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魔術師の少女たち

ミリアベルの言葉もあり、イーゼルロットはまだまだごく少数であるが、友人を持つことができた。ミリアベルやピュリエ、リュートら女子の友人ばかりで気が引けていた様子だが、しばらくすると男子の友人もちらほらとできていた。イーゼルロットは魔術に関しては非常に理解が早く、また話してみると気さくであったため、いろいろと頼られていた。根暗、人を見下している、などとマイナスのイメージばかり付きまとっていたが、ただ単に人付き合いが苦手なだけと知ると、多くのものが彼に親しくしていた。

ミリアベルはその様子を見て、フフ、と笑う。ピュリエが不満そうに彼女を見る。


「いいのぉ、イーゼルロット君、他の人にとられてるよ」


「いいのよ」


ピュリエはイーゼルロットにミリアベルが恋している、と思っているようだが、ミリアベル自身はまだ自分の気持ちが何であるかはわかっていない。ただ単に、放っておけなかっただけで、その根底の想いはわからない。今はただ、お互いに友人であり、それ以上でも以下でもない、と言う関係が一番いい、とミリアベルは思う。


「それより、リュートはどうしたの?」


授業終わりと同時に教室を去っていった友人を思い出し、ミリアベルが聞く。ああ、とピュリエが呟く。


「どうやら実家から届きものがあるとかで取りに行っているよ」


家が離れた場所にある生徒には、時たまそう言うものが届くことがある。待っていれば、寮に届けられるが、どうやらそれを待ちきれないほどらしく、直接取りに行ったようだ。普段は引っ込み思案だが、好きなこととなるとその行動力は飛躍的に上がる。リュートと友人になって一か月近くなれば、そう言った彼女の一面も見えてきた。


「そう言えば、リュートの誕生日がそろそろだって話だから、そのプレゼントかなんかだろうねぇ」


「へぇ。私たちでお祝いしようか?」


ミリアベルの提案にそれはいいね、と目を輝かせるピュリエ。どうせ祝うならば、大勢で祝った方がいい。家族ではにけれど、仲間内で祝ってあげれば少しは寂しさも紛れるだろう。


「それじゃあ、早速マリアベルたちとも話そうか」


「そうね」


その話をしていると、リュートが嬉しさで満ち溢れた顔で教室に戻ってきた。


「よ、お帰り」


「ただいま!」


何かの包みを大事そうに持っているリュート。それは、とミリアベルが問いかけると、えへへー、と笑い、リュートが包みを取る。包みの中にあったのは、一本の杖である。魔術師が使用する杖であり、魔術による加工が施されている。樫の杖に、盾の魔術が施されている。

話に聞くと、少し遅い入学祝だという。大宗主国の両親が知り合いの杖職人に頼み込み、作ってもらった特注品らしい。リュートはそれを嬉しそうに手に持ち、きらきらとした目でそれを見る。

リュートはそれまでの授業では学校に備え付けの杖を使用していた。専用の杖を持つミリアベルやピュリエを羨ましがっていたから、大変に喜んでいた。


「ねえ、リュート。誕生日、そろそろだよね」


ミリアベルの言葉に、え、と目を丸くし、うん、と頷く。


「ミリアベルと話していたんだけど、お祝いをしようかなって」


「えぇ!?い、いいよ、別に」


手を大げさに降り、首を振るリュートに、二人は苦笑いする。そう言う反応が返ってくることは予想していた。


「いいって。私たちが好きでするんだから!」


「そうそ、リュート。友達の好意は遠慮せずうけるもんだぞ」


ミリアベルとピュリエの言葉に、もじもじしながらリュートは一言「ありがとう」と言った。


「それじゃあ、他の連中も誘うとするか!」


ピュリエが言い、皆で恒例の食堂に向かっていく。



マリアベルとリオーネは快く誕生会を了承してくれた。


「やっぱり、みんなで祝った方が楽しいもんね」


ピュリエが言う。小さいころ、一族のもとから離れ、この学園に来たピュリエ。夢のために自分で選んだと這いえ、甘えたい盛りであり、独りでの誕生日は寂しかった。そこに、ミリアベルとマリアベルがいてくれた。二人のおかげで、誕生日は楽しかった。リュートもきっと、そうだろう、と自分を重ねるピュリエ。


「ま、安物だけどプレゼントも各自よーいするよーに」


ピュリエが言うと、皆が笑って頷く。リュートは「安物でいいよ」と首を必死に振る。さすがに、言あらないとは言わなかった。みんなの気持ちが、とてもうれしかった。眼鏡の奥で、目を細めて、遠い故郷の両親に言う。手紙に書かれていた、独りで寂しくはないか、という問いかけ。


(寂しくなんてないよ、だって)


不安だったけれど、今はこうして一緒にいてくれる仲間がいる。リュートはそのことをとても幸せに思うのであった。




リュートの誕生会のことをぼちぼち話していると、昼休みも終わりに近づいてくる。次の授業のために少女たちは二手に分かれた。騎士クラスはこれから基礎体力作り、ということで走り込みた筋力トレーニングをするらしい。マリアベルとリオーネが「また」と言い、手を振って別れる。

ミリアベルら魔術師の卵は、次のクラス合同の授業である魔術戦闘訓練のために魔術師クラス棟のほうに向かっている。

そんなミリアベルたちの前に、三人の少女が立ちふさがった。目のきつい、赤茶の巻き毛の少女が不敵な笑みでミリアベルを見ている。


「ミリアベルさん」


「ミアータさん」


互いに名前を呼んだ二人。取り巻きの少女を後ろに従えたミアータと言う少女は、フフ、と笑う。そして、魔術師のローブ、というにはいささか派手なフリルや装飾を揺らし、その胸を突き出した。


「次の授業では、負けませんわよ?」


そう言い、踵を返す。取り巻きの二人の少女を連れ、ミリアベルをもう一度見て歩き始めた。


「何、あの子?」


ピュリエが聞く。美少女であるが、いかにも気が強く、自分が一番でなくてはならない、と言った様子だな、と思うピュリエの観察は大体あっていた。

ミアータ・アップルランス。中央大陸にあるアルムッシャ公国。彼女はそこの貴族の出身である。父親は立法府である法律院の副院長であり、母親も魔術研究員に務めていた、と彼女が自慢げに話していたことを思い出す。ミリアベルとは同じクラスであり、何かとミリアベルに絡んでくるのだ。一方的にライバル視されているが、実力は確かである。ミリアベルのクラスでは、ミリアベル、イーゼルロット、ミアータの三人が抜きんでていると言ってもいいだろう。


「典型的なお嬢様、って感じだね」


リュートの言葉にそうだよねぇ、と返すピュリエ。ミリアベルには、ドンマイとピュリエが言う。


「まあ、悪い人ではないんだけどね」


苦笑するミリアベル。自分の生まれや身分を鼻にかけてはいるが、根はいい子なのだ。

前にはどこかへいったシャンクシーションクを可愛がっており、ご飯を与えていたし、クラスで困っていた子には口ではとやかく言いながらも、面倒を見ていた。ただ、不器用なだけなのだろう、とミリアベルは思っている。だから、不思議と絡まれても嫌な気持ちはしない。


「さ、私たちも急がないと」


ミリアベルの言葉に頷き、三人は教室に向かっていく。



魔術戦闘訓練の今日の課題は、防御魔法の展開である。相手の魔術よりも早く盾の魔術や障壁を展開し、ダメージを防ぐ。相手の魔術を相殺するほどの魔術を瞬時に組み上げるのは難しいが、盾の魔術及び障壁は比較的簡単かつ詠唱も短い。咄嗟に唱えることができれば、いざと言う時に役に立つ。

熟練した使い手になれば、常時微弱な障壁を張り、瞬時に強化して敵の攻撃に備える、という使い方もできる。

一年次はまだ魔物との実践もないが、二年次以降はそういったものも増えてくる。攻撃手段よりも防御手段を魔術師は第一に覚える必要があるのだとアテナは語った。


「では、ペアになって練習を。飽くまで攻撃魔術は低級のもので、なおかつ危険のないものでするように」


そのほかにも細かい注意はあったが、たいていはそれに集約される。

ピュリエとリュートが組んでいるため、ミリアベルはイーゼルロットとペアを組もうとしたが、彼は彼でほかの男友達とすでに組んでいた。仕方がないからほかに余っている人を探していると、独りと目が合う。その人物もミリアベルを見つけ、近寄ってきた。


「おほほ、奇遇ですわね!」


「ミアータさん」


先ほどのミアータである。取り巻きの二人はペアを組んでいるが、ミアータは組んでいない様子である。曰く、ミアータの目に敵う人物がいないから、ということだ。実際はどうかは知らないが、そう言うことにしておこう、とそれ以上聞くのをミリアベルはやめた。


「それじゃあ、私から行くわよ」


「ええ、どうぞ」


ミリアベルが言うと、ミアータは仰々しく頷いた。ミリアベルは風の魔術を唱えた。ミリアベルの詠唱を始めたにも関わらず、ミアータは防御魔術の詠唱をしなかった。ミリアベルは戸惑うが、そのまま魔術を放つ。ミアータは魔術が迫っても、平然としている。そして、やっと口を動かしたかと思えば、一言告げただけであった。それはミリアベルの放った魔術に直接影響し、魔術をキャンセルさせる高度な魔術であり、およそ一年の魔術師の使う魔法ではない。威張った顔でミリアベルを見るミアータだが、そんなミアータを見て近くにいたヨンド師が言う。


「アップルランス。この授業は防御魔法の授業だぞ。妨害や反射ではないぞ」


教師の注意に、不貞腐れるミアータ。


「防御はできていたじゃありませんの」


「趣旨が違うと言っている。いくらお前が優れた魔術師だろうとも、最初はレベルに合わせて行ってもらえねば、こちらもお前がどういうことを得意とし、不得意とするか掴めないのだ」


そう言ったヨンド師に、反論せず素直に「わかりましたわ」とミアータは言う。わかればいい、と言ってヨンド師は歩き去ろうとし、もう一度ミアータを見る。


「だが、筋はいい。見事な妨害魔術であった」


ヨンド師がそうフォローすると、ミアータも不機嫌が治り、誇らしげに胸を張る。ヨンド師はミリアベルを見て苦笑し、お前も大変だな、と目で言う。ミリアベルも苦笑し、去っていく教師の背中を見た。

その後、互いのポジションを変えたのだが、やはりここでもミアータは趣旨をはき違えているようで、ミリアベルの防御魔術の練習はあまりうまくいかなかった。ヨンド師からも何度か注意されたが、それでもミアータは変わらなかった。

おほほほほほ、と高笑いするミアータ。扱いは面倒だが、魔術の腕は確かにいい。ミリアベルやイーゼルロットと並ぶ実力の持ち主であることを、多くの生徒に示したのであった。


ピュリエは防御魔術をすんなりと展開した。感覚でやるピュリエにとっては、治療魔術などの繊細な魔術とは違って、こういったものは朝飯前だ。最初はタイミングが遅く、ピュリエの放つ目くらましの魔術を喰らっていたリュートも、授業終了前には大分ましになっていた。



授業が終わり、次の四限のためにピュリエたちと別れたミリアベル。次の授業は各自の教室での歴史の授業である。

歴史を担当するのは、デザイア・メルトラと言う名のエルフの魔術師である。魔術クラス以外にも歴史の授業を受け持っている。長い金髪と若く美しい容姿だが、どことなく浮世的な印象を持っている。女子からはキャーキャー言われているが、実年齢は300歳を超すと言われている。出身は北のイヴリス大陸にあるエルフの王国、シレンである。

歴史の本を片手に、教室を回り、穏やかな声でメルトラは語る。


「かつて、十三人の神々がこの世界を作った。神々は希望を込めて、この世界に【エデナ=アルバ】、神々の言葉で【希望の楽園】、を作った。しかし、異界より紛れた『神』により、神々が作り愛してきた世界は、歪められてしまったのだ・・・・・・」


所謂神話の時代から歴史は始まる。そこから空白の時代、魔神トラキア・ハウシュマリアの時代、機甲大戦期、勇者と魔王の時代、人魔大戦とその後の世界情勢、トローア王国時代などといくつかの項目に分かれ、現代にいたるまでを一年で勉強していく。

魔術師に必要な魔術研究の歴史はまた別の授業で行われ、ここでは世界の移り変わりに焦点を当てていく。とはいえ、一般常識である歴史的なものも多く、生徒の中には教師波に知識を持つ者もいるという。そう言ったものは、授業に出なくとも、試験さえ受ければいい、と言うスタンスをとっている。そのため、授業に出てない生徒も何人かおり、ミアータもその一人に含まれている。

ミリアベルも両親やほかの者から歴史については何度も聞いてきたので、受けなくてもいいかな、と思ったが、結局とることにしたのだ。

メルトラの語る歴史はまた新たな視点をミリアベルに示してくれるし、ミリアベルの知らない知識も多くあった。生徒の中にはその話についていくのを放棄している者もいたが、ミリアベルはとても楽しんでその授業に臨んでいた。



五限は教師の用事のため休みとなった。ミリアベルは時間が余ったので、五限終りまで何をしようかと思っていた。五限の後に、リュートの誕生日のための用意をしようと、リュート以外で話をしていたのだ。

学園の外に広がるヨトゥンフェイム共和国の街並。そこで買い物をしようと言うことだ。門限は決まっており、その時間までに寮に戻らなければいけないが、街に出るのは自由であった。共和国は今、勢いのある国であり、各国から様々な品が持ち込まれる。リュートへのいいプレゼントもきっとあるだろう、とみなで話していた。

さて、と思っていると、足元に仔猫がすり寄ってきていた。よく見るとそれはシャンクシーションクであった。


「どうしたの、シャンク」


ミリアベルが問うと、仔猫は目を細め、ミリアベルの腕の中で身を摺り寄せた。イーゼルロットは授業のようで、寂しくて彷徨っていたところにミリアベルがいた、ということだろう。

しばらくシャンクシーションクと遊んでいようか、と思い、ミリアベルは図書館近くの小さな森の方へと歩いて行った。

森に来ると、その中から一人の女性が出てきた。ミリアベルは姓とかとも思ったが、雰囲気から違うな、と察した。


「あら、あなたはここの生徒さん?」


女性の問いに、ミリアベルは「はい」とうなずく。ミリアベルはその女性を観察した。綺麗な紅い髪の女性で、どこか神秘的な感じがした。


「ねえ、学園長室の場所は知っているかしら」


「学園長室なら・・・・・・」


ミリアベルが指を差したり、仕草で場所を伝えると、なるほどね、と女性は頷いた。


「どうもありがとう、助かったわ。久しぶりに転移の魔法を使ったら、変な場所に出ちゃってねえ。助かったわ、ミリアベル」


女性はそう言い、ミリアベルに背を向けて教えた場所に向かっていく。その背中を見ながら、ミリアベルは呆然と見送っていた。


(名前、教えたかな?)


ふと疑問に思ったが、まあいいか、とミリアベルは腕の中で眠るシャンクシーションクとともに森の中へと入っていった。




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