30.博至さんの“新タマネギのけったん”
博至さんのごはんはおいしい。
なんていうかな、味が澄んでるっていうか、迷いがなく、雑味がない。
なかでも新タマネギの季節には必ずつくるという“新タマネギのけったん”という料理は絶品です!
「何ですかコレ。めっちゃおいしい。すっごいおいしい。新タマネギってこんなにおいしいんだ」
「そりゃそうだよ」
と、博至さんはニコニコ笑う。
「だって料理本のレシピ通りにつくったんだもん。僕の手柄じゃなくて、レシピを考えた方がすごいんだよ。
これはね、土井善晴先生のレシピ。“けったん”ていうのは、炒めもの、っていう意味らしいよ。“油揚げの炊いたん”とかいうでしょ。“炊いたん”とか“けったん”とか、味わい深いよね」
「俺もコレ好き。タマネギがもりもり食べられちゃうんだよね」
と、圭さん。この人は普段あまり好き嫌いを露わにしないので、こんなに相好を崩すのは珍しい。
諒は感心しきり、といった風で
「新タマネギならでは、の料理なんだよな。しかも、タマネギの切り方でこんなに味が変わるって、すごい。料理って奥が深いな」
やたらしみじみと感じ入ってるし、修くんはひたすらもくもく食ってるし、聡美さんもニコニコしながらいつもよりいっぱい食べてる。
これね、ホンットーにおいしいから、つくってみるといいよ! 簡単だし。
すっごいシンプルな料理です。材料は、新タマネギ、牛肉の切り落とし、塩、以上。
詳しいレシピは“新たまねぎのけったん”“土井善晴”などでググってみてね!(……いやほら、自分のレシピでもないのにあまり詳らかにご紹介するのも気がひけましてね)
博至さんは自分でも言ってる通り、レシピ通りにきっちり分量を計ってつくる。自分なりのアレンジみたいなことをいっさいしない。(だからちょっと時間がかかっちゃったり、材料が揃ってないとつくれない、とか、融通がきかないこともある)
だから、誰がつくっても同じなはずなんだけど、気のせいかな。博至さんがつくったほうがおいしい。
自分ちでもやってみたけど、なんか違うんだよね。なんでだろう。
「わかる。なんでなんだろうな。火加減? 塩加減かな」
「博至さんがつくると、タマネギが余計に甘いような気がするんだよね」
ていうか、諒や圭さんや修くんはそもそもこの料理をつくらない。
博至さんの得意料理、ってことになってて、これが食べたくなると皆で博至コールでねだるのです。もちろん私もコールに参加するよ。
けったん! ひろし! けったん! ひろし!
諒はたまに似たようなものをつくって、例えば牛肉をベーコンにしてみたり、カレー粉ふってみたり焼肉のタレ使ってみたり、アレンジを加えた新タマ炒めをつくることがあって、それはそれですっごくおいしいんだけど。
でも、博至さんがレシピ通りと称するシンプルな塩味でつくると、
「やっぱコレ!“けったん”はこれだよね!」
って、納得と満足でみんな赤べこみたいになる。うんうんうんうんうんうん。頷きまくりまくって頸椎折れないか心配です(嘘)。
諒はちょっと口惜しそうな、困ったような、けど、納得して嬉しそうな、複雑な表情をするんだけど。
実はそういう諒、結構好きだったりするのです(惚気!)




