プロローグ
…。
……。
「なあ、 ここどこやろな…? 」
「さあ? どこなんやろうな…。 」
「少なくとも、 学校ではないわな。」
「そりゃあ、まあ、、、見ればわかるわ。」
一面の草原。
木も数本視界に写るが、だいたいは草だ。
背後から吹く風が、足下の靴ほどの高さの草を揺らす。 制服の裾や首に巻いた薄手のマフラーも、つられたようになびいている。
場違いにもある台詞が浮かんできて、 言うべきか言わざるべきか。 悩んだ結果言ってしまうのは血筋か。
「今日は風が騒がしいな。 」
沈黙が走る。
「…ごめんなさい。言いたかったんです。 我慢出来んかったんです。 」
横で、ぷっ と吹き出す声が聞こえた。
次いで、はっはっは っと 笑う声も。
「せやな。 どうせ、真面目に考えてもわからんわ。 」
「なあ、これ、いわゆる異世界転移ってヤツじゃない? ちゃうかな? 魔法とか撃てたりして! 」
と、笑いながらも案外的を射た発想を出してきた。
驚いたのは、魔法についても本気で言っていたようで、腕を伸ばしたり指で印を結んだりしていた。
何か呪文とかも要るよな、とブツブツ言いながら、動きを休めようとはしない。
「…ファイア! 」
安直かよ、とツッコミを入れようとしたが、伸ばした手からホントに火が出てしまった。
「うわ! 出よった! 出よった! うわ! あっつ! あっつ! 」
…騒がしい奴だ。
彼の足元で燃える火は、わずか数秒で消えてしまったが、その衝撃はいつまでも心に残っていた。
火が消えると同時の彼のドヤ顔。
お前もやってみろと言わんばかりの顔。
そこで俺も手を前に伸ばしてみる。
呪文的なものが浮かばなかったので、 丸パクリして、ファイアと呟く。
同じように火が出た。
が、手を前方に向けたせいか、はたまた後方からの風のせいか、火は遠く飛んでいく。
「…どこ行くねーん。 」
とボソッと入れたツッコミに対しやや食い気味に
ガゴォア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!
という鈍い怒号が被さる。
「 ■■■、やらかしたんちゃう? 」
横から心配の声が上がり、前から怪物が走ってくる。
「…どうやら風が良くないものを運んで来ちまったみt… 」
「言うてる場合か! 逃げるぞ馬鹿! 」
しかし、逃げようとした時にはもう怪物はすぐそこにいた。 身の丈の倍ほどもありそうな巨体とその迫力に圧され、脚が竦む。
怒る怪物はこれまた巨大な棒を振り回す。
二人に振り下ろされる丸太のような棍棒。
咄嗟に、それぞれ左右に避ける。
その棍棒が地にめり込む。
振動によろけて転びそうになるが、何とか踏みとどまる。
が
踏みとどまったのが運の尽き、動けない所に丸太が襲いかかる。
あ、これ死ぬわ。 おかんごめん。
と覚悟を決めたとき、棍棒を追い抜く速さの友人に突き跳ばされる。
! ? ! ? ! ?
刹那
棍棒 が 友人 を 捉え
鈍い音 を たてながら
友人が地面を転がった。
…。
…っ!
怪物はすでに次の一撃の動作をし始めている。
狙いは、
地に横たわる獲物だ。
助けなきゃ。 助けなきや。 今度は、俺が!
「ファイア! 」
力強く伸ばした手から、今度は真っ直ぐ、怪物の顔目掛けて飛んでいった。
グゴォガァ…ッ!
怪物が僅かに仰け反った隙に、友人の元へと駆け寄り、抱えて逃げる。
走る。
はしる。
だが、情けないことに二人分の体重を支えきることが出来ず、数メートルの先で倒れ込んでしまった。
(なら、、もう一回っ! )
「ファイアッ!! 」
叫ぶ声虚しく、火の気は立たない。
「うっ、そやろ…。 」
「ファイアッ! ファイアっ! ふぁいあっ! 」
何度叫ぼうが、伸ばす腕は何も―。
もう肩にも脚にも力の入らない自分とは相対に、怪物は一歩、また一歩と、のっそりのっそり歩み寄ってくる。
その目に慈愛など微塵もなく、あるのは本能に満ちた殺意。
じわりじわりと拡大する敵意。
交差する本能。
「ぶ、ぶつけたのは謝るから…さ。 見逃してくれへん…かな? 」
端から言葉の通じる相手ではなかった。
こちらの頼みは聞き入れられず、相対する怪物の本能がトドメの一撃を叩き込もうと、大きな振りかぶり姿勢をとる。
「や…やめ、…くるな…くるなぁぁぁ!!…!」
こんにちは。
はじめまして、の方ははじめまして。
イルミネと申します。
異世界ものに挑戦してみました。