41.ロードトゥ芹沢家
さてさて。今回は、「疲れるので」とかいう雑な理由で省略した、38話と39話の間のお話になります。あい子さんの実家・芹沢家での、なんだかんだいろいろアレコレね(思い出すだけで疲労)。
というわけで、少し時間巻き戻ってるよ!
と、甚だ説明的な前置きでした。
結婚相手の両親との対面、というのは、まあ時と場合によるんだろうけど、なかなかハードル高いイベントであり、その上今回は、主に私の不手際のせいで、その肝心な“時と場合”をしくじっちゃって、ただでさえ高いハードルをさらに10メートルくらい高めてしまい、ていうかそれもう棒高跳びだろ、というくらいに難易度の高いイベントになってしまった感もなきにしもあらず。
と、冒頭から長文かましてるのは、隣のシートの諒がずっとそわそわ落ち着かなくて、私までなんかそわそわしちゃってこんな有様になってる次第です。
私と諒は現在、機上の人である。
マイ実家・芹沢家に結婚の報告&挨拶に向かうところなのよ。
もちろん、親には最初からちゃんと話すつもりではいたんだけど、いろいろとタイミングを逃しちゃって報告が遅れ、そこそこ話が具体的に詰まってきた時点で「そういや結婚するんだけど」みたいなこと言ったら激怒されちゃったんだよね。
うん。私が悪い。よろしくなかったと思う。
でもさ。あのさ。自分の親に「彼氏(彼女)できたのー」とか報告すんのとか、こっ恥ずかしくてなかなか言えなくない? 人によりけりだとは思うけど、私はダメだなー。
そして、我が親もそういう話を聞かされるのがこっ恥ずかしいタイプ。「誰かいい人いないの?」的に話題をふられたことさえありません。
そのテの話以外にも、「最近どうしてんの?」的に連絡をとりあうのが億劫で、要するに互いに不精なんですよね。
さらに加えるならば、我が家の場合、家族みんなでどうこうというより、個々人の意思を優先する傾向があり、よく言えば自主独立、悪く言えばてんでんばらばらなんですよな。
進学して家を出る、と言ったときも、「わかった、学べよー」と軽くOKだったし、そのまま遠方の地で就職するときも「あ、そうなの? がんばんなよー」と、至極あっさりしたものだったのです。
そんな感じだったので
「結婚するよー。いま住むとこ検討しててさ、相手の実家に同居しちゃえば? とか言われてて」
とか気楽に打ち明けてしまい、「ちょっと待てコラ」と怒られたのでございます。
「たぶん、私がひとりで引っ越すとか、ひとりだけの影響に留まる話ならそんなに怒んなかったと思うんだよね。相手の家族も含めた話になってるのに、うちの家族には一言もなしか、お相手にも失礼になっちゃうだろが、ってことでさ。そりゃそうだよね。完全に私が迂闊だったよ」
「いや、俺も考えなしだった。先にちゃんとご挨拶するべきだったよな。怒られても当然だよ」
いやいや私が、いやいや俺が、みたいなペコペコ合戦、もう何度目だ。不毛。でも、諒に申し訳なくてついつい謝っちゃうのよな。
やっちまったことはさておき、前向いていこうぜ。今後の打開策・心証回復のための作戦をたてて準備しましょう。
「高橋家の事情についてはざっくり話したから、さすがに“嫁こき使う気満々”説は消えてると思うよ」
「んー、どうかな。それでも警戒は解いてないんじゃない? 心配するのも無理ないと思うよ」
「要は、諒が格好だけの家事じゃなくてガチでやってる、って伝わればいいと思うんだよね。母のことだから、採用面接みたいなのツケツケかましてきちゃうだろうな……」
実は、我が母はそこそこの出版社でそこそこの役職を勤めるそこそこの働きウーマンなのです。
身内としてはあんま客観的になれないので、そこそこ、と謙遜しちゃうんだけれども、相当仕事できる系役員と思ってよいかも。
社員の採用面接とか社員教育にも長く携わってるので、ついつい目線が採否判断になりがちと思われ。
「だから、めっちゃ試されちゃうかもしんない。ごめんね、諒」
「いや、それで済むなら、むしろ手っ取り早くていいかもしれないよ。遠回しに探り入れられるより、聞きたいこと全部聞いてもらったほうが後々面倒がないし」
がんばるよ。と、諒は頷いてみせた。
つか、なんで結婚の挨拶に赴くはずが、採用面接対策に変わってんのか(頭抱え)。
「そんな心配しなくても大丈夫だよ。あい子のご両親だろ。わかってもらえるよ」
……諒さんよ、さっきからずっとそわそわしっぱなしですけど。
ていうかさー、わかってもらえるとかそっちの心配はあまりしてないんだよ。たぶん大丈夫。
というより、カレシを親に会わせるという、こっ恥ずかしさとの戦いです!
ご対面すっとばして、直接脳インプラントで紹介済みの記憶注入したい。もしくは、早送りのチャプタースキップでご対面の場面飛ばしちゃうとか。
などと、極端めに現実逃避しつつ、いよいよとご搭乗の当機は着陸態勢に入りますよ!




