発現
「よし、ナナ、今だ!」
俺は勢いよく草陰を飛び出した。
狙うのは首の付け根。
本気で倒しに。
数歩の助走の間に剣を両手で持ち直す。
勢い充分。
(いける! )
「はあああぁぁぁぁ! ! ! 」
気勢にも満ちた。
狙いは
「ここ、だあぁぁ! ! 」
全力で振り下ろす剣がドラゴンの首元を大きく切開…!
しなかった。 それどころか鱗に皹すら入っていない。
剣筋はまっすぐだったはずだ。
途端、恐怖に包まれた。
つい先程ドラゴンに潰されそうになった時にも恐怖はあった。
だが、動けるなら勝てるかもしれないという希望もあった。
しかし今は違った。
攻撃が通らない。
それは自分の敗北、すなわち死に等しかった。
「くそっ…! くっそっ…! 」
何度剣を叩きつけてみても、強固な鱗には傷一つ付かない。
「ナナ! バインドが解ける! 下がれ!」
あ、離れなきゃ。 下がらなきゃ。
下がる。 さがる。 サガル?
あれ? 『下がる』ってなんだっけ?
どうすればいいんだっけ?
思考はまさに混乱を極めていた。
そのために反応に遅れてしまった。
「ナナ! 」
気づいた時には、すでにドラゴンの爪は眼の前にあった。
世界がスローモーションになる。
脳裏に浮かぶのは、数時間前のゴブリンか。
(走馬灯ってやつか… )
ああ。 視界の端から誰かが出てきた。
あれ? こんな光景、前にもなかったっけ?
そうだ。 あれは確か…
「っ…! ! セノッ! ! 」
世界に速さが戻る。
突如として目前に現れ、身を挺して俺を護るセノを ぐっ と引き寄せる。
離れなきゃ。
でも、これで両手は塞がってしまっている。
なら
( 脚だ )
「バーストッ! ! 」
脚の先に小さな爆発を起こす。
その衝撃を利用して、大きく後ろに跳び、ドラゴンの爪攻撃を回避する。
倒れるのはなんとか踏みとどまることが出来た。
セノは目を丸くしていたが、すぐに平常の鋭い眼を取り戻し言った。
「眼が変わったな。 」
そして、そこに不敵な笑みを浮かべ、
「次は行けるな。 」
俺は、ああ、とだけ応えた。
剣を両手でしっかりと持ち直す。
剣尖はドラゴンの首。 好機をうかがう。
だがしかし、ドラゴンの警戒心はMAXだ。
攻撃直後だ。 ある程度は仕方ない。
そしてこれを逃せば、勝ち目はなくなる。
(なんとしても決める。 )
そう覚悟が決まったとき、 ドラゴンも再び爪をこちらに向ける。
が、爪での攻撃ではなく、 むしろ何か踏ん張るために大きく一歩出した感じだ。
ドラゴンの首が仰け反る。
「ブレス来るぞ! 避けろ! 」
その声のわずか二秒後にドラゴンが、文字通り火を吐いた。
避けれない。
そう判断した俺は体勢を低くし、 最大限の力を込めて地面を蹴り出した。
「バースト! 」
叫んだ言葉が体を加速させた。
つんのめりそうな、強烈な勢いのままブレスの下を潜る。
頭頂や背中が熱い。 が、そんなことも気にせず進み続ける。
(ここだ! )
攻撃を避けながら、首元にまで到達した俺は剣を地面に刺して勢いを殺した。
身体が持っていかれそうになるのを堪え、剣を抜き、思い切り斬りつけに掛かる。
だがコイツの鱗は硬い。 それは判っている。
(それなら )
剣を加速させれば!
「バースト! ! 」
声高く叫んだ二度目の詞は剣を加速させ、 強固な鱗に攻撃を加えた。
まだ硬い。 鉄筋コンクリートをカッターナイフで切ろうとしているのかと思うくらいだ。
だが、わずかな手応えも感じた。
もう少しだ。
「う、おおおぉぉぉ! ! ! ! 」
気合はさらに剣を加速させ、ついに鱗が割れた。
そのまま押し込む。
グルオオオォォォォオオオ
半分近くまで切り込んだところで、ドラゴンは身を翻した。
「ごふっ…! 」
尻尾の一閃がモロに入った。
体が吹っ飛ばされる。
数メートル飛ばされた先でセノに止められた。
声をかける間もなく
「吸血弾 」
そう言いセノが放った弾丸がドラゴンの傷口に直撃した。
が、貫通せず、 ポトっとその場に落ちた。
「…へ? 」
呆気にとられたその一瞬の隙に、ドラゴンは飛び去ってしまった。
ドラゴンの姿が完全に見えなくなると、セノはその弾丸を拾った。
真紅に染まる小さな球体をこちらに見せる。
「血は採れた。 よくやったな。 お前の勝ちだ。 」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
イルミネです。
ドラゴンとの戦闘に決着がつきました。
それにしても、、
ナナ、急に強くなりましたね
新しい魔法も使ってるし…
こいつの魔力は何なんでしょうか(笑)
さて、次回の更新ですが、23日の土曜日午後6時ごろを予定してます。 またお越し下さいませ。