風をまとう少女
「や…やめ、…くるな…くるなぁぁぁ! !…! 」
追い詰められ地を這う人間の言葉に、怪物は聞く耳など持たず、断末魔の主へ、巨大な棍棒が遠慮容赦ない力強さで降りかかろうとする。
刹那。
「エアぁぁぁ! ! バレットぉぉぉぉ! ! 」
後方から澄んだ女性の声が響く。
同時に、拳よりひと回りほど大きな空気、
正確に言えば風の球のようなものが駆け抜ける。
その威力は、たった一撃で怪物の巨体を軽々と吹き飛ばすほどのものだった。
「大丈夫ですかー! ? 」
女性が走り寄ってくる。 同い年くらいだろうか。 見た目に釣り合わないほど大きなふち帽子、 風になびくローブ、 右手に握る小さな杖も、御伽噺の魔女を彷彿させた。
女性のその質問に応えたのは俺ではなく
「グ…ガ…ゴォ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! ! ! ! 」
「…ッぅ! あんた、じゃ! ないっ! ! 」
「ファイア! 」
女性の気合いと共に、杖から炎が駆け抜け、そのまま怪物を呑み込む。
「ゴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…! ! ! 」
野太い雄叫びはさながら命の灯火のようで、怪物がその場に倒れたのとその目から光が消えたのは同時のことだった。
女性は、ふぅ、と一息つくと
「ありがとうございました」
怪物の死体に軽く頭を下げた。 供養、のつもりだろうか。
女性の強さと自分の状況を省みて、 ああ、しっかりした人なんだなと、俺は勝手に自己完結させるしかなかった。
「それで、あなた達は何をしてたんです? 」
あなた達、 と言うのは、俺と俺の後ろで気を失っている連れのことだろう。
俺は正直に、気づいたらここにいたと答えた。
すると彼女は、
「気づいたら… ここに居た…? 」
俺の返答を反復しながら、怪訝そうな顔でこちらを見つめ返した。
いや、正直に言えば、さっき答えは出ていた。
いわゆる"異世界転移"というやつだろう。 直前の記憶は無いが、ぼんやりと、ここではない " どこか " の世界で生活していた記憶はある。 しかし、そんなことを言っても伝わらないだろうから、 胸に留めるだけにした。
「まあ、いいわ。 」
彼女は彼女で自己完結させてくれたようだ。
そして、相変わらず連れが目を覚ます様子はない。
「この先に」
彼女は何かを思い出したように口を開く。
「この先に、この先の町に、そういう…記憶とか? 思考とか? に結構詳しい人がいるんです。 そこにいけば何かわかるかもしれないですよ。 ただ…」
彼女は言葉を止める。 俺は聞き返す代わりに、首を少し傾けた。 彼女は一瞬考えるような素振りを見せ、再び口を開いた。
「歩いて向うとなると、結構遠いんですよね。 。 」
「あ、そうだ! 一か八かですけど、転送魔法使ってみますねっ! 」
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こんにちは。
イルミネです。
"主人公誰やねん"状態から脱却出来ておりません。申し訳。
出来れば、明日の6時か8時で次の話を投稿しようと思ってます。 できたらいいな。