表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乾燥豆子と弁当男子  作者: ムトウ
4.芹沢家にご挨拶
56/58

56.世話の焼ける姉弟

「そもそも、付き合う前だって容赦なかったよ。俺、すげえたんで叱られたもん」


 まだ続くのかよ……。と息も絶え絶えの健史くんに、俺が会社でマザコンキャラ偽装してたことを話した。

 最近はすっかり情報開示して、母の病状以外はオープンにしてる。最初はだいぶ呆れられて嫌み言われたりもしたけど、状況を知られるにつれて、あい子の株が爆上がりしていった。

 特に例の啖呵について、一部の女性たちからは、スカッとした!と溜飲の下がるスッキリ案件であったらしい。(えっと。なんか、その、アホですいません……………)


 総務の三枝さんの噂リリースが巧いんだよな。ポイントを押さえて的確に情報をコントロールする。この人だけは絶対敵に回したくない。



 健史くんは、なんだそりゃ、みたいな呆れた顔して聞いてたけど、あい子にこっぴどく怒られた経緯のあたりで、そこそこ真面目な顔になる。

 そして、嫌々ながら認めざるを得ない、みたいな心情が滲んだ。


「あー。うん。まあね、わかってんだよ。うん。あれね、あのメスゴリラ、いいとこもあるんだ。割といいやつ。それはわかってる。けど、素直に認めたくない」


 健史くんは渋々、といった風情で吐き捨てた。

 ……いや、めっちゃ素直じゃん。おもしろいなー、この姉弟。


 ニヤニヤを押し殺して、苦渋の義弟を眺めてたら(悪趣味)、彼は突っ伏した姿勢からむっくり起き上がり、雄々しくグラスを掴んだ。

 半分くらい残っていた液体をグッと干して、ふーー、と息を吐く。


「でもさ、わかったよ。不特定にモテるのが、嬉しいばっかりでもないって。まして、見た目ばっかり気にされて、お世話人形みたいな扱いは嫌だよな」

 なんだかちょっと申し訳なさそうに言った。


「……いや。別に、俺のことならいいんだ。自分のツラだし、しょうがないよ。嫌なことばっかりって訳でもないしね」

 俺は苦笑気味に返した。別に健史くんを責めたいわけじゃない。


「ただ、俺のせいであい子が難癖つけられるとさすがにこたえる。なんであい子と付き合うのか、みたいなこと言われるの、本当うんざりしてて」

 もっとあからさまに言えば、「イケメンならもっとかわいいコがよりどりみどりだろうに、なぜあの女を」みたいな、“見た目格差”を勝手につくって訝る視線。

 そのたびに俺は、頭が煮えてそいつをぶち殺したくなる(過激)。


 そういうとき、あい子は、

「ほんっとに諒はムダにイケメンだよね」

 と、呆れたように言う。次いで、

「でも、まあ。私も見た目で判断しちゃったりするし、あんま人のこと言えないからなー。しょうがないよ。放っとけば。

 とりあえず、“こんな冴えない女でごめんね”とかヘンな卑下しないようにはするからさ。それでも気になるなら、“俺がカッコよ過ぎてごめんな”とかナルナルしく謝ってくれてもいいけど、アホらしくない? その程度の話だと思うよ」

 と、鼻で笑う。

 本当はきっと、彼女のほうが俺の知らないところでいろいろ言われてるかもしれない。けれど、そんなことを微塵も感じさせないで、こんなふうに言う。

 ……なんというか、いろいろ敵わないよな。(惚気)


「健史くんはそんなつもりで言ってる訳じゃないだろうし、弟からすると姉のオトコってのは複雑な心境なんだろうけどな」

「……その言い回し、恥ずかしいから止めて」

 彼は、苦渋というか辛酸というか、この世のクソ不味いものすべてを口にしたような顔で呻いた。

 はははは。


 俺が愉快そうにするのを、チューイング苦虫な顔で見ていたが、やがて健史くんは低い声で呟くように言った。


「諒さんには、姉貴が必要なんだな」


 ものすごい小声で、超早口。

 けど、しっかり聞こえた。


 YES!

 どうやら未来の義弟の信頼を勝ち得たようです。ヴィクトリー!(完全にあい子に影響されてる)



 その後、すっかり悪酔いした健史くんは、この際だからと思うところをぶちまけてしまうことにしたらしく、どうやら今つきあっている相手と喧嘩している真っ最中だったそうで、いわく。


「“カノジョんち来たら自動的にメシ食わしてもらえると思ってるとか甘えてんじゃないの、私あんたのママじゃないから!”とか言われてさ。

 俺は、外で食うより部屋でゆっくりしようよ、って言っただけで、なんか買って帰ってもいいんだし、くつろぎたかったんだよ。そしたら、“あんたは寛いでるだけでいいよね、買ってくるにしても、何にしようか聞いたって、何でもイイ、とかこっちに決めさせて、温め直すのだって私がやるんでしょう。その上文句ばっかり”って。

 文句ばっかりなんて言ってないよ、ちょっと味薄かったかな、醤油ある?って言っただけなのに、それがなんで文句ばっかりになるんだよ。

 だいたい、1コ言ったら20倍くらいになって返ってくるの、なんなんだよあの女、全然敵わねえ……」


 うんうん。はいはい。わかったわかった。

 そのようにやられっぱなしの彼女にベタ惚れに惚れ込んでいるらしく、で、そのような20倍返しの彼女も、“諒さんみたいに家事万能なら文句言わなくなるんだろうな。畜生、イケメンはイイよな”と、八つ当たりと姉に対する複雑な心情がごちゃまぜに絡まり合っての「なんで姉貴なの?」だったのだそうで、さすがに俺も知るかよそんなこと(それにイケメン関係ないだろ)。



 さて。


 これ、どうやって収拾つけるんだよ(頭抱え)。

 姉貴も大概だけど、弟も世話が焼けるなー。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ