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雪が降るまで異界でともに。  作者: イルミネ
第一章:始まりの街
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這う恐怖

少し長いです。

読み応えあると思います。

「よくやったな。 お前の勝ちだ。 」


「俺の…勝ち…? 」


「ああ。 お前の勝ちだ。 目的は血を採ることだったからな。 」


ああ。 そうだった。 本来の目的はそれだった。

目的は果たせたはずなのに、 何かこう、 力が抜ける感じだ。


「ところで 」


どこか拍子抜けな俺にセノは尋ねた。


「ところで、 お前さっき急に強くならなかったか? 」


怪訝(けげん)そうな瞳を じっ と向けられるも、 俺にも答えようが無い。

確かに急に新しい魔法が使えたり、 動きが格段に良くなったり、と自覚症状はある。

だが、 それがなぜなのかと()かれても解らない。


それでも自分なりの答えを出そうと思案にくれていると


「まあ… 、 わからないなら仕方ない。 」


続けて


「それも、学園に着けば判るかもしれないしな。 」


と、それ以上の追求をしなかった。



「…さて、 目的も達成出来た。 あとは、 無事に着くだけだな。 」


セノが言った。

それに対して、 湧き上がってきた感想をどうしても拭えなかった。


「セノ、 そういうこと言うと、必ずと言っていいほど、 道中が安全じゃなくなるジンクスがあるですよ。 。 」


そうなのか? と聞き返しながら銃を収める彼の表情に不安の色は無い。


「では、 何も起こらないうちに出発しようか。 」



ほんとに大丈夫かなあ、と言う疑念はひとまず置いといて、自分も剣を収めた。

休憩を入れたいのが正直なところだが、 ド派手な戦闘を(おこ)したこの場を留まるのは、 ネギを背負ったカモだ。


セノに並び、歩き始める。



道中、疲れからか自分たちの足音が時折聴こえなくなったが、その時はまだ気に止めなかった。



「もうじき森を出れるぞ。 そうしたら 学園も近い。 」


とセノが言う間にも、もう森の境 - 外界の光 は目と鼻の先だ。


はあ、やっと出れた!


と思いたかった。


「 「…え? 」」


森を出た自分たちのすぐ目の前に、



二体のドラゴンが居た。


一体は、先程対峙した個体とは比べ物にならないほどに巨大すぎた。

加えて、先程のヤツとは似ても似つかない禍々(まがまが)しい見た目と雰囲気を(まと)っていた。


もう一体は先程の件の奴だった。

確かにそいつだと判った。

首元に一筋の傷があったからだ。


だが、 翼の所々が破れ、鱗も大きく剥げていた。


誰にやられたのかは一目瞭然だった。


四肢の骨も数本折れているのだろう。

ふらつきながら、それでも必死に立ち向かおうとしていた。



しかし、立ち上がることが出来ずその場に倒れ込んでしまった。


「あ…! 」


思わず発した声をセノが手で遮る。

その手は震えていた。

人間の手はこんなにも震えるのか。


顔を見れば完全な蒼白。 唇も見たことがないほどに震えていた。


その恐怖の対象は、家ほどもありそうなその巨大すぎる足で、満身創痍(まんしんそうい)のドラゴンを力強く踏み、飛び去った。


踏まれたドラゴンは、背骨が原型を留めぬくらい折れたのだろう。

骨の破砕音がその場に広まったが、 対する翼-羽ばたきの轟音に掻き消された。



その飛姿はまるで、暇つぶしに飽きたとでも言っているようだった。



本能的な恐怖が過ぎ去り、俺たちはドラゴンの元へ駆け寄った。


目は既に半分以上が白く、傷だらけの勇体は見ているだけで痛々しかった。


それでもドラゴンは立ち上がろうとする。


そして、 立ち上がれず、崩れ落ちた。


同時にさらに骨の折れる音がした。


ドラゴンは鳴かなかった。



「楽に…、してやろう。 ナナ、手伝ってくれるか。 」


俺は無言で頷いた。


それぞれ銃と剣を構える。


「ユースリープ」


セノの銃口から発せられた温かな光がドラゴンを深く包んだ。


ドラゴンがゆっくりと倒れ込む。


「眠らせただけだ。ナナ、介錯(かいしゃく)を頼む。 」


俺はドラゴンに歩み寄った。

まだ体温の残る肉を切る(ぬる)い感触。

頑丈な骨。

さすがに刃の方が強かった。


味わうつもりが無くても、手にしっかりと伝わってくる。


躊躇(ためら)いを捨て、 剣を振り抜いた。

鱗がびっしりと生える大きな頭が、 首の根元からぼとりと落ちた。



「ごめんな。 」



(のこ)された俺とセノは、静かに手を合わせることしか出来なかった。

こんにちは。

イルミネです。


読んでくださりありがとうございます。


生き物の命って、結構あっけなく散ってしまいますね。小説に限らず。


だからこそ、出会いは大切ですね。


さて、次回の更新は30日の土曜日、午後6時頃を予定しています。

次回もよろしくお願いします。

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