)
さっきの声。
何か言ってるけど…ダメだ、ボンヤリする…
(その身に呼べ。私の力を。悪を許さぬ想いを。キミの心を。その名も…)
『ガンセイザー』
頭の中の声と俺の呟きが重なった。
◆◆◆
気付けば俺は空高くに浮いていた。
いや、ジャンプして飛び上がってる最中か。
それでも景色はハッキリ見えているし、眼下の状況も見えていた。でも不思議と怖いとか思わなかった。
そこに頭の中の声が話しかける。
(カズキ、セイザーの力は有限だ。しかし、無限でもある。
人々の声がキミの力になってくれる。
臆する事はない。キミが戦うときは決して一人じゃない。)
不思議な安心感を感じるその声に俺は
「ああ。」
と、短く返事をした。すると少しの浮遊感の後に落下が始まる。
おっと、落下の衝撃で村の人達に迷惑かけられないな。
なら、あの化け物の上に着地してやる。
やがてズドンッという衝撃を伴って化け物の頭に着地し、その反動を利用して後方宙返りで屋根の上に着地した。
突然現れた俺にジュンヤ達や村人達の注目が集まる。
ジュンヤ達は何かを察しながら戸惑っているようで、村人達は恐れるように俺を見ていた。
そういや俺の格好って…
顔は分からんが、フルフェイスのヘルメットぽいのを被ってるのは分かる。
服装は黄色のラインが入った黒いライダースーツ、ダークブルーのブーツとグローブ、首には赤いマフラー…って、完全にあの仮面被ったバイク乗りですよね!?
(問題ない、バイクは無い。)
そういう問題じゃなくてね?
「ぐ、く、キサマ!何者だ!!」
俺の動揺をよそに、ダメージから立ち直った化け物が聞いてくる。
「俺か?俺の名は…」
(正体を知られると二度と変身できなくなる。注意しろ。)
なんでこのタイミングで言うかね?
「そう、ガンセイザー。
貴様のような悪を打つ為、世界を超えて戦う者だ!」
ヒーローポーズを決めて名乗りを上げた。
「くくく、名乗りを上げるか。
ならば俺様も名乗ろう。」
化け物は何故か怒っているように俺を睨む。
やはり踏みつけたらだろうな。いや、普通にキレるか。
「俺様はダークバッシュ様率いる八陣将が一人!
凶獣のベヌデオル!
貴様を俺様の血肉にしてやるっ!」
化け物…ベヌデオル?言いにくいな。
コイツみたいなのが八人いて、その上にダークバッシュとかいう奴がいるのか。
わざわざ情報を教えてくれるとか、コイツってあまり頭良くないな。
(だが、油断は禁物だ。)
だな。
ガンセイザーになって分かったけど、アイツと俺はほぼ互角の実力っぽい。
勝てるかね…?
(弱気になるな。そして忘れるな。
もしもキミが倒れた時、次の犠牲は彼らだという事を。)
…そう言われたら、勝つしかないじゃん。
「ベヌデオル!お前達の目的がなんであれ、罪無き人達を傷付け、力無き人達を恐怖に陥れた事を決して許しはしないっ!!」
とうっ、と掛け声をかけてからベヌデオルへ飛び蹴りをするけど、当然ガードされるのですぐ離れる。
そしてコイツ、多分他の生物を取り込んで自分の一部にするっぽいから、接近戦で詰めて戦うよりはヒットアンドアウェイで戦ったほうが良さそうだ。
「フッ!ハッ!でやっ!!」
フェイントのローキックで距離を詰めて、ガードが下に向いたベヌデオルにハイキックを入れ、よろめいた奴にボディーブローを入れてすぐ距離を取る。
「ぐ、ぐっ…や、やるではないか…」
まだヨロヨロとしているベヌデオルを見ると、耐久が低くスピードも遅い一撃必殺のパワータイプか?
(カズキ、油断はするな。
追い込まれると実力を発揮する者や、奥の手を隠し持っているタイプもいる。)
なるほど、一理あるな。サンクス。
そういう事なら、油断してくれる今の内に決めた方がいいか。
なんか武器とか無い?
(自らの肉体が武器だ。恐れることはない。)
デスヨネー。
そんなら、格ゲーのあの技やってみるか。
「くらえ!」
っと!?危な!!
「チッ、ギリギリで避けやがったな。」
ベヌデオルはダメージから回復したらしく、その腕を“伸ばして”攻撃してきた。
遠距離も攻撃できるのかよ。
が、チャンスだ!
腕を伸ばしたまま、戻りが遅い。
なら、速攻で決める!
両手に力を込めて…
「一気に決める!」
俺の発声と同時に俺の拳が奴の顔に突き刺さる。
「ごは…っ」
ベヌデオルの呻きが聞こえた気がしたけど、構わずに次の拳の叩き込む。
ただの拳打じゃなく、捻りを加えた一撃、コークスクリューパンチ。
それを叩き込んだら次の拳を繰り出し、徐々にスピードを上げると、撃ち込んだ所から摩擦による炎が一瞬上がる。
打ち込むスピードを更にあげ、拳打は無数の残像を伴って奴の身体に打ち込まれた。
ベヌデオルは木偶人形のようにされるがまま。
次で…フィニッシュだ!
奴の腹にめり込むように左の拳を入れ、右脚を踏み込ませる勢いそのままに右の拳を顎へ突き上げるアッパー。
同時にベヌデオルの全身が炎に包まれ、奴の身体は中に浮く。
「鬼神烈火拳っ!!」
「ガバァッ!!」
格ゲーの技名を叫んだつもりが、セイザーラッシュに自動変換されました。
おい。
(正体に繋がるような発言は控えてくれ。)
ごめんなさい。
鬼神烈火拳…もとい、セイザーラッシュを受けたベヌデオルは、ズゥンという音と共に倒れた。
手ごたえはかなりあったけど、なぜか倒し切れた感じがしない。
でも倒れたままピクリともしない。
ジュンヤ達がホッと気を抜き、村人たちもそんなジュンヤ達を見て勝利を確信しているようだ。
俺はジッと倒れたベヌデオルを見る。
(カズキ。)
ああ、分かってる。
コイツ、ダメージを高速で回復するのか!!
「くくく…」
倒れたままのベヌデオルから漏れる笑いにジュンヤ達と村人達が戦慄する中、俺は次の手を考える。
ダメージの蓄積で倒せないなら、強烈な一撃…それもあのバイク乗りみたいな一撃必殺の決め技があれば…
(さっきの技で思った以上に体力を消耗している。
今、キックをしたところで倒し切るのは難しいだろう。)
だよなぁ。
「あ、危ない!」
ジュンヤの声に反応して横へ転がれば、俺が立っていたところに地中から伸びた蔓のような鞭が叩かれる。
「あ!止まっちゃダ…」
続いてカスミの声に反応するよりも早く、さっきと別の蔓の鞭が叩き付けるかのように俺の体に巻き付いた。
やばっ!
「しまった!?」
「くくく…ははははは!!
捕まえたぞ、ガンセイザー!!」
ベヌデオルがゆっくりと立ち上がる。
蔓が地面からボコッと出てくると、その元はベヌデオルの左肩の後ろからニョロニョロとうねっていた。
「素晴らしいぞ、ガンセイザー。想像以上に強い。
だが、貴様はこれから俺様の一部となって、そのチカラを振るうのだ。
どうだ、嬉しかろう?」
そう言ったベヌデオルの腹がガバッと割れた。
その中は生き物の持つ色合いじゃなく、汚れたような濃い緑色をしており、他に牙のようなトゲがビッシリと生えていて気色悪い。
「ぅ、ぉぉぉおおおお!!」
当然、喰われたくないから蔓を千切ろうと力を込めてみるけど、他の蔓も巻き付いていて千切ることが出来ない!
くっそ!
「精霊剣、アースブレード!!」
その声と共に、俺とベヌデオルの間に巨大な岩の剣がズドンと振り下ろされ、その衝撃で蔓の縛りが僅かに緩む。
当然この機を見て蔓から脱出し、俺を救ってくれた人物ジュンヤを抱えて距離を取る。
もちろん、カスミとレンの側に。
「すまない、助かった!」
「いえ、少しでも力になれて良かったです。」
俺だと分かってないからか、丁寧語で話すジュンヤに若干の違和感。
(それは失礼だぞ。)
う、そうだな。
「おのれ!俺様の邪魔をするんじゃねぇ!!」
ドスドスとこちらへ駆けてくるベヌデオル。
「させない!ストーンウォール!!」
レンの声に反応して俺達とベヌデオルの間に大きな石の壁が出来て、止まれなかったらしいベヌデオルがゴッという音を立ててぶつかったようだ。
そして意地になっているのか、或いは向こう側で奴を囲んでいるのか分からないけど、ベヌデオルはその石壁を壊そうとしている。
そういえば…
「どうして二人は大地の魔法を?」
そう、ジュンヤもレンも咄嗟に使ったにしては、かなり強い感じがした。
俺の質問に二人共自分で分かってなかったのか、少しだけ首を捻ると素直に答えてくれた。
仮面被った不審者なのに。
「俺はただ、土の精霊が力を貸してくれて…」
「なんとなく?コレの方が硬いかなって。」
レンはともかく、ジュンヤは新しく力を得たらしい。
(なるほど、精霊信仰か。)
ん?どういうこと?
(憶測でしかないが、この村の奉納祭の相手は神ではなく、精霊なのではないか?)
あー、確か神様じゃないけど村を見守ってくれる存在がいるとか、聞いた覚えがあるような?
(恐らく、奉納祭を邪魔した魔物を退治したことで、精霊が力を貸してくれたのではないか、と推測するが。)
なら、俺とカスミは?
(カスミという少女は分からないが、君の場合は私がいるからだろう。
ただそれなら奴を倒す手立てはある!)
マジか!どうすればいい?
(ああ。まずはジュンヤの精霊剣アースブレードをその身に受けるんだ。)
オッケー!!…って、死ぬわっ!!!
(正確には触れるだけでいい。後は私がサポートしよう。)
あ、なるほど、何となく分かった。
「剣を持つ君に頼みがある。」
「お、俺ですか?」
「このままでは勝つのは難しいだろう。
君に協力してくれる精霊の力を、俺に貸して欲しい。」
そう言うとジュンヤは不安そうな顔をする。
「確かに敵は強い。
でも大丈夫だ。必ず勝てる。
君と、精霊が力を貸してくれるならば。」
俺が言うと、横のカスミとレンがこちらを向いていた。
「わ、私も力になりたいです!」
「勝てるんなら、なんだってやる。」
(良い学友だな。)
茶化すな。
「あの…ガンセイザー様、わ、我々も何かお手伝い出来ることは…?」
気付けば近くに村人達も居て、協力したいとそれぞれが申し出た。
ちょっとグッと来たのは内緒だ。
「信じてくれ。俺が勝つと。
皆が信じてくれるなら、俺はどんな悪にも負けない!
だから、信じてくれ!」
そんな事で勝てるのか、という思いがあるのか、ほとんどの人たちが騒めく中、一人の子供が俺の前にやってきた。
…さっき、俺が助けた子だ。
「やっつけて、ガンセイザー!」
先程まで涙を流していた子供は、不安だろうに俺を応援してくれた。
「ありがとう。必ずやっつける、約束しよう。」
そう言って俺は膝を折って子供の目線に合わせ頭を撫でると、子供は笑顔になって母親の元へ駆けて行った。
それを皮切りにしてか、戸惑いながらもカスミ達や村人達も「頑張れ」「必ず勝ってくれ」「お願い」と一言告げて家屋に戻り様子を伺っていた。
「ガンセイザー…さん?」
「ガンセイザーと呼び捨てて構わない。」
ジュンヤが恐る恐る、といった感じで話しかけてくる。
「君は先程使ったアースブレードを使い、俺はその力を受け取る。
そう、二人の力を合わせて奴を倒すんだ!」
俺が言った言葉になにかを感じたのか、ジュンヤは剣を掲げて『アースブレード』を発動させた。
「今です、ガンセイザー!」
ジュンヤの声に俺はアースブレードに手を添える。
(大地の力を強く感じる。イケるぞ。)
『異界の戦士カズキよ、貴方も我が子らの恩人の一人。ようやく声が届いたな。
大地の精霊たる妾も力を貸そうぞ。』
頭に響く声の他に、大地の精霊を名乗る女の人の声が聞こえた。
(なんと心強い。行くぞ、カズキ!)
おう!
「フォームチェンジ!」
天に掲げた掌に収まる砂色の球体…大地の精霊の力を充分に発揮出来るよう胸の位置に持ってきてゆっくりと握り潰すように俺へと馴染ませる。
するとグローブとブーツは緑色に、身体に走るラインは黄土色に変わった。
多分、仮面も変わっているだろうけど、俺からは見えない。
「ランドセイザーッ!!」
形態変化を終えたところで、石壁にビシッと大きな亀裂が入った。
出てくるか!
俺はジュンヤの方を見て頷くと、ジュンヤも分かってくれたのかその場から離れていく。
「ガアァッ!!」
ガラガラと崩れる石壁の向こうから現れたベヌデオルも、その上半身を大きく肥大化させており、より生物としての気味悪さが際立っていた。
「もう許さんっ!貴様諸共全て喰らってくれる!!」
キレている為か、俺の変化には気付いていないようだ。
「そうはさせない!」
そう言った俺は、相撲の四股を踏むように脚を振り上げては激しく大地に降ろし地響きを起こす。
「ぐっ?!」
ベヌデオルは揺れに気付いたようだけど、もう遅い!
奴の背後に土の柱が伸び、そこから植物の蔦が手足と腰を縛り浮かせる。
もがいても蔓は伸縮自在で、引きちぎることは出来ない。
(今だ!)
俺は屋根よりも少し高くジャンプすると、一度小さく身を屈めて、叫ぶ。
「クラッシュハンマー!」
声に反応して、右足の膝辺りまでメタリックの輝きを放ち、強い力を感じる。
イケる!
「キィーーック!!!」
トドメの一撃となる最後の叫びと共に、俺は勢いよくベヌデオル目掛けてその胸にキックを放つ。
「ぬおぉぉ…?!!?」
なんとか耐えてるみたいだけど!
(我らの勝利だ。)
「ばっ、バカなぁぁぁ!」
俺の放ったクラッシュハンマーキック(名付けは即興)は奴を貫き、ベヌデオルを縛っていた柱もろとも破壊した。
ズザザザァァ、と地滑りしながらも立ち止まり、俺はベヌデオルを見る。
その巨体の胸には俺が開けた穴。
「だ、ダークバッシュさ…ま」
奴はゆっくりと膝をつきながら、まるでスローモーションのように倒れこむと上空に向かって爆散した。
(終わった、な。)
そうだな。
というか、キックかましただけで疲れたんだが?
(フォームチェンジした上に今の一撃に全力を注げば、如何にガンセイザーでも体力の消耗は激しい。
そして体力を使い切れば、変身が解けてしまう。
その辺りは今後の課題だな。)
つまり、体力を温存しつつ戦って、隙を見て必殺の一撃を入れればいい訳か。
(概ねその通りだ。)
「ガンセイザー!」
ジュンヤが駆け寄ってきた。
同時に大地の精霊の力が彼に戻って、フォームチェンジが解ける。
見れば村人達も歓声を上げながら家から出て、喜んでいるようだ。
「ありがとう、君が力を貸してくれたお陰で奴を倒すことができた。」
俺が握手しようと手を差し出すと、ジュンヤは暗い表情を見せる。
「いえ、俺なんて…早々にやられて、貴方のサポートしか出来ませんでした。」
コイツはコイツで凹んでる訳か。
「後ろを見るといい。」
俺の言葉にジュンヤは疑問を浮かべながら振り向くと、カスミがジュンヤに飛び付いた。
「良かった…ジュンヤが無事で良かったよぉ!」
「カスミ…」
涙を流すカスミに戸惑っているジュンヤの額に、ワンテンポ遅れてレンがチョップをする。
「カスミを泣かせんな!」
「ご、ごめん…」
その光景を見てフッと笑うと、
「強くなりたいなら、後ろを振り返るといい。
そこに守りたいものがあれば、人は誰でも強くなれる。」
俺の言葉…ではなく、俺の代わりに喋ってくれる心の声をそのまま語る。
「大事なのは勝ち負けではなく、生きて守り抜く事だ。分かるかい?」
「それは…」
「でも君は突然得た力を過信し、無謀にもベヌデオルに挑んでしまった。
共に肩を並べる仲間を見ずに、君の背に誰が居たのかを知りもせずに、だ。」
「……はい。」
「誰が殺されてもおかしくない状況だった。
その為に幼子を危険に晒し、その幼子を庇った君の仲間が怪我を負った事を。」
「!」
そういや、俺、蹴り飛ばされたな。
ジュンヤの言葉にカスミとレンも思い出したかのように「あ」と声を出し、俺が落ちた納屋っぽい家に目を向けた。
泣くぞ、おい。
「忘れるな。真の強さとは、絆を紡ぐことだ。
君だからこそ得られる力だ。」
「…はい!」
力強く返事をしたジュンヤは二人を連れて納屋へと駆けていく。
(変身を解くなら今だな。)
そうだな。
◆◆◆
視界が一瞬白くなったと思った…ら?!
「ぅ…ぉぉぉおお?!」
痛ええぇぇぇっ!
(変身してる状態は、戦う為の一時的な状態だ。
解けば元の場所、状態に戻る。)
さ、先に言ええぇぇぇっ!
ぬおおおぉぉぉ…
「カズキ!」
「カズキくん、大丈夫!?」
「生きてるかー?」
程なくしてやって来た三人に助け出され、俺の怪我を見たジュンヤとカスミがすぐに駆けつけなかった事を謝りながら回復魔法による治療を受けた。
なかなか回復しないな、てか、治りが悪いのはセイザーの力に阻害されてるからか?
(その通りだ。恐らく他の魔法でも同じだろう。)
なるほどな。
表向きは魔法阻害のチートって事にしとこうか。
(それがいい。)
それから俺たちは元の世界に戻る為、各地を巡り、ある遺跡で戻れる可能性が精霊にある事を知り、火と風と水の精霊会う事が出来た。
道中には二人の仲間ができたけど、ダークバッシュの配下である八陣将、それ以上の強さを持つ四天王まで現れた。
最初のうちこそ、ガンセイザー頼りだったジュンヤも八陣将のみならず、四天王すらも超える実力を身に付けた。
カスミもレンも、ジュンヤに続く形で実力を付けた一方で、俺はガンセイザーに変身しない限りは凡人の枠を出ない実力だった。
当然、その事で仲間二人には責められたけど、せめて斥候として活躍しようと死に物狂いで頑張った。
まあ、その実力もお察し程度だけどな。
更に旅を続けて二年、俺がガンセイザーになってからは三年が過ぎようとした頃、光と闇の精霊に会うことが出来た。
二人の話を繋げると、大精霊なら異世界に旅立つ事も出来るかもしれない、という事を知る事が出来て俺らの旅の大きな前進となった。
が、闇の精霊の一言で、俺達はダークバッシュに因縁を持つ事になった。
大精霊がダークバッシュによって封印された、と。
いかがでしょうか?
楽しんで頂けたら幸いです♪