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4.邪神とステータス

 俺たちは眩しい光に包まれた。

 眩しい光が消えると、寒々とした広間にいることに気づいた。

 どうやら廃墟らしい。


「なにが、起こってやがる……?」


 そんなことよりも前川あさ美だ。

 俺のマイスイートハニーの安否だ。


 とっさに視線を巡らせる。

 薄暗い廃墟にはクラスメートの全員がいて、俺と同じように混乱している。

 謎の覆面集団はどこにも見当たらない。


「あさ美!」


 俺は床に寝そべって泣いている前川あさ美のもとに駆け寄った。


「あさ美、大丈夫か」

「た、たすけてぇ……」


 あさ美の体を抱き寄せた。

 瞳をぐっと見つめる。


「あさ美、大丈夫だ。あの覆面たちはもういない。俺たちはワープしたんだ」

「わーぷ?」


 そこで俺はあるものに気づいてしまった。

 あさ美を抱き抱えたさらにその下、床の表面になにか不思議な紋様が描かれているのだ。

 俺はこれを知っている。


「魔法陣だ!魔法陣が描かれてやがる!サノバビッチ!」


 そうか。

 俺たちはこれによってこの廃墟に転移されたのか。

 でも何のために?

 何の目的があって?

 誰が?


 訳がわからないことだらけだ。

 一体どうしてこれほどまでに困難が襲いかかってくるんだ?

 幸福の思考回路はフェイクなのか?


 俺は大声で叫んだ。


「加藤!俺の唯一の偶像、加藤!」


 頼るべきは加藤しかいない。

 この謎を解明できるのは加藤ヤイバだけだ。


「ここだ。いま参上する」


 俺とあさ美のもとに、加藤が舞い降りる。


「加藤。これをどう思う?」

「これは……空間転移の大魔術かもしれん」

「なに?」

「僕たちは、何者かの意図によってここへ転移させられたのかも」

「でもおかげで、俺たちは死んじゃいないぜ」

「ああ」

「あの腐れ覆面集団だけが自滅したことになる。ざまーみろ」


 だがそんな俺の推理も無駄に終わった。


 いきなりボロボロの天井付近に光の球体が出現したのだ。

 それが俺たちクラスメートの中心に降臨し、やがて人の形に変化した。


「私は神だ」

「なんだと?」


 奴はそう言った。

 灰色の衣をまとって、厳つい顔をした親父だった。


「いや。正確に言うと、邪神かね?」

「邪神……」


 その言葉の響きに俺は嫌な汗をかく。

 邪神。

 俺の最も恐れるもの。

 俺の妹を殺した最も悪しきもの。

 ディアボロス……。

 サータアンダギーがびりびりと震える。


「あら。邪神様がわたくしたちになんの用ですの?」


 平等院鳳凰子が聞いた。

 なんて奴だ。

 本当に人間か?

 肝の玉が据わってやがるぜ、まったく。


「君たちには少しショッキングな事実を話させてもらおう」

「ショッキング……?」

「実を言うとね、君たちはもう死んでいる」

「なに……?」

「君たちは教室でホームルームをしていた。そこに謎の覆面集団が現れて、誤ってダイナマイトを爆発させてしまった。君たちは爆風に巻き込まれて死んだ。これが事実だ」

「うそ、だろ……?」

「いいや。実につまらん事実だ。君たちは泣いていい」


 平等院が泣き始めた。

 あさ美も泣き始めた。

 あたりではドミノのように泣き声が連鎖していく。慈悲もなし。

 サイレント・ティアーズ・ディスティニー……。


「お母ちゃん……お母ちゃん……」


 サッカー部の近藤も泣く。

 相撲部の伊達も泣く。


 だけど加藤は泣かない。

 加藤は両手をぐっと握り締めて邪神を睨みつける。

 俺はその神聖な姿に勇気をもらう。


 もう一度、立ち上がろう。


「俺たちをここに呼び寄せた目的はなんだ、イビル・ゴッド」


 邪神は肩を揺らして笑った。


「なに、簡単なことだよ。君たちにチャンスをやろうと思ったんだ」

「チャンス?」

「そうだ。私としてもね、君たちが死ぬのはイレギュラーだったのさ」

「どういうことだ」

「本来君たちは死ぬべき人間ではなかった。でもね、予定が狂ったのだよ。なにか、運命の理が捻じ曲げられているんだ。誰かの手によってね」


 俺には心当たりがある。

 幸福の思考回路だ。

 理性を摘出した俺は物理法則から解放された超越者となった。

 運命の観測からも逃れられるのだ。


 つまり、奴の狙いは、俺……。

 時計仕掛けの冷やしみかん……。


「だから今度は、私の運命から逃れられない仕様にしたのさ」


 邪神は両腕を広げた。


「ようこそ諸君。私の箱庭へ」


 ここは奴のメインフィールド。

 イビル・ゴッド・ホーリー・ナイト。

 圧倒的な威圧感が周囲を包む。

 俺は聞いた。


「なにが望みだ?」

「のんのん。私は君たちにチャンスをあげる、そう言ったじゃないか」


 加藤が訝しんでいる。

 ということは、邪神は怪しいということだ。


「おいおい。そう身構えないでくれたまへ。私は君たちに、この箱庭で新たな人生を歩む権利を与えてあげたのだよ。このまま死ぬのは、口惜しいだろう?」

「それは、そうだけどよ」

「この世界は私によって管理されている。君たちの素質に合わせて、ステータスを割り振らせてもらったよ」

「ステータス?」


 俺が疑問に思った瞬間、視界の端にステータスウィンドウが出現した。



 星空メテオ

 レベル1


 体力2100

 攻撃7600

 防御2800

 速度7000

 魔攻0

 魔防2800


 ユニークスキル

 ステルス

 古武術

 美男子


 称号

 彗星のラプソディ

 邪神の寵愛者



 俺は心臓が張り裂けそうになる。

 邪神の寵愛者。

 つまり俺は、邪神から特別視されている。

 幸福の思考回路が、バレている……?


 他のクラスメートも、自分たちのステータスを確認しているようだ。

 あさ美も加藤もじっと中空を見つめている。

 俺からはあさ美や加藤のステータスは確認できない。


「大体、自分の能力やスキルがわかってもらえたかな?」


 邪神は面白そうに言った。


「じゃあまず最初に、君たちに試練を与えよう」

「これ以上俺たちに、なにをやらせようって言うんだ?」

「代償だよ。私は君たちの命を救うために、余計な魔力を消費してしまった。ゆえに、それを回復させるために、君たちの中から一人、生贄を捧げてほしいんだ」

「ふざけるなよ?オタマジャクシ野郎が?」


 俺は頭に血が昇った。

 レモン果汁を目ん玉にぶちまけられたとき以来の憤怒だった。


「ふざけるなと言いたいのは私のだほうだ」

「なんだと?」

「私はわざわざ君たちを救ってやったんだ。サービス残業だよ諸君。こちらが勝手に生贄を選んでやってもいいのだぞ。それを君たちに選ばせてやると私はのたまっているのだ。感謝こそすれ、恨むというのはお門違いとは思わんかね?」

「そうだな。悪かったよ。かたじけない」


 俺は謝った。

 それと同時に、あたりは重苦しい空気で包まれる。

 静寂に次ぐ静寂に次ぐ静寂。


 ――羊たちの沈黙。


「すぐに決めろとは言わん。一日待とう。一日後の今の時間帯に、ここから南東にある生贄の祠にまで来てもらいたい。それで君たちは自由だ。命を謳歌するとよい」


 邪神はすうっと姿を消した。

 あさ美は泣きつづけている。

 サータアンダギー……。



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