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乾燥豆子と弁当男子  作者: ムトウ
2.家族とかごはんとか
27/58

27.諒のチキンソテー(後編)

 ここらで、焼き始めてから15分くらい経過しましたよ。


「お、皮目にいい焼き色ついてきたよ!」

「うん、でももう5分くらい待とうか」

「うー。むー。まだかー。あ、ねえ、脂は? クッキングペーパーとかで吸い取らなくていいの?」

「うーん。鶏の匂いが苦手とかで、取りたかったら取ってもいいけど。でも、この場合、脂が肝心なんだよ。脂が溶け出して鍋底に溜まってきてるだろ? この脂でじわじわ揚げてるような状態なんだ。これで皮がパリパリになる」

「そーーーいうことかーー。なるほど。私の場合、ここでひっくり返して蓋して蒸し焼きにしちゃうんだけど」

「そうすると熱が逃げないから、火の通り早いよね。それはそれでアリだと思うよ。

 こうやって、弱火でじっくり焼く利点は、肉の水分が蒸発してくから、ぎゅっと締まった仕上がりになるんだ」

「なるほどね。パリパリ&ぎゅっと締まった食感のポイントなわけね」

 さらにまた、しばし放置です。



「俺がやたらに鶏を使うのは、経済的事情ってやつでさ。考えてみ? 上から16歳、15歳、11歳の兄弟抱えた5人家族だよ? めちゃめちゃ食うよね、そのくらいの年頃は」

「……あーーなるほど。私も弟がいるからわかるよ。人によりけりだと思うけど、男の子ってびっくりするくらい食べるよね。しかも肉食べたがる。それとご飯」

「そう。それ。単純に、体ができてくる年頃だから、タンパク質が必要なんだよ。修は陸上やってたし、エネルギー使うから炭水化物もね。

 肉に限らず、魚介類でもいいんだけど、この辺りのスーパーの品揃え的には、魚はどうしても割高になる。

 今でこそ、父さんと兄弟3人、4馬力で稼いでるけどさ。その頃は父さんひとりの収入で、母さんの治療費や家政婦さんを雇う費用もかかるし俺たちの学費も予定しとかなきゃならないし、結構キツかったんだ。親戚に援助してもらってどうにかやってたけど、どうしても肉がっつり食いたかったら値段的に鶏になるんだよね」

 なるほど。それで、鶏料理の達人に。



 20分経過。

「んじゃ、ひっくり返すよ」

「おー! 焼き色こんがり、パリパリだ!」

「これでまた10分くらいかな」

「放置でいいんだ?」

「うん、基本的に放置でいいよ。ヒマなら、底に溜まってきた脂をスプーンで掬って肉にかけたり、世話してあげてもいいけど」

「世話してあげる、っていいね、その言いかた。その感じ、なんかわかる」


「脂は、これが合鴨だったらもっとすごい脂出るし、取っといて炒め物とかにも使えるよ。ブランド地鶏とかもね。

 普通のブロイラーなら無理して使うこともないけど、よっぽどイヤな匂いじゃなければ、こうして焼くときに利用してあげるといい」

「そっか、それで香ばしくなるわけか」


 ひっくり返してから、10分経過。

「まだこの分厚い部分、火が通ってないな。柔らかいとこ残ってる。火が通ると、ブリッと弾力で跳ね返すみたいになるからね」

「金串刺してみて、串が熱ければOK、っていうアレは?」

「そのやり方もアリ。金串刺すときの抵抗感とかでもわかるけど、よくわかんないときは切ってみればいいよ」


 さらに5分ほど焼いて。

「そろそろいいかな。ちょっと火力をあげて中火くらいにして」

 脂がパチパチ音を立て始めた。

「もう一度ひっくり返して皮目を下にしてやって、揚げ焼きみたいな感じにこんがり焼き付けて」

 蓋して蒸し焼きにした際も、最後に焼き付けてやるとパリッとするそうです。

「仕上げに温度上げるのが脂っこくならないコツなんだ。ここだけ、焦がさないように注意」


 皮がパリッと仕上がったら火からおろし、油切りバットに乗せて、いったん肉汁を落ち着かせます。

「時間はかかるけど、本当にただ焼いただけなんだね」

「そうなんだよ。このくらいの弱火だと、長時間でも焦げないだろ?」


 5分くらい置いてから、さてさて、切ってみようぜ!

「どれ、いい感じじゃないかな」


 サクッ! とパリパリの皮を断つ快い音がして、白い肉の断面があらわれます。うっすらピンクがかってるけど、火は通ってる。いい香りの湯気がふかふか立ち上る。

「うわ。おいしそう」


「粉ふきいもを枕にして皿に盛りつけて、ちょっと強めに塩と黒胡椒、レモン添えて」

 できあがり!

 ロメインレタスはちぎって粉チーズとベーコンビッツ、フレンチドレッシングでサラダに。

 ドライシードルを開けて、いただきまーす!


「やっぱりおいしい! 鶏とレタスいっしょに食ってもサラダチキン的にウマいね。シードルも合う。鶏の脂と肉汁が染みたじゃがいももイイ!」

「そりゃよかった。もう一枚も火にかけたから、飲み食いしながらのんびり焼こう」


「これさ、食べ盛りのコなら2枚くらいぺろっと食べちゃうよね」

「食う食う。ヘタすると3枚いっちゃうだろ。それに飯も山盛り」

「中高生男子の食欲満たし続けるのって途方にくれるよねー。底なし沼だもん」

「わかる。腹ん中にブラックホールあるよね。俺はボリューム増すことを考えて、唐揚げとかチキンカツとか揚げものばっかりつくってたら父さんが音を上げたよ。父さんと母さんのだけ違うものつくったりしてた」


 誰かを食わせないといけない、食わせ続けなければならない、っていうプレッシャーはかなりのもんなのよなー。


 こうしてユーガにグラスを傾けながらひとつの皿をつつきあって満足できるのってオトナだよね。

 諒は、ようやくゆっくり食事を楽しめるようになったんだと思う。



 ……って、何コレ。

 主婦だ。主婦の会話だよコレ。いやーん。

 お年頃の愛し合う男女()のおうちデート飯のはずなのに。


「あい子、そろそろもう1枚もひっくり返す頃合いじゃないか?」

「ほいほい」


 ダメだもう。主婦ふたりの休日でいいですよこの際……。

 鶏肉は主婦の味方!というお話でございました!(ヤケクソ)




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