黒塗りの世界
どこかわからない暗い場所。
風の音も聞こえる。
しかし、風は自分に当たらない。
伸ばした手が壁を触った。
よく見れば、建物。 ビルだろうか。
どうやら、それなりに高い建物群に囲まれているらしい。
足下が良く見えないため、壁伝いに手探りで進んでみる。
どれくらい歩いたか。
微かな光が見えてきた。
光目指して走り出し、
光の刺さない闇から抜け出した。
闇から抜け出たそこは、 、 街だった。
街道に人通りは多く、さらに店のような小さな建物もあった。 確かにあったが、それらは近未来的な暗さに包まれていた。
天を覆うビル。
点滅するネオン。 露店の人々の怪しげな活気だけが、申し訳程度の明るい雰囲気を持っていた。
薄暗く高くそびえるビルと敷居が低く和やかな露店。
ビルに寄り添うネオンと露店に寄り掛かる立て看板。
まるで違うもの同士だが、街全体としては妙な調律がある。
と、風景を眺めている場合ではなくて、自分がなぜここにいるのか、ここはどこで自分はどこから来たのか、戻る方法はあるのかなど、山積みの疑問を解決しなくていかなくてはならない。
すると、ガタイが良く髪は短く刈り上げた、30代前半といった風貌の男が声をかけてきた。
「あんた。 …ちょっといいか。 」
男はじろじろと無遠慮に上から下まで瞥する。 突然の変質行動とその対応に困惑していると、
「…ついてきてくれ。 」
「…は? おい! ちょっと! 」
戸惑う自分をよそに男はずかずか歩いていく。
何一つ良くはないが、 どうやら付いていくしかないようだ。
どこに連れていかれるのか、 何をされるのかとビクビクしていると、男は大きなビルの入り口の前で止まった。
「ここの最上階に行く。 身なりくらいは軽く整えておけ。 」
そう言って、すたすた中に入っていってしまう。 言われるがまま、簡単に服を整え、男に続いてビルの中に入っていく。 ちょうどエレベーターが来たようで、二人で乗り、上に上がる。 ゆっくりと上昇していく箱の中、いまさらながら電気が通っていることに驚いた。 思い返せば、このビルの入り口もガラス張りの自動ドアだったし外の点滅ネオンで気づくべきだった。
そうなことを考えているとエレベーターは16階を表示して止まる。
「ここだ。 降りるぞ。 」
黙ってそのまま後を付いて行く。
一本廊下を通り抜けると、女社長を彷彿させる背筋の通った小柄な女性が見たまま社長室の椅子に座っていた。 目元や頬の皺からすると、それなりに歳はいっている感じだ。
「お婆。 例の魔女っ子から報告のあった男を連れてきました。 」
「はいよ。 お疲れさん。 」
「じゃあ、俺は持ち場に戻ります。 」
「…え。 ちょっと! 」
男はすたすたと戻ってしまう。
意味がわからない。
どうしていいか解らず一人あたふたしていると、
「魔女っ子から報告を受けてはいるが」
お婆、と呼ばれた女性は言いかけた言葉を区切り、目を合わせ、透かすように目をすぼめる。
頭や身体、その隅々まで見透かされているような不思議な視線。
それから、ほぅ、と一息つけてから言葉を立て直した。
「なら、手続きから始めようかね。 …なに、後でちゃんと説明はしてやるさ。 今は正直に質問に答えておくれ。 いいかい? 」
しぶしぶ頷く。
まるで買ったばかりのゲームをしているようだ。
「まず、名前は? 」
「ああ、名前は…。 」
答えかけて、はっとする。
思い出せない。
あれ、今までなんて呼ばれてたっけか 。 。 なんて名乗っていたっけか…?
全く憶えてない。
仕方なく正直に、憶えてないと言う。
「なら次だ。 職業と経歴は? 出身地は? ここに来る直前の記憶は? 」
「職業はわからないですが、 断片的に学校のような記憶があります。 服も…、着てますし。 ほかは全く。 経歴もわからない…です。 」
「オーケー。 これで手続きは終わりだ。 しかしまあ」
女性は例の視線で俺を一瞥すると、それまでの堅い雰囲気とは打って変わって優しい雰囲気に包まれた。
その女性曰く、
俺はこの世界とは違うどこかから飛ばされて来た者-いわゆる異世界転移だ。 しかし、 魔気(魔力のようなものだろうか)の使いすぎで記憶を失っている。
記憶が無いために、どこから来た誰なのか、何一つわからないそうだ。
改めて、断言出来るのは、 自分はこの世界に初めから存在していた訳ではないということ。
自分の予想はおおかた合っていたらしい。
(異世界転移ってやつちゃう? )
誰かの言葉が脳裏に浮かぶ。
黒い影だ。
あいつは、誰だ?
「ふうぅ~~」 と女性のため息で意識はこちらに戻ってきた。
続けて曰く、
名前くらいはあった方が良いだろ。 うーん、そうだね。 名無しから取って、、『 ナナ 』 でどうだい。 女っぽい名前かもしれないけど、仮染のものだ。
本当の名を思い出したら教えてくれ、ナナ少年。
それと、あたしのことは長老とでも呼んでくれ。
そこまで聞いて、目の前が突然真っ白になっていった。
(ああ、これがホワイトアウトか。 )
なんて場違いな考えが浮かんだところで、俺の意識はぷつんと切れた。
ЖЖЖ
柔らかい感触に包まれている。
(…こ、こは…? )
「…おう。 目ぇ、覚めたか。 」
どうやら、ソファーで寝ていたようだ。
隣の椅子には、さっきの男も座っている。 まだ頭はふらつくが、状況を尋ねてみる。
男曰く、俺は長老の魔気に当てられて障ったらしい。
「まあ、今日はもう遅い。 休め。 宿、、
部屋は用意してやる。 」
こんにちは。
イルミネです。
大した進展がありませんでした。申し訳。
次回の更新は23日の木曜日に出来ればいいなと。