初陣
「ナナ。 あそこにゴブリンの群れがある。 行けるか? 」
俺は黙って頷く。 剣を持つ手にもしぜんと力が込もる。
- 俺が選んだのは諸刃の片手直剣だった。 装飾は少なめで、デザインに凝っているわけでもない。 申し訳程度に長い鍔が、漂うビギナー感を強調していた。
その駆け出し冒険者風の見た目に、なんとも言えず心惹かれた。
軽く振ってみた感触が悪くなかったのも決め手の一つだった。
同様に男 - セノ も一振り、やや小ぶりな直剣を手に取っていた。
彼はそれとは別の " 何か " も腰に装着したようだが。
同じくして受け取った材料リストには四つの材料が書いてあった。
その一番上、ゴブリンの角 を最初に入手しに
行く事にしたのだ。
そして、難なく群れを見つけ、今に至る。
「狙うのは奥の角持ちだけでいい。 思いきり行け! 」
セノの張った言葉と同時に地を蹴る。
景色が後ろに流れていく。
脚の回転が速くなって、
肌に当たる空気が冷たくなっていく。
ギギィ?
ゴブリンがこちらに気づくより一瞬早く
伸ばす刃が相手の肩口を切り裂いた。
緑の血飛沫が迸る。
生温い鮮血が顔にかかっても勢いは緩めない。
力の抜けた死体を跳び越えて、空中で大きく身体を捻る。
剣に " 溜め " を持たせ、そのまま弓が矢を放つ如く、最大の勢いで刺し貫く。
狙うただ一点へ。
ガッ と鈍い音。
続けて
ザリザリと肉を抉る嫌な音。
「うおぉぉりゃぁあああ! ! ! 」
強く張った気勢でかき消し、さらに剣を押し込める。 剣の矢は標的を完全に貫通した。
勢い余って、そのまま地面に倒れ込んだが、目的は果たせた。
目的は果たした、がここは敵地のど真ん中だ。
突如として、仲間を二体も斬り伏せた異端分子に報復が集中する。
それは剣。 それは槌。 それは鉈。
形は違えど、どれも大振りで、
( 単調だ。 )
避けられると思った。
それはその通りだった。
( 右、左、右右、左、 )
時には体を回転させて攻撃を避けていく。
が、それでも素人だ。
背中に鈍器の重い一撃を食らってしまった。
滲む視界、 歪んでいく世界の中、 ゴブリンたちがここぞとばかりに大上段に構えをとっているのが見えた。
その全ての攻撃が当たる寸前、 視界下方から剣が一閃して斬りあがっていった。
ゴブリンの全ての攻撃をただ一刀で弾いたその剣の主は、
「セノ ! 」
「よくやった! あとは任せろ! 」
そう言うと彼は剣を手放し……
ん……?
放した! ?
「 え、 ちょっ、 おい、 剣…! 」
「そんなに慌てるな。 まあ、見ていろ。 俺の本職は 」
彼の両手が腰の " 物体 " に伸びる。 そして、それぞれが別の形を掴んで左右に広がる。
「俺の本職は、 、 銃だ…! 」
そう言って銃を構えたのと同時に、詠唱を始める。
黄色に輝く文字列が彼の周りに浮かび上がっま。
ゴブリンたちは攻撃を止めなかったが、 不思議な文字列に全て食い止められていた。
「ユースリープ」
一瞬の事だった。
セノが詠唱を終え最後の一言を唱えた瞬間、 銃口に文字列が凝縮し、光の玉となって、そして破裂した。
光は粉となってその場を包み込み、 そして、 ゴブリンたちがばたばたと倒れていく。
「ぜ、 全…滅 。 」
「殺してはない。 眠っただけだ。 角を取って、 次に向かおう。 」
ЖЖЖ
「次はドラゴンだ。 」
こんにちは。
イルミネです。
読んでくださりありがとうございます。
主人公くんの戦闘シーンを書いたのはプロローグ以来ですね。
そして今回、ナナは魔法を使いませんでした。
代わりにセノが範囲攻撃を放ってましたが(笑)
さて、次回の更新ですが
1週間空けて、12月2日の土曜日 と考えています。
次回も読んで頂けたらと思います。