1.イケメンがビミョーにモテない理由
高橋は非常に姿のよい男だ。イケメン、という言い方は軽々しくて好きじゃないけど、10人いたら8人は彼をイケメン、と評するのではないか。
10人中10人、ではないあたりがポイント。なんというかね、かっこよすぎない「ほどよさ」というか「隙」というか、気の利いた「ハズし感」があるんですよ。知らんけど。
清潔感のあるサワヤカ系美男。薄味・塩系ってやつかな。一瞬でパッと人目をひく華やかさはないけれど、涼しげに整った顔立ちはじわじわと印象を深めるタイプ。
目鼻のパーツそのもののつくりは抑えめ控えめで、その配置のバランスがとてもよろしいのだと思う。
身長175cmくらいなのかなぁ、そこそこ長身の部類に入ると思うけど。肉厚過ぎず平坦過ぎず、ほどよい肉付きでバランス取れてて、まあつまり体格もイケメンということです。
脂肪の乗りは控えめ、赤身成分多めの締まった鍛えられ方、と予想される。
……なんか描写がおかしいな。腹減ってるせいか。そろそろお昼だもんね。肉食いたいなー。
えーとまあ、バスケ選手よりかはバレーボール選手っぽい体格。ていえばわかりやすいかな。
で、そのようなイケてる面貌をお持ちの高橋は、態度も誠実で穏やかサワヤカですこぶる評判がよい。お年の頃は26歳(確かね)、独身、恋人ナシ。だそうだよ? どうでもいいけど。
女性だけでなく、オヤジ受けもよく、社内で「娘の婿にしたい」ナンバー1はカタいだろうな。
高橋……下の名前なんつったかな。なんかこじゃれた、ショウとかリョウとか、漢字ひと文字系ステキげな名前だったと思う。あ、諒だ。高橋諒。
「高橋諒、っと」
と、別の部署への引継書類に記入していたら、
「呼ばれました?」
と、斜め前の席、当の本人から反応されてしまった。
おお、今日もサワヤカだな、おぬし。
「あ、すいません。ちょうど担当者名書き込んでたとこで、つい声に出ました」
「なんだ、そうか。あい子さん、結構ひとりごと多いですよね」
あい子さん。名前で呼ばれちゃってるよなんだなんだどうしたことだよなにこのトクベツな感じぃー。と、句点を忘れて混乱したふりをしてみましたが、別に動揺しておりません。
マイネームイズ芹沢あい子、なのですが、経理課には芹沢がふたりいるのです。区別をつけるために姓ではなく名を呼ばれてしまう致し方なき事態。
というわけでイケメン高橋以外も、課長も同僚も他部署の方々も取引先までもが名前呼び。いちいち照れてられるか。
ちなみにもうひとりの芹沢さん(50代男性・既婚)とは夫婦でも兄弟でも親類縁者でもない。
ていうかさー。人口多い苗字ランキングでいえば確実に高橋の方が上でしょうが。高橋がカブらなくて芹沢でカブるのってどうなの。
と、仕事をやっつけつつも脳内で独り言高速回転しておりましたら、お待ちかねの昼休みでございますやりぃー。
鞄から弁当を取り出し、ほくほくと給湯室に向かおうと席を立ったところで、
「ぶっ」
と、斜め前・高橋方向から失笑されました。なんだ君失礼だな。
ちらりと見やれば、
「ああすいません。つい。そんなに昼飯待ち遠しかったのかと思って」
くくっ、と笑いをこらえようとしてこらえきれていない。
「さっきから、なんか悩み事でもあるのかな、ってくらい難しい顔してぶつぶつ呟いてるな、と思ったら、昼休みのチャイム鳴った途端、ぱあーっと表情が変わるからさ。まさか、腹減ってたとは」
あははははは。
遠慮なく笑いやがったなこの野郎。サワヤカ笑顔が眩しいぜ。
「……そんなにおかしいですか」
憮然と問い返せば、
「すいません」
なおも笑いながら、ちっとも悪いと思ってなさそうなツラで口ばかり謝る。
それから、彼も持参の弁当を自分の机の上に出した。
奴も弁当族なのである。そしてその弁当が、高橋諒がイケメン優良物件であるにも関わらずビミョーにモテない理由なのだった。
高橋諒の弁当はイイ。すごくイイ。
弁当箱に詰められているのはきんぴらごぼうや卵焼き、塩鮭やひじきの煮物など素朴な惣菜の他、たまに、どかんと大きなハンバーグがご飯の上に大胆に据えられていたり、はたまた、ナッツと干しエビ入りの香ばしい焼きビーフンだったり、実直な家庭の味&アクセント的なイベント飯と、献立に緩急をつけて見事なリズムを成している。
毎日弁当を自作する私から見ても、ブラボーでマーベラスなビバ弁当ライフ。ハラショー。
そして、ここが肝心。
彼の弁当は
「母がつくってくれるんです」
んだそうだ。
いや、いいよ? 全然問題ない。大変に素晴らしく料理上手なお母上だ。
ただ、彼の場合、台詞におけるお母上登場頻度がハンパないのが問題であって。いわく、「母の」「母による」「母のための」 of Mother, by Mother, for Mother な、簡単にいってしまえばマザコン野郎なのであった。
弁当の話題だけではない。
趣味の話、例えば音楽の話をすれば「そういえばうちの母はカラオケで歌うのが好きで」、例えば映画の話をすれば「母が若い頃見た映画で」、仕事の話でさえも隙あらば「母が言ってたんですが」と、頻出しまくりまくる次第。
下心(っていうか素直に恋心?)をぱんぱんに漲らせて、サワヤカ王子・高橋諒に近づくお嬢さん方は少なくなかったはずだが、もれなくこれらの「母が」発言と言動に打ち落とされた模様。
なかには「母が」の弾幕に耐えてデートまでこぎつけた女性もいたらしいが、さすがに「母が心配してるから帰らないと」と女性を送りもせずにソロで帰宅、という所業はあんまりではなかろうか。
そういった次第で、彼は非モテ街道絶賛ばく進中なのでございました。