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乾燥豆子と弁当男子  作者: ムトウ
1.乾燥豆子と弁当男子
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9.イケメンの苦難?

 高橋が煎茶を入れてくれて、場所を台所からリビングに移動した。

 彼は何やらもぞもぞと言い渋り、

「絶対呆れられると思うけどさ」

 と、3回くらい前置きを繰り返すので「いいからとっとと吐けや」とうっかり口に出そうになった。内心に留めた私、えらい。


「俺ね、専門学校デビューなんだよ」

 さんざん言いあぐねたあげく、彼は唐突に言い出した。 意味がとれなくて首をひねる私に、

「今もそういう言い方するのかな。ほら、高校デビューとか大学デビューとか言う、アレ的な意味でさ」

 と続けた。


 高橋は高校を出てから、経理の専門学校に進学した。それからいきなりイケメン枠に認定され、華々しくモテ始めたんだそうな。


「中学高校くらいの頃って、顔つきなんかころころ変わるだろ。髪型ボーズだったし、ニキビもすごかったし。高校まではイケメンなんて別世界の連中で、自分の見た目なんて平凡中の平凡だと思ってたんだ」

 確かに。彼の美貌は、目鼻など個々のパーツの造形美というより、全体の配置の絶妙バランスによると思われる。成長によるちょっとした変化も、絶大な影響があったのかもしれん。


「それなのに、高校卒業して髪型とか服装とか変わったせいかな。急に“カッコいい”とか“イケメン”て言われるようになって」

 思わず「けっ」と顔に出たんだろう、高橋は苦笑した。

「な、呆れるだろ。鼻持ちならないこと言ってんな、って自分でも思うよ。でもまあ、開き直って言っちゃうと、俺はツラの皮の出来がいいらしい。で、女性に大変ウケがいい」


 …………(困惑の無言)。

 なんと申し上げてよいやら、もにゃもにゃ、と語尾をぼやかす曖昧表現。

 つーか、うん。はいはい。そこまではっきり言い切られると頷くしかないな。否定しがたいしな。まあその通りだ。


 突然のモテ期到来に戸惑いつつ、彼は気になる女の子とつきあい始めたらしい。

「その子に言われたんだ。”諒くんってマザコンなんじゃない?”って」


 …………(困惑の無言、2回目)。

 高橋家の事情を知らない子からすると、そうなるかもしれない、かなー。


「今になってみれば、そう言われるのもわからないでもないんだ。まわりはみんな親から独立・自立しはじめる年頃だし、ましてや男だろ。親が、家族が、なんてあんま話題にしない。

 ちょうどその頃、父親の仕事が忙しくなって、その上兄貴は看護師の仕事に就いたばっかり、修の高校受験もあったし、家ん中バタバタしててさ。俺がカバーしなくちゃならないことも多かった」


「ヘンだと思うよな。イイ歳の男が、夜はつきあえない、とか、泊まりがけで家を空けるなんて無理、って。どんな箱入り息子だよ、って思われた。“母が心配で”って言ったのが“母に心配されて”って伝わったらしくて、で、マザコン認定」

「事情を説明したりはしなかったんだ?」

「説明の必要な事情だとは思わなかったんだよ。俺にとっては家のことやるのは普通のことだし。それに、母親の病気のことをあんまりおおっぴらには言いたくなかったしね」


「で、その後、別の女の子に打ち明けたこともあるんだ。

 そしたら今度は“手伝いたい”って家に訪ねて来られて。

 正直言って、プロの家政婦さんでもないのに、他人の素人がいきなり来て手伝ってもらえることなんてほとんどないんだ。ベテランの主婦だって、他人の家ではなかなか力を発揮できないと思うよ。ましてや自分の家のこともしてない子に何ができるわけでもなくってさ」


「いや、手伝ってもらいたいこともあるよ? 庭の草取りとか、ひたすら野菜洗って皮むき、とか。お願いするとしたら、どうしても単純作業になる。

 でも、そういうのじゃないらしいんだよね……。

“ゴハンつくってあげる”とか言われて、ものすごく時間かけて手間のかかった食事用意してくれたのはいいんだけど、分量の計量が甘くて量が全然足りないんだ。俺のぶんだけつくってもらっても困る、って普通わかるだろ?

 結局兄貴が出前をとって、失敗に青ざめて泣き出したその子を父親が宥めて、手伝ってもらうどころじゃなかった。

 俺が女の子より料理できるのも困惑されることもあった。しょうがないだろ、慣れてんだから。

 だいたい、女の子に手料理ごちそうしてもらいたい、とか一度も言ったことないんだよ。なのに、勝手につくる気満々で来られて、勝手にがっかりされる」


「なんていうかさあ、俺の気持ちとかガン無視で、自分の思うとおりに世話を焼きたい、っていう、そればっかりなんだよね。

 修なんて、受験でピリピリしてるとこに知らない女の子に世話焼き顔でうろちょろされてキレちゃってさ」


 ああ、なるほど。それで修くんは私を警戒したわけね。

 なんというか。10代女子が恋愛にのめりこんだ際の攻撃力はおそるべきものがあるな。

 それにしても、そういう世話焼き願望彼女はそんなに何人もいたのかね?


「つきあってた子、ってだけじゃなくて。つきあってほしい、って突撃してきた子もいるよ。学校帰りにつけられて家バレしたんだ。友達と連携して尾行したらしい。そういう子も何人かいてさ、兄貴と父親がもっぱら追い返し役だった」

「なにそれ怖っ」

「怖いだろ? 俺そんなに思わせぶりにしたかな、って悩んじゃったりもしてさ」


 ツラの皮パワーすごいな。美男というのもつらいものですね(しみじみ好々爺)。




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