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乾燥豆子と弁当男子  作者: ムトウ
4.芹沢家にご挨拶
55/58

55.惚気ではない。断じて。

「……すんません」

 健史くんは困り顔のままグラスを傾け、それから、正面に向き直る。俺もグラスを借りて手酌で注いだ。

 健史くんは「あのさ」と言ってからしばらく黙って、んー、とか唸って逡巡してた。

 はいはい。なんでしょうか義弟くんよ。


「……あのさ、男兄弟しかいない人には、なかなか通じないんだけど。弟からすると、姉ってのはクッソ理不尽な生き物なんだよ。姉とかいてリフジンと読む。そんくらいの感覚」

 ……理不尽。うん?

 怪訝に応じると、健史くんは勢いづいたように続けた。


「チビの頃は年齢差でやりこめられてマウントとられてさ、デカくなって仕返ししようにも、チビの頃の弱み握ってフル活用で弄られる。体格差は余裕でこっちが有利なのに、一応は女ってことで手を出せない。理不尽だよ。

 だいたいが、女、って言ったって、単に生物学的に“性別・フィメール”ってだけのことだよ。

 もうホント、“お前の姉ちゃんかわいい? 色っぽい?”とかふざけたこと言ってくるやついっぱいいて、あのときほど周囲との断絶感じたことなかったな。

 実の姉を女目線で見るとかあり得ねえから」

 ……まあ、そりゃそうだね。


「その上、男が女の子に対していだくファンタジーを片っ端から破壊して焼け野原にしやがる。俺、いち時期、女性不信になったからね。女の子が皆あんなだったら、夢も希望もないよ」


 …………。

 そ、そんなに。そこまでか。

 ……ていうか、いったい何したんだあい子。

 そして、そのあい子さんは俺の恋人であって、夢と希望を託して人生の伴侶にと望む女性なんだけど、どうしたものか。


「ああ、大丈夫大丈夫、諒さんにはしおらしく猫かぶってんだろ。それに、諒さんも恋愛フィルターかかって目ぇ曇ってるだろうからさ」

 ……ヒドい言い草だな。確かに曇ってるけどな! 自覚はあるよ!

 ていうか健史くん、もう酔ってんのか。大丈夫かな。


 心配する気配を察して、健史くんは「大丈夫だよ、そんなに酔ってない」とか酔っぱらいの定番台詞をかます。

「でもね、諒さん。だからって、身内としての情がないわけじゃないんだ。とりあえず、一番親しいメスゴリラ、くらいには親愛の情はある。ゴリラ飼ったことないけどな」

 ……身内って辛辣。

 しかしこういうヘンな喩え持ち出すところ、まさにあい子といっしょに育った家族だなぁ。とか言ったら絶望するんだろうな、健史くん……。


「で、そのメスゴリラが結婚相手連れてくるとかさ。ただでさえ、マジかよ。って思うのに、その相手がシュッとしたイケメンで、しかも料理とか上手で、誠実で優しそうな、すげえイイ男だろ。世の中どうなってんの、って感じだよ。

 めっちゃモテるだろうに、よりによって姉貴とかさ。真剣わからん。どこがいいの? あの理不尽メスゴリラの」


 はははは。は。


 ……これもう飲むしかないだろ。

 酒追加で!

 缶チューハイとかじゃなくて、もうちょっと強いやつがほしいな!



 と、強い酒を欲しつつも、ここはさすがに深酔いするまで飲むわけにはいかない、くらいの理性は働いて、最近流行りのアルコール強めチューハイにしてみた。

 ぷはー。

 と、ひと息吐いてから切り出す。


「あのね健史くん、たぶん誤解があると思うけど。君の姉さん、俺の前でも大して猫かぶってないよ」


「わりと雑だし、ハマると没頭するから床にDVDやら文庫本の山築いてるし、文句言うと「母ちゃんかよ」とかむくれるし、むくれながら片づけたかと思ったら八つ当たりで豆だらけの夕食つくったりするし。

 俺も豆嫌いじゃないけどさ、チリビーンズとカスレの二色盛りってさすがにクドくない? その上、まだ鍋にカスレの残りがあるのにクル・ファスリエ仕込もうとするんだよ? どんだけ豆好きなんだよ」


 ちなみにカスレとは白インゲン豆と肉の煮込みのこと。フランスの家庭料理。

 クル・ファスリエは同じく白インゲン豆をトマト風味で煮込むトルコ料理。


「普通にスッピン晒すし、それは全然いいんだけど、ゾンビのプリントの美容シートパック顔に貼り付けてひとりでウケてるし、振り返ったらカノジョがウォーキングデッドだよ? あれはビビった。

 俺のシェーバー使って無駄毛の処理するし、さすがにそれは俺の目の前ではやらないけど、男性用のシェーバーってやっぱり切れ味すごいね!って嬉しそうに報告しにくるのってどうなんだよ。

 風呂上がりに豆乳飲むのはいいけど、なんでいちいち腰に手あてて仁王立ちで飲むかな。必ず口の周りにヒゲつくって、ぷっはー!ってオヤジか」


「だいたい、俺んち来たときだって俺のことそっちのけで父親と時代劇ばっか見てるしさ。

 挙げ句の果てに桃太郎侍だか長七郎だか知らないけど、新聞丸めて刀代わりに振り回して、俺、斬られ役やらされるんだよ? 付き合ってる相手の家で、親を巻き込んで時代劇の立ち回りとか。

 これで猫かぶってるって言われたら、その猫の意味を小一時間くらい問い質したい」



「ちょ、待って。ストップ。もう止めて」

 気づけば、健史くんは目の前の卓に埋まる勢いで突っ伏して頭を抱え、ていうか、頭自体を捨ててしまいたい、的に悶え苦しみ、むぎゃあ、とか意味不明な叫びを押し殺して呻いていた。


「なんだよこののろ地獄……」

 きれぎれに洩れ聞こえてきたけど、どこが惚気だ。

 純然たる事実だよ? そのままだよ? こんな話いくらでもあるけど。




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