47.実技試験とは(呆)
「あのね、諒。これ社員採用試験の実技課題なんだよ。てんこさんが勤めてる出版社の」
「採用試験? キャベツ千切りが?」
話しながらでも手を止めずスピードも落ちない、もはや安定の千切りマシンと化した諒さんです。
てんこさんは出版社の企画部部長を務めており、そこそこエラいので採用の面接にも立ち会うのね。
「話聞いてるばっかじゃこっちもつまんないし、実技やりたーい!っつって、毎年なんかやってもらってるの。今回もバラエティに富んでておもしろかったよー」
「……そりゃ、やらせる方はおもしろいでしょうよ」
「こっちだって、ずっとかしこまってちゃ退屈なんだよ。それに、実技ばっかり重視してるわけじゃないんだってば。ちゃんと経歴とか資格とか面接や筆記も検討してます」
なんで娘にこんな言い訳しなきゃなんないの。とか、ぶつぶつ言ってますが、それはね、母よ。娘が連れてきた結婚相手に実技試験とかぶちかますからだよ!
そもそもの実技試験は、書類のコピーや資料整理、簡単な片づけ、お茶くみなど、業務に関連しそうな雑用をしてもらってたそうな。ちなみに、仕事の手伝いをさせちゃうことになるから、時給相当分の謝礼を出すんだって。
「雑用をお願いすると、喋るのが苦手で面接の時にはもじもじしてた人が、すっかり落ち着いた所作でお茶を淹れたり整頓したり、違った面が見られるんだよね。もちろん逆パターンもあるよ。デキるアピールしてた人がおろおろしちゃったりとか。怒り出しちゃう人もいたな。こんな雑用をするために来たんじゃない!ってね」
もっとも、この実技はそれらの雑用ができるか/できないかで判断するわけではないそうです。
「できなくても、拒否してもらっても構わないのよ。自分のできないことにどう対応するか、どう拒否するかも参考にさせてもらうの。
実際“お茶の淹れ方わかりません!”ってはきはき言った人がいてね。その人は人数分の注文とって、缶コーヒーとかペットボトルのお茶を買ってきた。ちゃんと領収書ももらって、しっかり経費の請求もしてきたよ。
中途で応募してきた壮年の人もお茶の淹れ方わかんなかったんだけどね、その人はその場で“淹れ方教えてください”って頭を下げられた。
どっちも、どういう人柄か、わかる気しない?」
「で、毎年それやってたら、段々お茶の淹れ方や給仕を研究してきちゃう人が増えてきて。熱心で真面目なのはいいんだけど、それだと素の対応力とか見えづらくなっちゃうんだよね」
で、実技課題がどんどん迷走し始めるのです。
机の拭き掃除、食器洗いなんかはまだいい。来客対応の後片付けなんかでやることもあるだろうから、業務の範疇と言えなくもない。
蛍光灯の取り替え、観葉植物の世話、食器棚の整頓、非常用品の点検と補充、休憩の軽食手配、残業メシの手配、ここらへんから迷走みを感じますね。総務とか庶務あたりだと、そういう業務もなくはないのかな。
シャツのアイロンがけ、靴磨きに至ると、もうこれ限りなく家事じゃん。まあ身だしなみを整えるのも仕事のうちと思えば納得?できるかな。無理無理だけど。
「実は、わりと意図的に家事っぽいことやってもらうようにしてるの。家事って、自分の生活を整える仕事なわけでしょ。仕事環境を整える雑用に直結するのよ。
この実技、実際の採用試験の前に役員とか管理職に試しにやってもらったのね。そしたら皆、“え? 私がやるの?”って顔したんだよね。それ見た社長ががっかりしてさ。
“自分のことは自分でやろうよ。誰かにやってもらうとしても、お世話してもらってる自覚くらい持とうよ、なんだよその、誰かがやるだろ関係ねえわ、みたいなツラは……”
って、嘆くわボヤくわ、うざかったわー」
おいおい。社長のことをうざいとか言ってますよ、この仕事できるウーマンは。
以来、雑用の実技試験は社内研修とかでも頻発するようになったそうです。
わかんなくはないかな。家事や雑用をちゃんとしてる人って、地に足が着いてる感じするよね。
目の前で早々に千切りを終わらせようとしている、地に足着いてる系男子をつくづくと見つめちゃうのでした。
諒、かっこいい!(惚気!)
ところで、なんでキャベツなのよ?
ていうあたりはまだナゾが残りますけども、そのあたりはまた次回。




