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ビビ俺  作者: タイキ
第1章
3/7

page3. 俺がビビリになった訳

 ーーーー目が覚めると、俺を見つめるアカリの顔がすぐ近くにあった。

 周りの風景から、ここがまだ森の中だということが分かる。

 カイトは起き上がろうとする。


「あ、待って、まだ傷が回復してないから」


 アカリがそんなことを言うが、時すでに遅し。カイトの体に痛みが走り、顔をしかめる。


「いってええええ」

「だから言ったのに・・・」


 アカリはカイトの体に治癒魔法をかけ体中の痣をあらかた治しつつ、俯きながら話し出した。


「ごめんね、あんなことになるなんて分かんなくて・・・」


 今にも泣き出しそうなアカリ。それに対しカイトは言う。


「アカリは悪くねえよ、むしろ謝るのはこっちの方だ。心配かけて悪かった」


 そう言ってカイトは多少の痛みを無視し深々と頭を下げた。

 まさか謝られるとは思っていなかったのだろう。アカリは慌てて、カイトに顔をあげてと頼む。

 顔をあげたカイトはこう言い放つ。 


「多分俺は、モンスターとは戦えない」

「何で・・・・・」

「ごめんな。理由は言いたくない」

「わかった・・・」


 カイトは自分が何故ゴブリンを倒せなかったか、思い当たる節があった。


ーーーー時村海斗は、中学時代にいじめにあっていた。

 理由は、いじめられていた人を助けたから。よくある理由だ。ただそれだけのことで、標的が自分に変わりそれまで親しかった友人も、みんなが海斗から遠ざかっていった。

 最初は仲間外しや無視等だったが、次第にそれは暴力に変わっていき、毎日いじめられた。

 そして、海斗をいじめていた奴等の腐りきった眼を、ゴブリンの眼の中にも垣間見たのだ。

ーーーー過去のトラウマが蘇ったカイトはどうしても、立ち向かうことが出来なかった。もう二年も前の話で克服したものだと思っていたが、いざ目の前に現れるとやはり無理らしい。


「よしっ、治療完了したよ」


 気持ちを切り替えたアカリはカイトの体から、手を離しそう言った。


「どうする?今日寝るとこ?」

「今日はあてがあるから大丈夫」


 カイトが言うあてとは、街にあるはずのプレイヤーハウス、一つの街に一つだけ置くことの出来る拠点のことだ。カイトのプレイヤーハウスもフガーナクにある。


「じゃあ、まず街に帰ろうか」

「おう」


 二人は街への帰路へと着いた。


 ーーーー街へと帰りつき、アカリと別れたカイトは、SMOをプレイしていた時のことを思い返す。


「俺の記憶が正しければ・・・」


 カイトはそう言いながら、通りの角を曲がる。


「あった!!」


 見えたのは、古いレンガ造りの4階建ての建物。その最上階である4階の一室にカイトの部屋があった。ゲームをしている間、何度も使っただけに思い入れも深く、自然と足早になる。

 カイトはこの建物の古びた感じが基地みたいでかっこいい、という理由でここを買い、この街のプレイヤーハウスとして登録した。

 カイトの目の前にあるのは401と書かれたプレート。緊張した手でボロボロの木のドアをそっと押す。キィという小さな音と共にドアが開いた。


「ただいま」


  返してくれる人が居ないと分かりながら、恥ずかしげにそう呟く。

  目に飛び込んできたのは、ゲームのプレイヤーハウスと全く変わらない部屋。

 ベットが1つに道具入れがあり、床には愛用していた装備品が無造作に散らばっていた。


「ん?」


 その装備品を見て、カイトは疑問を持つ。


「何で、装備品があるんだ?」


  この部屋が見つかったことで、少し浮かれていた。しかし、よくよく考えるとおかしいのだ。

 そして、カイトはある仮定にたどり着く。


「もしかして、SMOのセーブデータがこっちの世界にも受け継がれている・・・?」


  そこまで言ってカイトは、道具箱の中を漁る。出てくるのは、見たことのあるアイテムばかり。

  それを見て、仮定は結論へと変わった。


「これなら俺でもどうにかなるかもしれない・・・」


 そう呟いたカイトの目は、先程ゴブリンの前に立ったときの目ではなかった。



ーーーー二日後、街の中央にある集会所でカイトは、再びアカリと会っていた。こうやってカイトの面倒を親身に見てくれるのはアカリの人柄の良さだろう。

 周りはクエストなどを受けようとするパーティーが3~4組いた。向かいの席同士に座った二人は話し始める。


「早速なんだけどさ、今、アカリのレベルどんくらいなの?」


 突如、投げかけられた質問にアカリは3秒位フリーズしてから、胸の前で右手の人差し指を使い×印を描く。

 出現したのは、緑色のウインドウ。反対からなのでよく読み取れないが、レベルや装備品の着脱が行えるらしい。ステータス画面のようなものだろうか。


「私のレベルは93よ。結構高い方じゃない?」


 どのくらいのレベルで高いというのかは全く分からないので反応に困る。 


「へえー」


 とりあえずカイトは素っ気なくそう返した。


「何?自分から聞いてきたくせに、じゃあ、カイトのレベルは?」


 カイトは見よう見まねで胸の前で×印を描く。すると、先程と同じウインドウが現れ、自分のステータスが見れた。

 カイトは自分のかなりチート気味なステータスを見て苦笑。


「やっぱりステータスは引き継がれてるのか」


 そしてアカリに自分の現在のレベルから150ほど下げた値を伝えた。


「俺?187だけど」

「え!?今なんて?」


 アカリは自分の聞いたことが信じられないのかカイトにもう一度尋ねる。


「だから187だけど?」

「・・・・・」


 絶句。それもそうだろう。目の前にいる、ゴブリンも倒せなかった少年が自分より約100もレベルが違うのが信じられないのだ。

 実際、カイト自身にはレベルに見合う身体能力はない。だが、ステータスが高いため、攻撃さえ出来ればゴブリンなど木っ端微塵にする力を持っている。

 攻撃さえ出来れば、という話だが。


「そういうことで、なんかクエスト受けようぜ。昨日情けないところ見せちまったから挽回の機会が欲しい」

「クエストって、カイトは戦えないでしょ?」

「いや、俺は支援でもしようと思ってな」


  そう言ってカイトは掲示板から一枚の紙をはがし持ってきた。その紙に書いてあった依頼ーークエストは、<近隣のモンスター駆除>という内容だった。


「このくらいだったら私一人でもいけるよ?」

「まあ、いいじゃん。まずはこのくらいのから行こうぜ」


 そういってカイトは席を立ち、


「明日ここで待ってるから、遅れるなよー」


 とだけ言って行ってしまった。





――― 一人残されたアカリは呟く。


「あんなゴブリンも倒せない奴が強いなんて信じないわよ」


 アカリがこのレベルになるのにかかった年月はおよそ二年。その間毎日モンスターと闘ってきた。自慢するわけではないがレベル上げに対する情熱は生半可なものではなかったと思っている。


「明日のクエストで本当に強いかどうか確かめてやるんだから・・・」


 そう言ってアカリは集会所を後にした。


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