57.シアワセとか(照)
「遠いところ来てくださってありがとう、諒さん。今度、私たちもご挨拶に伺いますから。あい子、高橋さんのご両親やご兄弟にもよろしくお伝えしてね」
「娘がいろいろと面倒かけると思いますが、よろしくお願いします。また、いつでもいらっしゃい」
「諒さんに捨てられないようにせいぜい頑張れよな。諒さん、じゃあまた、LINEで」
順に、母・典子、父・誠史、弟・健史の見送り挨拶を受けて、土産物満載で帰路につくあい子さんご一行でございます(水戸黄門のエンディングみたい)。
しかし健史は毎度のこと腹立つな。うっせえわ余計なお世話だわ。つーか諒、健史とLINEでやりとりしてんの? いつの間に? このふたりが馴染むとは思わなかったわー。
さてさて、帰路、とはいっても、空港に向かうわけではなくてですね。
実は、隣町の温泉に一泊する予定なのでした。せっかくの遠出なので、ついでに旅行気分出しちゃうんだぜ。
地熱が低いので鉱泉扱いなんだけど、全国的にもなかなか質のよい鉱泉らしいですよ。
温泉地までは急行で1時間半ほどのハンパな距離。
指定席をキメて、深々と収まります。はーやれやれ。
「お疲れ、諒。いろいろありがとね」
「うん? いやいや、こっちこそ、いっぱいご馳走してもらったり、歓待されて嬉しかったよ。よかったー、“オマエには娘はやらん!”とか言われなくって」
「まあ、うちの親、最初っからそういうタイプではないけどね。疲れたんじゃない? 少し寝れば。着いたら起こすからさ」
「ん。そうする」
いやはや。
実は私もそこそこくたびれたので(主に精神的に)、諒はもっとお疲れだろう。
やっぱ人んちって気ぃ遣うもんね。……って、その理屈でいうなら高橋家で寛ぎまくってる私ってナニ。
と、今さら過ぎる自分ツッコミをかましたりしてたら、諒はシートを倒して早々に入眠した模様。寝付きのいいヒトなのです。
諒の寝顔は幼くてかわいい。
額に落ちかかる髪はふわふわと軽くウェーブして柔らかい。真っ黒じゃなくて、よくよくみると焦げ茶、くらいの髪色。
普段は切れ長っぽく見える涼しげな目は、実は奥二重。まつげ結構長いよね。
鼻筋はすっと通ってて、小鼻が小さめで、あんまり主張しない鼻。これがバランスいいんだと思う。
唇は薄めで、唇の色も淡い。目鼻のパーツがそれぞれ主張控えめ、でも絶妙に全体のバランスがよくて上品にまとまってる。
白面の貴公子、ってこんな感じじゃないかな。
はは。なんかまじまじ見ちゃった。
こんなふうにじっと見つめてると、諒なのに、すごくよく知ってる人なのに、なんだか全然知らない人みたいに思えてくる。
ヘンなの。
……私、この人と結婚するんだなあ。
家族にも紹介したし、これから、この人と暮らして、この人とまた実家に里帰りとかするんだよね。
なんだか不思議。
ケッコンすんのとか初めてだから(笑。ヘンな言い方)、今まで経験したことない出来事に出くわして、今まで感じたことのない感情が湧いて、それがなんだか新鮮で、へー、うわーー、わーい、すげー、ってなってる(語彙力に難あり)。
今まで、自分の行動範囲だけで完結してたミニマルな生活が、諒と繋がることで大きく変化する。諒と、諒の家族、私の家族、友達、いろんな人達との繋がりが広がってく。
というより、自分ひとりだけの生活だと思ってた、っていうのが、考え方狭いよなあ。本当は、家族や友人や多くの人と繋がり、支えられていた、っていうことに、今さら気づかされた感じ。
いやなんか、結婚てすげえ(語彙力)。
列車の振動が心地よくて、隣で眠る諒の健やかな寝息が愛おしくて、そして、故郷から自分の生活圏に戻る途中、ていうシチュエーション。
懐かしいような、なんとなく切ないような。
ああ、なんかこれ、幸せ?ってやつ?かもしれないなー。
なんてね(照)。
自分のシートを少し倒して、眠る諒の肩にそっと寄り添ってみた。起こさないように、体重かけないようにしたつもりだったんだけど、諒はかすかに身動ぐ。
ごめん、と謝ろうとした私を制するように、彼の腕が私の肩にまわる。そっと抱き寄せてくる腕に促され、私はそのまま彼の肩に頭を載せてくっついた。
ぽんぽん、と軽く頭を撫でられて、くすぐったいような気持がこみあげる。
目を閉じて、包まれるような幸福感に身を浸した。
そんなことしてたら、まあ普通に睡魔に忍び寄られるよね。寝ちゃうよね。
あまりにも寝心地よく、ふたりでぐーすか寝てたら終点の駅で、「着きましたよ」とどこぞの親切なおばさまに起こされた。
「気持ちよさそうに眠ってるから、起こすの悪いかなーって思っちゃった」
くすくす笑われ、ふたりで赤面の至り。
というわけで、しみじみ幸せ浸りのままでは終わらない、オチをつけないと気の済まないあい子さんです。
そんなこんなの実家詣ででありましたことよ(詠嘆)




