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ビビ俺  作者: タイキ
第1章
2/7

page2. モンスター恐怖症

 目を覚ましたカイトは、知らない天井を見て自分がSMOの中にきたことを改めて感じていた。

 あの後、アカリと別れたカイトは、アカリにもらった金で宿屋に入り、そこで一日を終えていた。


「やっば!!」


 顔を洗い、脳が覚醒したカイトは、朝からアカリと約束をしていたのを思い出す。腕にはめた時計はとっくにその時刻を過ぎていた。


「あのさカイト君、確かに話を持ちかけたのは私かも知れないよ。でも、女の子を一時間以上待たせるっていうのは人として間違ってると思うよ」

「はい、スミマセン」


 カイトが遅れて到着した時には、腰の剣に手をかけ殺気立っているアカリがいた。

 そして、広場の整えられた石畳の上に正座させられているのが今の状況だった。

 十分以上説教をされ、ようやく終わるとアカリは今日カイトを呼んだ理由を話す。


「カイトはこの街のこと知らなさそうだから、私が教えてあげようと思って」

「あ、ありがとう」


 女の子とのコミュニケーションスキルを持っていないカイトにはそう返すのがやっとだった。


「意外と優しいんだな」


 カイトが素直に思ったことを口にすると、アカリは顔を真っ赤に染め否定する。


「そんなんじゃないわよ。ただ私も見たいところがあったし、次いでよ、次いで」


 こうして、カイトとアカリの街探検がスタートした。



 初めに向かったのは様々なものが売ってある店、SMOならば<カルン>という名前だっただろうか。初心者の装備から上級者のアイテムまで多種多様なものが売ってあったはずだ。まあ、ゲームの中での話なのだが。

 カイトは少し期待に胸を膨らませ店のドアを開ける。

 両サイドの棚の中には様々な種類のアイテムがこれでもかというくらいに詰め込まれていた。店の中のあまりの圧迫感に、カイトは店をそっと出ようとして、


「え、ちょっと何してんの?」


 アカリに止められ、カイトは渋々といった様子で店の中へと戻る。

 店は3階まであるらしく、武器が売ってあるという3階にカイトは向かう。アカリは買うものがあるらしく2階へと向かった。

 3階でも武器は所狭しと並んでいた。近くにあった短剣を引き抜く。決して軽くはないどっしりとした重さが、これが本物の剣であることを教えてくれる。


「おまたせー」


 アカリがパンパンになった皮袋を持って、3階へとやって来た。


「じゃあ、早速武器選ぼうか」

「選ぶってどうやって?」


 カイトがそう質問するとアカリは、皮袋から、元の世界でいうコンパスのようなものを取り出した。

 ひとつ違うのは、針が二つではなく、赤色のが一本あるだけということ。


「なんだそれ?」

「これはね、これを触った人の魔力や身体能力等から、その人に最も合う武器を見つけてくれる道具よ」

「魔力!?魔法が使えたりするあれか?」

「ええ、そうだけど」


 SMOの中だから使えるとは思っていたが、実際使えると聞くとやはりテンションが上がるものだ。カイトの顔が緩み、どんどん笑顔になっていく。それを見てアカリは一言。


「なんか、気持ち悪い」

「ああ、悪い。魔法と聞くと、なんかな」


 男子なら一度は魔法を夢見たことがあるだろう。魔法なんて出るわけもないのに痛々しい詠唱をしたこともあるだろう。それが現実となるんだ。嬉しくない訳がない。


「じゃあ、これに触って」


 カイトがコンパスに触れると針が回転し始め、赤い針が双剣のシルエットを指し示す。


「双剣ね、ちょっと待ってて」


 そう言ってアカリが向かったのは、無造作に剣が壁にかけてある場所だ。その中からひとつを選ぶとカイトのもとへ戻ってくる。


「これ使ってみて、たぶん初心者には使いやすいと思うから」


 カイトはアカリから剣を受けとると、グリップを確認したり、自分に合うかどうか確認する。


「サンキュー、重さもちょうどいいし使いやすそう」

「どういたしまして、まあその体だとそのくらいの軽さがいいと思ってね」


 ゲームのステータスが反映されるというのなら、このゲームでは俊敏性重視の軽装ばかりしていたため筋力に経験値はほぼ割り振っていない。

 カイトは改めて剣をまじまじと見つめる。番いの刃はギラリと光っている。


 ―――俺は本当にゲームのなかにいるんだ。

 しっかりと剣を握り改めてカイトはそう考えたのだった。


「武器も持ったことだし、早速戦い方を私がレクチャーしてあげるわ」


 武器を買って店から出たカイト達は、街を出て〈ゴブリンの森〉までやって来ていた。


「戦い方って?そんなのわからないぞ?」


 画面を押すだけならできるが、実際に敵を倒してみようといわれても武器の振り方もわからない素人だ。


「あなたって本当に不思議よね。よくそんなんで生きてこられたって本気で思うんだけど」


 この指摘に関してはもう笑うしかできないカイト。


「実戦の中で教えてあげる。まあ、着いてきて」


アカリについていくと、着いたのはその付近だけ木がない、開けた場所。


「ここで、カイトにゴブリンと戦ってもらうわ」

「早速だな」

「まあね、習うより慣れろって言うでしょ」


 この世界にいる人も、そんな言葉を知っているんだとカイトは少し驚く。日本製のゲームだから知っていたとしても何ら不思議ではない。


「そこら辺に、ゴブリンいると思うからやっつけてきて」


 さも簡単なことのようにアカリは言い放つ。

 それを聞いたカイトが心配そうな顔をしているのが分かったのか、続けて一言付け加える。


「大丈夫、ゴブリンは一体じゃとっても弱いモンスターだから、攻撃されても痛くないし、そうされる前に斬っちゃえば問題ないよ」


 その一体に追いかけ回されていた俺って・・・、とカイトは自分の不甲斐なさを悔やむ。


「分かった、やってみるよ」

「でも、一応私から見える範囲で戦ってね」


 カイトがアカリから30メートル程離れ、茂みが生い茂る場所に来た。

 唸り声が聞こえ、カイトが目を向けるとそこにはゴブリンがいた。


「さあ、SMO初戦闘やってみますか」


 そう言ってカイトは、腰にかけていた双剣を抜き放ち、グリップを何度も握りしめる。背筋を冷や汗が流れる。

 複数と戦うのは厄介と言っていたのを思い出し、速攻で勝負を決めるため駆け出す。ゴブリンとの距離がどんどん近づいてくる。

 まだゴブリンはこちらに気づいてはいないようだ。


ーーーーこれなら俺でも倒せるっ!!


 そう思った矢先、こちらに気づいたのか振り返ったゴブリンと視線が交錯する。


「あ・・・れ・・」


 その途端、カイトの足がぴたりと止まり、ゴブリンのすぐ目の前で停止する。

 ーーーー呼吸が荒くなる。明確な敵意を孕んだその目は、昔の事を思い出させる。


「カイトっ!?」


 ーーーーほんの30メートル後ろから呼びかけてくるアカリの声も、何処か遠く感じる。

 瞬間、腹に棍棒が直撃。思ったよりダメージはない。だがそれは一撃だけならという話。

 カイトの体に次々と棍棒が叩き込まれる。

 ゴブリンの数も徐々に増え、体を打つ棍棒の数も増える。


 ーーーーあまりの痛みに、とうとうカイトは意識を手放した。


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