幼馴染みの計画
「なんであいつが・・・。」
1人、部屋で悩んでいるのは開斗の幼馴染み、西宮さくらだ。
彼女が眺めているノートには、『西宮改め種田さくら計画』と書かれてあった。
「開斗のことが好きなのにあえて開斗を男子校に行くように誘導した意味ってなんだったの・・・?」
彼女は、開斗とは幼稚園以来の仲で、彼への恋心に気づいたのは小2の頃だという。
しかし、彼がこの先ずっと自分だけを見ていてくれる保証はどこにもなかったし、もしかすると他の女に奪われるかもしれないと思ったさくらは、この『夙川改め種田さくら計画』を作った。概要はこうだ。まず、開斗に中学受験を勧め、男子校に行くように誘導する。
そうすれば開斗は女子との関わりを完全に断ってしまうため、他の女に奪われることはなくなる。
加えて、女子との関わりを失った開斗は女子に飢え、さらに異性への免疫まで失うだろうと考えた。
そして、そろそろ間違いなく恋愛感情を持ち始めるだろうという高校生の時に、開斗は女子に免疫のない状態で、女の子と仲良くしたい、彼女が欲しいと思っているだろう。ここで、さくらは3年ぶりに開斗に会い、彼に急接近する。彼は、突然自分に急接近してくる女の子に対して、何も思わない訳がない。
そうなってしまえば、後はさくらの思い通り、開斗の頭の中はさくらで埋め尽くされるに違いない。そして数日間くらい近距離で生活した後に告白すれば、彼は顔を真っ赤にしながらOKをくれるだろう。
【幼馴染みは、幼い頃からちゃんと計画を立てておけば最強】これは、彼女が愛読しているライトノベル『絶対一緒の幼馴染み』において、主人公の南野楽鷹の幼馴染み、相原利奈子が彼に想いを寄せる後輩と生徒会長にとどめを差した言葉である。さくらはこの言葉を信じ、幼い頃から立てた計画のチェックメイトを行うはずだった。
そこに花さえ入って来なければ。
確かに幼馴染みが幼い頃からカップルを成立させた上でいつまでもいちゃいちゃしてたら他人の介入などできるはずもない。しかし、今回はそういうわけでない。
『絶対一緒の幼馴染み』にもライバルはいた。しかし、花みたいに突然幼馴染みの好きな人の家に直接入るような人はいなかった。
「どうしよう。今頃開斗は水川にデレデレなのかなぁ・・・。」
自分で口にした言葉で悲しくなる。
「そんなのいやだよ・・・。こんなところで、終わりたくない・・・。」
・・・あれ?水川花?
「ッ!!」
さくらは、水川花という存在を知っていた。自分の恋心ゆえに、その事実に気づかなかっただけだった。
開斗を『あの場所』には近づけない。自分の中でそう誓っていたはずなのに・・・。
☆
「花が必要ってどういうこと?」
「私の能力は、『能力開花』。能力の威力を無理矢理引き上げる能力、まさにあなたのためにあるようなものね。」
「無理矢理………って、それで………。」
「予想通りよ。その『秘密の種』を強引に開けるの。本来はそのための力、だから開花なんて言葉を使うの。だから、普通の能力者に使ったら能力を開花させるためのエネルギーさえも能力の強化に使われてしまう。そして暴走を引き起こすの。」
開斗は、返す言葉が見つからない。
「私は、本来いるべき人のところにいる。だから私はここにいる。ねぇ、開斗の家にいさせて。いいでしょ?」
花に急接近されては、開斗としては断れるはずがない。
「わかったよ。親が勝手に出ていっちゃったから部屋なら空いてるよ。」
「うん、ありがと。」
その後、花が続けて言い出したことは
「ねぇ、せっかくだし、この能力を実際に使っている場所に行かない?」
☆
「あぁ、やられた!」
さくらは、いくら鳴らしても出ない開斗の家の前にいた。
「水川花、絶対にやらせない。二方面の意味で!!」