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乾燥豆子と弁当男子  作者: ムトウ
4.芹沢家にご挨拶
46/58

46.キャベツ

「新居はどうするんだ? 高橋さんのご実家に同居する、という話は決定じゃないんだろう?」

 父が尋ねてくる。わりとこの人は“妻女が家のことを取り仕切る”的な慣習に肯定的なので、同居話も「ふーん」って反応薄かったんだよね。

 警戒してたのはてんこさんのほうです。でも、なんかだいぶ態度が和らいできた気がするな?

 

「いきなり、同居するかもしれない、なんていう話で驚かれたと思うんですが、たまたまそんな思いつきが話題にあがっただけで、そうすると決めた訳ではないんです。

 僕もあい子さんも慎重に考えたいと思ってますし、何より、あい子さんやご両親が納得いかないことを無理に押しつけるつもりはありません」


 諒の応対は、多少緊張しているものの、誠実で好ましく、パーフェクトでございますよ。惚れた欲目バリバリだけどな!


 でもね。つーかね。

 イケメンがイケメンな振る舞いをすればするほど、アヤしみを増す受け止め方をする者もおりまして、おいそこの健史、オマエのことだ。


 弟の考えることは手に取るようにわかる。要するにこいつは、“こんなかっこよくて優しくてモテそうなイイ男が姉なんかを相手にするわけがない、きっと裏があるに違いない。”とか思いこんでいるのですムキー!(怒)

 何がムキー!(怒)なのかって、確かにそうだよ釣り合ってねえよ!ってめちゃめちゃ賛同できるからです。本当にムダにかっこよくて面倒くさいわ、諒(惚気)。


 久々に会ったとはいえ、長年培った姉弟の絆()でございます。互いに目線と表情でガウガウ威嚇し合ってたら、これまた長年姉弟のガウガウを止めてきた母が察して「健史」と発し、瞬時に弟は表情をよそ行きに改めました。

 それからてんこさんは、私に向かって、片目を瞑ってみせた。

「電話で聞かされたときは、あんたの非常識さにブチ切れたけど、基本的にはあい子が決めた相手なんだから信頼してるのよ。ね、お父さん」

 父も鷹揚に頷く。


「でもね」

 にっこり。

 あ。てんこさん、なんか仕掛けてくるよ。

「それだけだとおもしろくないんで」

 おもしろくないってなんだよ。おもしろくなくっていいんだよ別に。

「やっぱり、アレやってもらおうかな?」

 アレかー……。マジか。まあ諒ならチョロいとは思うけど、やっぱやるのね……。


「お母さん、高橋さんは遠方から来られて疲れてるだろうに、また後日にしたらどうかな?」

 父が気遣いを見せるも、母は

「懸案事項はさっさと片しちゃったほうが気持ちがラクでしょ。ね? 諒さん?」

 軽やかに言い放たれます。曇りのない笑顔が逆にコワい。


「…………?」

 いったい何を要求されるのかいぶかりながらも、決意に充ち満ちた面持ちでしっかりと頷く諒さんなのでした。

 やだステキ(惚気)。



 さてさて。

 台所に移動して、「はい!」と、てんこさんが元気よく諒に渡したのはキャベツひと玉。目の前に据えてあるのは、まな板と包丁。


 ……キャベツ。マジか。

「で、どうすんの、これ?」

 呆れを隠さずに尋ねると、てんこさんは諒に向かって言った。

「千切りにしてください」

「千切り?ですか?」

 諒は怪訝に問い返す。いったい何をさせられているのか、意図がまったく不明で訳がわからない、といった表情で。

 うん。まあ無理もないよね。


 わからないなりに、諒はキャベツをひっくりかえし、軽く検分した。土汚れなどはなし、外側の葉は少し固そう。

「千切りの用途はなんですか? 分量は? 全部刻みますか?」

「用途って? 千切りしてくれればいいんだけど」

 てんこさんはおもしろそうにひょいっと片眉をあげた。

 諒は大まじめに答える。

「例えばフライの付け合わせにするか、コールスローにするかで切り幅が違ってくると思うんですが……」

 諒なら余裕でミリ単位で刻み方を変えるからね。

 と、私のほうが自慢げにドヤ顔しちゃってたらしく、てんこさんは、ぷはっ、と破顔した。やべ。見られた(照)。


「ひと玉全部刻んでください。そうだなー、7、8ミリ幅くらい、太めの千切りで。あ、それと千切りとは別に、大きめの葉2~3枚ぶんくらい、7、8ミリ角のみじん切りにしてもらえるかな?」

「はい」

 こともなげに返事して、諒は作業を始めた。


 外側の固い葉を剥がし、ざっくり四つ割りにして芯を切り落とす。四つ割りのひと塊がちょっと大きかったので、さらにそれを内側と外側、半々くらいにめりめり引っぺがして、まな板に固定し、さて、準備完了。刻むよ!

 ざかざかざかざかざかざか!と、初っぱなからトップスピードです。速い。巧い。ていうか、このくらいの太めの幅ならちょろいんだよね。

 包丁の動きは安定して規則的に途絶えず、一定の幅に切断されたキャベツはみるみるうちにボウルに小山を築き始める。

「うわー。すごいね、本当に慣れてる」

 てんこさんもお父さんも感心してる。健史にいたっては口ポカン状態だ。

 包丁のストロークが整ってる、っていうだけじゃないんですよ。押さえる方の手で、一定の速度でカット幅を維持するのもワザなんです。

 はっはっは。どうだすごいだろ私の諒は(惚気)。



 ところで、何がどうして諒が台所無双する次第に至ったか、ということについてですが(勿体ぶり)。

 遅ればせながら次回以降、解説しますよー。


 待て、次号!


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