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乾燥豆子と弁当男子  作者: ムトウ
2.家族とかごはんとか
28/58

28.圭さんの夜食(前編)

 その日の高橋家の夕食は諒の当番で、献立はプーパッポンカリーでした。


 プーパッポンカリーとは、タイ料理の“カニと卵のカレー炒め”のことで、本来、正調なプーパッポンカリーにはココナツミルクとかナムリックパオとか使うそうで、今日のプーパッポンカリーは市販のカレールーを使ったカレーソースを絡めた仕上げだったので正確にはプーパッポンカリー風の炒め物だったのですが、もう、ものすごくおいしかったです、プーパッポンカリー。カニとふわふわ炒り卵とカレーソース、ってなんて組み合わせなんだよ最高かようますぎるよプーパッポンカリー。

 って、プーパッポンカリーって言いたいだけなんですけど。

 いや、あのね、プーパッポンカリーって言葉、すごく楽しくない? プーパッポンカリー。料理も料理名も大好き、プーパッポンカリー。楽しい!

 そろそろしつこいかな。すんません。


 それでね。プーパッポンカリーに使ったカレーソースの小鍋があったんですよ。

 鍋底に1cmほど残ってこびりついたカレーソース。

 捨てて洗っちゃうにはもったいない。とはいえ、ごはんにかけるには足りない。

 さて、これ、どうしますか?




 その日、私はいつものように高橋家で夕食をごいっしょして、帰るの面倒になったのでそのまま泊まる、という、なかなかいけ図々しい所業に及んでおりました。

 私の着替えとか歯ブラシ、洗面用具、メイク道具なんかも置きっぱにしてある入り浸りっぷり。

 ちなみに泊まるときは、私が諒の部屋を借り、諒がリビングのソファベッドで、別々に休みます。諒の部屋でいっしょに寝ちゃってもいいんだろうけど、一応のけじめとしてね。なんか気になっちゃうじゃん?(照笑)


 夕食後、諒は、読みたい本がある、と自室で読書にいそしみ、私は博至父さんとリビングで時代劇を見ておりました。

「あい子さんも時代劇好きなんだねー。大河は何が好き? 僕ね、「平清盛」」

 ぐわー! そこか! ものすごいツボをついてくるな! ちなみに私は「平清盛」もツボですが、「独眼竜正宗」がマイフェイバリット。

 というわけで、最近は博至さん所蔵の珠玉の時代劇を堪能させていただく日々なのです。


 本日はなんと「腕におぼえあり」ですよ! 見たかったんだ、これ。

 村上弘明、かっこよすぎ。黒木瞳も色っぽかわいい。何よりこのふたりの微妙な関係、揺れる! 萌える! 堪らん!


 リビングのテレビを占領し、ソファに並んで「青江様すてきー」とか「渡辺徹もイイ味だよね」とか、ダベりながら見るの、至福。


 ついつい引き込まれて2話続けて見たら、結構イイ時間になってしまった。

「続きはまた今度にして、今日はここまでにしとこうか。僕はそろそろ休むね」

 お休みなさーい。と、博至さんを見送り、さて私も寝ようかな。


 寝る前に喉が渇いたので、台所に赴くと、圭さんがいた。冷蔵庫の中を眺めて何やら思案げにしている。夜食かな? 今日は深夜勤って言ってたっけ。


「圭さん、夜食ですか?」

「うん、出勤前に軽く食ってこうかと思って。ん、カレーの鍋か、これ使えるな」

 そして出ました、冒頭でサジェスト致しました、例のプーパッポンカリーのカレーソースの小鍋ですよ!

 圭さんはどうするのかな。


「実は俺、こういうの得意なの」

 圭さんは鍋に少し水を加えて火にかけた。こういうの、とは、残りものの始末、ってことらしい。

「俺は諒とか修ほど料理好きじゃなくてね。何より、洗い物が嫌いなんだ。食器類は食洗機使えるけど、できるだけ鍋とか調理器具使わないように、レトルト使ったり、買ってきた総菜出すことも多いよ。諒は、手抜きとかぶつぶつ言うこともあったけどね」

 相変わらずのよいお声です。穏やかテノール美ボイスのエレガンス。語られるのは夜食と手抜きメシ。いやいや、結構なことですよ!


「諒、小うるさいもんね。でも、手抜きって大事じゃない?」

「だよね。手を抜くところは抜かなくちゃ」

 圭さんは愉快そうに笑う。次いで、冷蔵庫からカット野菜ミックスのタッパーを取り出した。

 カット野菜はときどき諒が仕込んでるやつ。タマネギとか人参、キャベツ、ピーマンなど、何かのついでに多めに野菜を切っておくんだよね。マメな男だぜ。


「こういう鍋とか洗うのすっごい面倒くさくてね。だから、鍋を片づけるついでにひと品、とか、よく考えた。洗い物嫌いからの発想なんだよ」

 湯が煮立ってきたら、スパチュラでこそげて鍋の内側壁面に固まったカレーソースを溶かし込み、そこにカット野菜をひとにぎり加える。


 カレー溶いただけじゃ味が薄いんじゃないかな。と思っていたら、圭さんは心得たように冷蔵庫から何やら取り出した。

「これね、ラーメンのスープ。チルド麺についてくる濃縮ペースト、余ってるやつね」

 味噌味! マジですか! 


「味噌とカレーって合うんだよ。で、スープの味みながらちょっと濃いめに調整して、中華麺をぶっこんで」

 カレーラーメンだ!

 既に火を通してある、蒸しタイプの麺。そっか、これなら鍋ひとつでつくれちゃうもんね。

「煮えてきたら、仕上げに無調整豆乳を半カップくらい」

 そっか、ここで豆乳加えてちょうどよくなるように、濃いめに味つけしてたんだ。ワザだね!


「味噌カレー豆乳ラーメン、できあがり」

 すげー! あっという間だ。やっぱりカレーって汎用性高いなー。いい匂い。


 ほほーぅ。と感心して見惚れていたら、圭さんはちょっと笑って

「味見してみる? もう夜遅いから、少しだけね」

 と、お椀に小分けしてくれた。


 なんだこりゃ。めちゃくちゃうまそうだな!

「え、でも、圭さんのぶん、足りなくないですか? いいの?」

「うん。白飯も食べたいから、ちょっと量が多いなと思ってたところなんだ。かまわないから、どうぞ」

 圭さんは冷凍庫からごはんを出してレンチンしたものをラップごと飯椀に乗っけた。ホントに洗い物キライなんだな(笑)。


 夜更けのラーメン、禁断です。背徳です。

 これは抗いがたい。たまりませんな!


 お言葉に甘えて、遠慮なくいただくことにします。

「いただきまーす!」

 七味を振って、スープをひと啜り。ぬわー! びっくり。

「ぜんぜん違和感ない。味噌カレーいいね!」

「意外と味噌が強いでしょ? カレーは奥に引っ込むんだよ。で、後味と香りで効いてくる」

「このとろみはカレールーのとろみだよね? 麺によく絡んでおいしい。豆乳がまたいい仕事してるわー」

「そりゃね、味噌と豆乳が合わないわけないし。これに卵落としてもうまいよ。今日は夕食が卵だったからやんなかったけど」

 熱々。はふはふ。これはいいな。

 カレーの鍋始末を兼ねてる、というのが快挙だね。



「ところで、あい子さん放っぽって諒はどうしてるの?」

「読みかけのクレイグ・ライスの続きが気になる、って部屋に籠もってるよ。推理小説はハマると止まらないよね」

「そんであい子さんはまた、父さんと時代劇見てたんだ?」

「うん。今日は村上弘明。かっこいいよー」

 好きだねえ、と圭さんは呆れたように笑った。


 それから圭さんは、2階の諒の部屋方向、斜め上にちらりと目線を向け。

 なんだか悪戯を企むような表情で、

「諒はね、俺に対抗心があるんだよ」

 穏やかテノール美ボイス、企み声バージョンで炸裂です。


 なんですかなんかぶっちゃけるつもりですか圭さん。大歓迎ですよ!




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