page4. 初クエスト・初支援
アカリが待ち合わせの店の中に入ると、すでに来ていたカイトがひらひらとこちらに手を振る。昨日のようなジャージ姿ではなく、きちんとした装備を身に着けたカイトは、多少はましな姿になっている。だが、能天気そうなカイトの姿からは、自分と100もレベル差があるとは到底考えられない。正直アカリはまだカイトのことを疑っていた。
そんなカイトの粗探しをしようと改めてカイトを見て、アカリはその動きを止めた。
「ねえ、カイト。まさかその装備って!?」
「あ、これ?なんか有った」
この男はどれだけ自分が凄いものを身に着けているのか分かっていないのだろうか。
カイトの装備は全て、Lv150以上のボスモンスターからしか入手できないアイテム、しかもレアドロップだ。トッププレイヤーの中でも一握りしかもっていない装備品。そんな装備品をアカリが見間違うはずもない。
Lv150といったら、トッププレイヤーたちがしっかりとした連携をとって何とか倒せるような相手だ。アカリも討伐に参加したことはあるが、決して一筋縄ではいかなかったことを覚えている。
それでもまだ装備が1個だけなら辛うじて理解できる。こんな風に全身をレアドロップの装備でそろえている奴なんて見たことがない。
当の本人であるカイトは「どうした?」という目でアカリを見ていた。
「あのさぁ、カイト。その格好でここまで来て、変な目で見られなかった?」
アカリの質問にカイトはしばらく考えたような動きをした後に、
「ああ、俺が通るたびにひそひそ話が起こってたかも・・・」
と答える。
「そりゃそうでしょうね・・・」
街行く人もきっとアカリと同じ感想を抱いたに違いない。
「この装備なんか変?」
「いや、とってもよくにあってるわよー」
「なんで棒読み!?おかしいならおかしいって言ってくれよ」
「はい、じゃあ今日のクエストの話に移るわね」
カイトに説明したところできっと理解してくれないと考え、アカリはクエストの話に移った。隣でまだぶつぶつ言っているカイトを無視し、アカリは続ける。
「この街の西門から、外に出てちょっと行った場所に<癒しの森>っていうダンジョンがあるんだけどそれに行きましょう」
「オーケー、<癒しの森>か・・、緩いクエストだといいけどな」
「まあ、それはついてからのお楽しみってことで」
「わかった、さあ行こうぜ」
そう言って、カイトとアカリは立ち上がった。
「なんだこいつら!?全然癒しでもなんでもない!」
二人がいるのは、ダンジョン<癒しの森>内部。ここに来るまでに既に二十体近くのモンスターを倒してきていた。―――アカリが。
ちなみに、アカリが一撃でモンスターを屠るので、未だにカイトの支援魔法の出番はない。
癒しと聞いて緩めのクエストを期待していたカイトは、最初目の前に現れたモンスターを見て愕然とした。[人面花]。それがここのダンジョンに蔓延るモンスターの名前だ。名前の通り花びらのような頭部の中心には人の顔があり、蔓でできている体から毒液や蔓を用いて攻撃を行う。
「カイトー、支援してくれるんじゃないのー?腕きっついんだけど」
次々に迫り来る蔓を、いとも簡単に切り払いながらアカリはカイトに言う。
「このくらい全然つらくないように見えるんですけど・・・。まあこのままじゃ支援の腕前を見せるとかいう前に終わっちゃいそうだし、やってやりましょう」
そう言ってカイトは掌に3つの光球を生み出す。それらはアカリとアカリの大剣へ吸い込まれていく。
「えっ!?」
それぞれ、<炎属性付与>、<追加攻撃:風>、<行動支援:風>。
大剣を中心として炎の渦が上がる。
斬撃で両断された人面花を追加で発動された風の刃が木端微塵にする。
走る、跳ぶ、斬るといった行動すべてに風の支援が自動的に発動し、スピードや跳躍力が倍以上になる。
支援魔法のかけられたアカリが、フィールドのすべてのモンスターを駆逐するまでにそう時間はかからなかった。
カイトとアカリの二人だけになってしまったダンジョンで、満足そうな顔をしてカイトは尋ねる。
「どう?」
端から見れば、かける前と後では違いは一目瞭然だろう。しかし簡単には認めたくないアカリは渋い表情を浮かべた。
「まだまだ全然よ!こんなんじゃあなたが強いかどうかなんてわからないんだから!」
そう言い放ってアカリはカイトに背を向けて歩き出す。
「はいはい、認めてもらえるように頑張りますよ」
早歩きで先を行くアカリをカイトは追いかけるのだった。
―――そして
「やっとついた・・・」
ボス部屋の前にまでたどり着いた二人は優に5メートルはある大きな扉を見つめる。
ここに来るまで、カイトはアカリが敵を倒すたびに「認めないんだから!」と言われ続けていた。
「こういうところの装飾はゲームのまんまなんだな」
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもねえよ。じゃあいこうぜ」
カイトが扉に触れる。触った場所から光が扉全体に広がり、音を立ててゆっくりと開いた。
「ボス部屋ってこんな感じなんだ」
薄暗い半球のような形をした部屋。しかしこの部屋の中にボスがいる気配はない。その事を不思議に思いカイトがアカリに尋ねようとした矢先、部屋の中央に光が集まりモンスターのシルエットを作り出す。
蔓で構築された体は4メートルを超しており、二足歩行のその姿は巨人のようだった。
後から聞いた話だとこのボスモンスターは[グリーンジャイアント]というらしい。
「アカリ、相手の動き止めた後に、支援かけるから全力のスキル一発かましてくれ」
「え?一発でいいの?流石に私でもそんだけじゃ倒せないわよ?」
アカリとどれだけレベル差が離れているといっても、仮にもボスモンスターだ。攻撃を積み重ねていかないと倒すことはできないだろう。
そうは思うが自分よりレベルが100も上の支援魔法を受けてみたいという、一冒険者としての思いもある。
「いいから、いいから、ってアカリ敵来てるぜ!?」
ゆっくりと歩いてくる敵を極力見ないようにしながら、カイトは左手を突き出した。手のひらから濃い青色をした光球が飛び出す。
ふわふわと敵の体に近づいていったそれは接触すると膨張し、青いドームが敵の体を覆う。上から何かに押さえつけられるような形で敵の動きが完全に止まった。
「こんなことってあるのね・・・」
アカリは目の前の光景を見てあきれたように呟いた。
最上級魔法<重力倍加>。
本来は相手の動きを鈍くさせるための魔法だ。その魔法で完全に敵の動きを止めている。レベル差、ステータスの差がここまでの効果を生む。
それと並行し右手から飛び出した4つの光球がアカリの体に吸い込まれる。
<炎属性付与>、<攻撃力倍加>、<行動支援:風>、<斬撃威力増加>。
カイトの支援を受けたアカリが[グリーン・ジャイアント]に向かって一歩踏み出す。
―――瞬間、ズバンという爆音が轟きアカリの姿が消える。
―――否、アカリが目にも捉えきれない速さで駆けた。
辛うじて見えたのは、紅の軌跡
数瞬をおいて緑の巨人の上半身がグラリと揺れる。
地響きをあげて倒れた巨人の向こうには、剣を振り抜いた姿勢のままのアカリがいた。