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ビビ俺  作者: タイキ
第1章
5/7

Page5. 聖魔術同盟


 ―――[グリーンジャイアント]をものの一撃で倒した二人は、クエストを決めるときに来ていた集会所まで戻って来ていた。


「ほんっとほんとに癪だけど、あなたの支援の実力だけは認めてあげるわ!支援に関してはだけの話だけどね!」

「褒められてるのか悪口言われてるのか全然分かんねえけど、支援だけでも実力が伝わって良かった!」


 アカリが自分のレベルのことを疑っていたことは薄々勘付いてはいた。それもそうだ、ゴブリンも倒せないやつが自分よりレベルが高いとは夢にも思わない。しかし、カイトにはそれを証明できるものが支援魔法しかなかった。クエストを通してとりあえず疑いが晴れたようで、カイトは安堵の表情を浮かべる。


「っていうか、どのステータスにどれだけポイント振れば、あんなとんでもない威力になるのよ!?あんな支援魔法一度も受けたことなかったんだけど!」


 SMOではレベルが1上がる毎に得ることのできるステータスポイントをそれぞれ5つのアビリティに割り振ることで、成長していくシステムを導入している。アカリの言っているポイントも多分そのことを言っているのだろう。

 体力、筋力、俊敏、耐久、魔力に均等に振れば、弱点のないキャラが出来上がるし、筋力だけを上げれば体力などは全然ないが、馬鹿みたいな攻撃力のキャラが出来上がる。ステータスポイントが一定のラインを上回ることで、新しいスキルや魔法を覚えることが可能だ。

 カイトの使っていたキャラクターは俊敏、耐久、魔力の3つにポイントを振っている。支援をする予定はそもそもなかったのだが、ポイントを振っていく中で習得した支援魔法がこんな形で役に立つとは予想だにしていなかった。

 実際のレベルが260位なので、得た総ステータスポイントはアカリとは桁違いだ。きっと体力、筋力ともにアカリ並みにはあるだろう。

 

「ぼちぼち全体的に振ってるだけだぜ?」


 その言葉にアカリは疑わしそうな視線でカイトを見つめる。ぼちぼち全体的に振っているだけじゃあんな威力の魔法は使えないことはアカリも分かっているはずだ。しかし、最初に伝えたレベルを少し偽っている以上、正直には話せない。

 せっかくレベル詐称の疑いが晴れたのに、また疑われてしまったらたまったものじゃない。


「まあいいわ。カイトがレベルについては嘘ついてないのは分かったし、これ以上私が疑う必要はないものね」


 アカリはそう言って疑わしそうな表情から切り替え、いつもの表情に戻る。どうやらまた疑われる危機だけは回避できたらしい。

なんとなく無言の時間が嫌でカイトは口を開いた。

 


「今日はありがとな。アカリも用事とかあるだろうに俺のわがままでクエストに付き合ってもらって」

「別に気にしなくていいわよ、私もいい暇つぶしになったし」


 「ところで・・・」と急に話を変えるアカリ。

 不思議に思ってアカリの顔を見ると、アカリは手のひらを顔の前で合わして、少し頭を下げる。


「さっきの風の支援魔法またかけてくれない?完全にこれから用事があるの忘れてた!」

「別にいいけどさ、あんまり町の中走んなよ。多分店先にある商品とか全部吹っ飛ぶから!」


 アカリはカイトが生み出した光球が自分に吸い込まれるのを確認するや否や、集会所を全速力で飛び出した。


「あ、ちょ!だから走んなって言ったのに・・・」


 掲示板に留めてあったクエスト依頼の紙がはらはらと集会所の中を舞う。周りの人が何事かと振り向く中

で、カイトは一人頭を下げながら紙を拾い集めるのだった。




「ギリギリ間に合った・・・」


 アカリは肩で息をしながら、目の前の大きな建物を見上げる。

 ここはフガーナクの隣にあるニクリアという街。その中心に位置するこの建物はアカリが所属するギルド、[聖魔術同盟]の本部だ。

 [聖魔術同盟]は、SMOの中でもトップを争うほどの大手ギルドだ。他のギルドは各個人でレベリングをしていくような雰囲気がある中、このギルドは実力者でも下の者の面倒を見たりする。アカリはそんなアットホームなこのクランが気に入っていた。

 事情があって空いてしまった幹部の枠にアカリは新しく任命され、月に一度ある幹部の会議に出席することになっている。


 最上階にある会議室のドアを開けると、アカリ以外の5席はもう既に埋まっており、視線がアカリに集まる。

いつもは優しく面倒見も良い頼れるお兄さんお姉さんなのだが、アカリの知らないところではこんな真面目な顔もするんだ、とどこか他人事のような感想を抱く。


「すみません!遅くなりました!」

 

 頭を下げて謝りながら自分の席に着くと、ギルドマスターであるヴァルが立ち上がった。


「それでは幹部会議を始めたいと思う」


 ヴァルのその言葉に、既に緊張感が高まっていた部屋の空気がより張り詰める。

 

「先の迷宮攻略では尊い1名の死者を出してしまった。彼がいなければもっと多くの犠牲者が出たことだろう。しかし、私たちには立ち止まっている時間はない。彼の犠牲を無駄にしないためにも、3日後もう一度迷宮攻略を行う」


 全員の顔が曇る。きっと前回の迷宮攻略のことを思い出してのことだ。


―――前回の迷宮攻略。あれは途中まではうまく進んでいた。

 総勢40人を役職ごとに率いていたのは4人の幹部。基本的に30人程度で行う迷宮攻略に[聖魔術同盟]は、若干厚めの編成で臨んでいた。その時は幹部でなかったアカリは、列の後方に並んでいた。

 戦線が崩れたのはボス部屋の少し手前。ボス部屋の扉が見えて、少し油断してしまったところもあるのかもしれない。

 そこに突然現れたのは全く情報のないモンスター。意表を突かれた形で先制を取られた。並みのギルドであれば狼狽し、統率が取れなくなってしまうだろう。だが、そこは大手ギルドだ。幹部たちの号令で盾役が前線へ上がる。その後ろに中距離、遠距離部隊の列が作られ、体制を整え直す。

 ギルドではイレギュラーな事態にも対応する訓練もしっかりとしている。これも数多くの考えていた数多くの想定外の一つのはずだった。

 次の瞬間、アカリが見たものは、大剣を薙ぐモンスターと吹っ飛ばされる盾役の姿。ほとんどのステータスポイントを防御に振った盾役を吹っ飛ばすモンスターなんて一度も見たことも聞いたこともない。


 全滅、という二文字が頭をよぎったのはなにもアカリだけではなかっただろう。

 

 「総員、全速力で撤退しろ!!殿は俺が務める!」

 

 先頭からした声は盾役を率いていた幹部、レオナルドのものだ。一瞬で戦況を不利だと判断したレオナルドは即時撤退の判断を下した。

 直後、大剣と盾がぶつかり合う金属同士の甲高い音が響く。


 「支援魔法も何もいらん!振り返らずに走れ!」


 後方からレオナルドの支援をしようとしていた3人の幹部にレオナルドはそう言った。


 「見ればわかるだろう!こいつは普通のモンスターじゃない!ここで俺が食い止めなきゃ全滅する!」


 普通のモンスターでないことは3人の幹部も気づいていただろう。そして、4人で連携を取って戦ったとしても、勝てるかどうかわからないことも。


 「総員、撤退!!私たちに着いてきて!」


 3人は団員にそう叫ぶと、レオナルドに背を向けて走り出す。

 ―――振り返るアカリが最後に見たのは、ボロボロになった盾を片手に攻撃を凌ぐレオナルドだった。

 ダンジョンから脱出した団員の前にレオナルドが戻ってくることはなかった。


 何もできずにただ見ていただけの自分の無力さを思い出してアカリは唇を噛んだ。しかし、それ以上に幹部たちのほうが悔しい思いは強いだろう。共に競い、共に幹部まで上り詰めた仲間だ。それほどまでにショックも大きい。


「特に前回の戦闘に参加していた3人は、迷宮攻略が始まるまでに団員にモンスター情報の共有をしておいてくれ。これで会議は終わる。何かあるか?」


 誰も何も言わないことを確認して、ヴァルは部屋から出ていく。暗い顔をするほかの幹部に何も声をかけることができないまま、全員が出て行ってしまいアカリは部屋に一人きりになる。


 自分にはレオナルドのようにみんなをまとめる統率力があるわけでも、みんなを守り切れるような強さがあるわけでもない。それでも、今度こそは、目の前で傷ついている人を救おうと心に決める。

 アカリは3日後に迫った迷宮攻略までに自分に何ができるかを考えていた。


久しぶりの投稿になって申し訳ありません。これからは細々と書き続けられたらいいなと思っています!

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