39.プレ新婚(またはエロいオチ)
その後、芹沢家でも、なんだかんだいろいろアレコレありまして。
両家ご対面の席など設けまして。
なんとか各方面にご納得いただけるように収めました……(疲れるので省略)。
そして、結論としてはですね。
なんと高橋家を二世帯住宅にリフォームして同居することになりましたんですよ、奥様!
今ちょうどリフォーム工事してる最中なのです。
二世帯っつっても、玄関別、台所も風呂トイレも共用しない完全分離型。家の中で繋がる内扉的なものもないよ。
1階が聡美さん博至さん+圭さん世帯、2階が我々の住まい、という予定。感覚としては同じマンションの上と下の階に住んでるみたいな感じなのかな-。
工事が終わるまで、聡美さんと博至さんはウィークリーマンションへ、圭さんは勤め先の病院の寮に入り、修くんは早々に部屋を決めて引っ越し済み。
で、諒は私の部屋で過ごすことになりまして、ようやく、なう!現在の状況まで説明が追いついたよ!
毎度毎度、あい子さんの話長くてすいませんね。
本日、私は有給休暇をとって部屋の片付けや引っ越しの準備などをしてました。で、片付けてたらコレが出てきたんだよね。
久しぶりに鏡の前で羽織ってみたら、へー、なかなかいいかも? そうだそうだ、例のアレも合わせて着てみたらいいじゃん。はははは。これはウケる。
というわけでお着替えして、諒が仕事から帰るのを待ちかまえていた訳なのですが。
さてさて、皆さん、いっこ前のお話の冒頭のクイズ(あ、忘れてました?)の答えです! ようやくかよ。
風呂上がりの諒は湯気をほかほかさせながら、
「どうしたの、その格好。かわいいな」
しげしげと見つめてくる。
はっはっは。そうだろうかわいいだろう。私が、じゃなくて、格好が、ね(照)。
お出迎えスタイルに着てみたのは、紺地の着物。つっても紬の単なので、わりとカジュアルな普段着感覚の着物なんだけどね。紺と白のしゃっきりした縞に、ところどころ水色の縞がランダムに入ってるモダンな柄行き。
襦袢代わりに襟付きの筒袖の着物用インナーで簡略にすましちゃったんだけど、このインナー便利なんだよねー。ちゃんと半襟もつけられるんだよ。今日の半襟は、白地に鈴の絵柄の刺繍をチラ見せ。足袋もお揃いの刺繍いりです。
帯はクリーム色の名古屋で、前柄は金魚、お太鼓は猫の絵柄、っていうちょっと洒落た帯なんだけど、着物の上からエプロンをかけちゃってるので残念ながら見えません。
そう、このエプロンがポイントなんだよ。
「こんなエプロン持ってたっけ?」
「眉子がプレゼントしてくれた」
なんと! 純白のふりふりエプロンです! リボンやレース、フリルが盛り盛りのひらひら!
胸当て部分には花柄のレースが施され、肩には袖状に2段フリル、スカート部分はきゅっとギャザーが寄せられてふんわりと裾が広がり、その裾にも2段のフリルとサテンのリボンがあしらわれ、さらに後ろに回るとウエストを締めるベルトリボンは幅広のシフォンが2重3重になっていて、リボン結びにすると金魚の尾のようにふわふわと広がる、超弩級に乙女チックなシロモノです。
「例によってCucumberで、酔っ払った眉子がご機嫌で“新婚さんに新妻エプロン♪”とか言ってポチっちゃってさ。もう、なに考えてんだか」
そのまま着るにはアレですが、渋めの着物に合わせると大正時代とかのカフェーの女給さんコスプレみたいでアリかな、と着てみた次第でした。
諒は、そっか、へえ。とか言いながら、ためつすがめつ私を眺め、ポーズをとらせ、くるくる回らせて前から後ろからあらゆる角度から堪能しやがりました。
まあ、狙い通りウケたみたいで苦労も報われましたのことよ(詠嘆)。
その後も、諒のリクエストでその格好のまま夕食にしたよ(笑)。そんなに気に入ったのか。そんなにか。
本日の献立は、出始めの白瓜と鶏団子の煮物をメインに、新生姜ごはん、人参の塩きんぴら、豆苗とレンズ豆のサラダです。
白瓜を鶏のだしであっさり煮た煮物は汁物代わりにもなるように薄味に仕立てたスープがたっぷり、鶏団子は大きめにごろんと食べ応え十分なサイズ。
新生姜ごはんは、細い千切りの新生姜をめんつゆで軽く煮て、炊きたてごはんに混ぜ込んでみた。こうすると、直接炊き込むよりも生姜の火通りの調節しやすくて、ピリッと辛みを残して仕上げられるんだよね。
人参はゴマ油で炒め、塩で味つけして青海苔ふって塩きんぴらに。醤油を使わないので、オレンジ色が鮮やかです。
軽く焼き目がつくまで揚げ気味に炒めたレンズ豆をオイルごと豆苗に載せて、ポン酢をざっとまわしかけたサラダ。
今日は有休だったからちょっと頑張っちゃった。
カフェーの女給さんスタイルで給仕してるもんだから、諒はずーっとニコニコくすくす笑ってた。
「そんなに楽しい?」
ちょっと呆れて、からかい気味に聞いてみたら、照れくさそうに笑って、「うん」と頷いた。
「疲れて帰ってきたとこに、かわいい奥さんがうまいもんつくって待っててくれるのって、こんなに癒やされるんだなー。って、自分でもびっくりするくらい嬉しくてさ。さっきからニヤニヤが止まらない」
「……そ、そう?なんだ?」
かわいい奥さんって、誰のことだ。……私かーーーー!
諒はごはん食べてる間もずっと嬉しそうに楽しそうに私を眺めてて、こっちこそ照れくさいわ。ひゃー。恥ずい。
「そこまでとは思わなかった。すごいね、フリルエプロンの威力」
「うん。エプロンしてなくてもかわいいし嬉しいけどね。今日は、いつも以上にかわいい」
ひゃ、ひゃー。やめれ。黙れ。
じわじわと頬が赤くなってくのを自覚する。ひゃー。
諒は私が照れるのわかっててこういうことを言う。こんにゃろ。
全部眉子のせいだ(八つ当たり)。
諒はくすくす笑い続けていたけれど、やがて、
「……ありがとな」
と、なにやら感に堪えない様子で言った。
「?」
そこまでしみじみ礼を言われるようなことかな。と、怪訝ヅラしてたら、苦笑を返される。
「自分でもそんなにしんみりしてるつもりはなかったんだけど。やっぱり、こんなふうに家族がバラけて過ごすのって初めてだから。ちょっと落ち着かない、っていうか、……うん、なんか、ヘンな感じはするかな」
手を取って引き寄せられて、膝の上に乗せられ、ふわっと抱き込まれた。
「元気づけようとしてくれたんだろ。嬉しいよ」
……いや。そんな大げさなこっちゃないんだけどさ。
でも、諒はずっと家族5人で過ごしてきたから。
自分も実家を出たとき、経験あるんだよね。
家族がそれぞれの道を選んで、生活が変わる瞬間、っていうのがあって、それは悪いことじゃなくて喜ばしいことだったりするんだけど、でも、やっぱり何かしら思うところがあって。
「家のことが煩わしいこともあったし、家を出たいって何度も思ったことある。だけど、実際んとこ、複雑だな……」
寂しい、とは言いたくないけど。感傷的に胸の奥を擦られるような、ほの苦いような気持がざわめいて。
うまく言えなくて、言う必要もない気がして、諒の胸のあたりに頬を寄せて、ぎゅ、と抱きついてみた。
諒の膝の上はすっかり私の定位置になってて、諒は私を抱きしめて背中をあやすみたいに撫でた。
「これからは、あい子と家族になるんだな」
うん。
家族になろうね。
「それはそうと、三枝さんにエプロンのお礼しないとな」
「いいよそんなの」
眉子。あの酔っぱらいの魔女め。
「あの女、からかっておもしろがってるんだから。このエプロンだって、あの調子でくすくす笑いながら、“これで裸エプロンして遊びなよ”とか言うんだよ。バカじゃないの」
やるわけないじゃん、裸エプロンとか、ねえ?
ところが諒は、
「裸エプロン?」
えらいこと真顔で聞き返してきました。
「……やらないの?」
「やらないよ!」
やめろよマジ顔で聞くなよ、なに考えてんだ。
さっきまでしんみりしてたくせに、なんだよエロいオチかよ! 残念かよ!
諒のバーカ!




