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乾燥豆子と弁当男子  作者: ムトウ
4.芹沢家にご挨拶
54/58

54.昼酒は効くよね……

「っていうかさあ。なんで姉貴なの?」

 健史くんは、唐突に・おもむろに、ド直球の問いをぶっこんできた。


「…………へ?」

 思わずヘンな声出たけど、健史くん自身もうっかり口をいて出た、というふうで、「しくった、言っちまった」みたいな顔をしてる。

 そっか。さっきからずっと気配を窺われていたのは、それが気になってた訳か。

 

「……なんでと言われてもな」

 それこそ惚気になりそうだし、ていうかそんな話を道端でするのもなんだし、そもそも今となっては「何故あい子なのか?」ってのも今さら過ぎて自分でもわからないくらいに当たり前な相方ポジションだし、かといって実の弟たる健史くんには真面目に真剣に話すべきことのような気がして。

 というようなことを脳内で3秒くらい逡巡してたら、健史くんはあわてて言い訳をした。


「あー、っと、違う。違うんだ、俺シスコンじゃないし」

 何言ってんだ俺。とか、頭をくしゃくしゃかき回しながら焦って言い訳してる。

 うん。まあ確かに「お姉ちゃんとられてやだよぅ」なんていうタイプではないよな、健史くん。


 でも。しかし。とりあえずはだな。

「……健史くん、あのさ。とりあえずどっか移動しない? 高校の前で車留めてヤローふたりで話し込んでんのってかなりアヤシいからさ」

「あー確かに。そっすね……」

「それでさ、そーいう話はさすがに素面シラフではつらいんだけど」

「それもそっすね」


 他ならぬ婚約者の弟君である。お答えするにはやぶさかではないが、時と場を改めては如何かと。(なんかこういう言い回し、あい子に影響されてる気がする)



 さて。

 というわけで、移動したのは開店前の居酒屋。

「友達が店長やってて、融通きかしてもらえるんで」

「でもなぁ、カノジョの地元で飲んだくれるのってさすがに心証悪いよな」

「俺が強引に誘ったってことにしとこうよ。大丈夫だって」

 という、義弟(予定)の心強い証言を得て、まだ日も高い罰当たりな時間から酒を飲んじゃうことにした。

 ちなみに車の運転も知り合いに代行を頼む段取りをつけたそうで、互いに遠慮なく心置きなく。


 俺はこちらに来るにあたって有休を使い、健史くんも今日はシフト休み。つまり、ド平日の真っ昼間。

 世間の皆さまは労働に勤しんでいる時間に酔っ払おうという、この罪悪感。背徳感。

「……やばい健史くん、これ楽しいかも」

「ちょっとした優越感っすね」

 乾杯、とグラスを合わせ、共犯者の笑みを交わした。


 健史くんの友人だという店長さんは呆れながらも、飲み物の持ち込みを見逃してくれて、その上、簡単なつまみを並べ、適当にやってくれ、と放っといてくれた。

「開店したばっかりの頃、仕込みを手伝ってたりしてたんですよ」

「へえ。飲食店は大変そうだね。俺は家のことやってただけだから、プロの料理とは全然違うだろうな」

「家でやってただけ、って腕前じゃないよ。あの千切りの包丁さばきはビビった」

「結婚相手として認めてもらう試験だからな。超気合い入れたんだぜ」

「よく言うよ」



「諒さんってモテるだろ?」

 とりあえずビール、の缶ビールが2本ばかり空いたところで、健史くんがおもむろに発した。口調が改まる、ってほどじゃないけど、なんかこう、本題を切り出す、みたいな雰囲気。

「……うーん?」

 曖昧な応答をすると、彼は苦笑した。

「謙遜はいいよ。男から見てもカッコいいし、料理もできるし、だからってチャラい感じでもないしさ。今日だって、いっしょに出歩いてていつもと違う視線バシバシ感じるもん。すれ違う女の人が洩れなく諒さんのこと見ててさ。イケメンて本当にすごいよな」

 健史くんは単純にスゴイ、と感心しているふうで、別に嫌みっぽく攻撃したいわけではないらしい。

 それでもちょっと居心地悪い。


 確かに、見られていた。気づいてた。

 最近はあい子といっしょに出歩くことが多かったし、しかも彼女とはスーパーの鮮魚売り場とか乾物コーナーをうろついてて、さすがにそういう場所では誘ってくる的な視線感じることはなかったんだけど。

 今日は久しぶりに興味深げな視線に晒された。特に男ふたりで歩いてたりすると、中には声かけてきそうな女性もいる。「どこいくの?」「こっちもふたりだし、どこか遊びに行かない?」的な、いわゆる逆ナンってやつ。

 あれ避けるの面倒なんだよな。視線に気づかないふりして目が合うのを避ける。それでも時と場所によっては強引に腕をとられたりすることもあったし。


 俺としては面倒なだけなんだけど、それ言ってもモテ自慢と受けとられて同情されたためしがない。本当に厄介なんだよ(ため息)。


 健史くんはげんなりした俺の様子に気づき、フォローするように言った。

「あー……なんかごめん。弟の俺の立場から言うとビミョウか。別に嫌みとかそういうつもりはないんだよ。モテるからって悪さするタイプじゃないだろうしさ、諒さんは」

「…………」

「うわ。これじゃますます嫌みくさいな。牽制してるみたいじゃん。そういうことじゃなくってさ」


 あわあわとひとりで話を突っ走り、自滅というか自爆というか訳わかんなくなってく感じは、確かにあい子の弟だなー。まあ落ち着けよ。

 冷蔵ケースを勝手に開けて缶チューハイ(コンビニで買ってきて持ち込んだやつ)を出し、グラスを拝借して、健史くんに注いでやった。



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