50.豆子の友人
「豆子、久しぶり!元気だった?」
「ちっとも帰って来ないんだから、この薄情者が」
きゃああああああ!
きゃーきゃー、久しぶり! わーいわーい、ちっとも変わらねえなこいつら。
と、いきなりコーフンの展開ですいませんね。
粉モノ大会の翌日、たらふく飲み食いした割には爽やかにお目覚め。ていうかお好み焼きってほぼキャベツだもんね。意外ともたれない。
両親ズは平常通りお仕事なんだけど、気を利かせて朝ゆっくりさせてくれたので、私も諒もちょっと遅めの朝食となりまして。
近所の喫茶店で優雅にブランチなどいただきましょうかね、という次第。
その折に地元の友達を紹介するべく段取ってたんですね。ちょっくら帰るよーと予告しといたら時間つくってくれて、冒頭の如く賑々しく尋ねてきてくれたのでした。
中学・高校と同じ学校だったのでそこそこ付き合いは長い。
「紹介するね。高校の料理研究部でいっしょだった、茸子と海苔子」
「……できれば初対面は本名でお願いしたいかな」
お。やるな諒。平静に返してくるあたり、私の扱いに慣れておりますね!
えっと、ちゃんと紹介しますね。
まずひとりめは、山田留以子。某ルネッサンスな芸人氏を彷彿させる名前ですが、小柄でちゃかちゃかした小動物チックな女子です。このヒトはアウトドア好きで、会社員しながら週末は登山を嗜まれるのですが、山ガールって呼ぶと3分くらい絶交される。
きのこ類を偏愛する彼女は「茸子」。山ガール(3分絶交)やってるのも、もともとはきのこ目当てだったらしいです。きのこ採取は想像以上に種類の同定が難しく、奥深くハマる一方なのだそうだ。ビバ、山ライフ。食い意地万歳。
もうひとりは、佐久間みどり。本の虫で、図書室・図書館に生息しているような女子ですが、万年図書委員の末に現在は図書館司書として勤めております。書物に愛と忠誠を捧げ、ある意味、本懐を遂げまくった人物。
海苔やわかめ、昆布など、海藻の扱いに長ける彼女は「海苔子」。生メカブに熱湯を注した瞬間の鮮やかな緑色の如く、みどり→海藻担当の海苔子さんなのです。
で、私は「豆子」なんだけど、こうしてみると私だけなんか命名の意味づけが薄くてつまんないぞ。小豆畑さんとか大豆生田さんとかいう名前だったらよかったのに。まあ、いいけど。
というわけで、高校時代はこの3人、豆子、茸子、海苔子でつるんでた訳なのです。名付けて、トリオ・ザ・食物繊維(嘘です。名乗ってない)。
我々3人は高校時代、料理研究部という女子力()高そうな部に所属していたものの、それぞれが極端めに偏った興味関心を追求していたため、その調理技術はおよそ女子力として発揮されることもなく、要するに、甚だしく趣味的な料理オタクってことです。(でも正直言うと、料理好きな人って単に食い物好きなだけだったりして、異性の好感度狙いな人あんまりいないよね)
豆「最初はダイエット目的だったんだよね」
茸「そうそう、ダイエットって食餌療法のことなんだから、バランスのとれた食事が大切!って」
豆「食物繊維がキモだからきのこ食べよう! 海藻もいいよね、ミネラルたっぷりで低カロリー。タンパク質も重要だってよ、豆類もいいんじゃね? って流れだった」
茸「それぞれ担当決めて研究しはじめたらフツーに食材として美味しくてハマったんだよね」
海「調理技術の研究を極めれば、おいしくいただけるのも当然というか。不味かったら続かないしね」
茸「3人で乾物屋さん行きまくったし」
海「あの店は興奮した。鰹節とか干し鮑とか高級食材にまで手を出しそうになって危なかったもの」
豆「調理部の部長はパーティー料理とか差し入れに向いたオシャレ料理とかハイセンス志向だったから、3人で浮いてたよね」
海「それにしても、ダイエットっていっても、みんな別に太ってなかったんだけどね」
豆「若い娘の趣味みたいなもんだから、ダイエットって」
茸「若い娘、って発言が婆くさいな豆子は。相変わらず時代劇見てんの?」
豆「見てるとも! こないだ、諒のお父さんが「大江戸捜査網」見せてくれてさー!」
海「あ、知ってる。“死して屍拾う者なし”って決め台詞でしょ? ていうかカレシのお父さんと時代劇見てんの?」
茸「シカバネって、何それ? ていうか豆子、さっきからカレシ放置過ぎ」
ありゃ?
コーヒーカップを所在なげに玩び、呆れ果てて無になっているイケメンがおりましたよ。
「あーごめんごめん、諒。久しぶりだったもんで、つい」
でもって、地元の女友達に改めて彼を紹介する。
「紹介が遅れてごめんね。こちらが会社の同僚で、高橋諒さん。結婚することになったんで実家に挨拶に来てくれたの」
「……初めまして」
微妙にヒき気味に会釈する諒に、我が友人どもは素早く猫をかぶり、じゃなかった、社会人としての礼儀を取り戻して丁寧に挨拶した。
「失礼致しました。山田留以子です」
「佐久間みどりです。ご挨拶遅れまして申し訳ありません」
うむ。こうして挨拶会釈をする姿は、お互い、大人になったなあ、とか思う。
なんだか、ヘンな感じ。
茸子も海苔子も、もちろん諒のことも、両方よく知ってるだけに相当気恥ずかしい。
えへへへ。
「あい子、おめでとう」
茸子がニコニコ笑顔で祝ってくれて、
「諒さん?ってお呼びしていいですか? 諒さんも、おめでとうございます。あい子と末永く仲よくしてやってください」
海苔子がお姉さん顔で言ってくれた。
なんだよー照れるなーもー。




