表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/22

希望の季節

シャイア魔術総合学園、と言えば、この世界で知る人はいないと言われる名門の学園である。魔術、と名称についてこそいるが、ここに通う学生は必ずしも魔術師になるわけではなく、騎士や傭兵、それに自国の官僚になるものまで、さまざまな進路が開かれている。シャイア学園はその歴史こそ他国の魔術学園よりも浅いものの、その規模では負けてはいない。かつて魔族と蔑称されてきた亜人たちが作り上げてきたヨトゥンフェイム共和国に学園の私設は存在し、国家・種族を問わず、広く門戸を開いている。学園が開かれて早十数年になるが、その規模はますます巨大になっていく。別名を【祝福されし子らの学園】と言う。これは、公式に言われている言葉ではなく、飽くまで学園に通った生徒や保護者など世間からの呼び名だが、今ではその名が定着している。


その学園内で数年を過ごし、ついに上級生、と言われる年齢になった二人の少女は、再びやってきた春を、清々しい想いで迎えていた。

学園での毎日は充実しており、今年からはより実践的な技術と知識を学ぶことができる。そのことが楽しみでならないのだった。

二人の少女は非常に瓜二つの外見であった。それも当然で、二人は双子の姉妹である。二人の外見で異なる点があるとすれば、それは髪の色と瞳の色であろう。

蒼い髪を頭の後ろで一本に結った、気の強そうな少女は、その黒曜の如き瞳を希望で輝かせている。

紅い髪を首もとで切り、短くしている少女は、穏やかな笑みを浮かべ、その紫色の瞳で双子の姉を見る。

蒼い髪の姉の名前を、ミリアベルと言い、紅い髪の妹の名前を、マリアベルと言う。

ミリアベルの瞳は母から、マリアベルの瞳は父からそれぞれ受け継いだものである。髪の色は、父親が紫であったため、それから青か赤かに強くなっていった、ということなのだろうか。髪の色のおかげで二人は間違われることはなかった。双子とはいえ、何から何まで同じというわけではない。事実、こうして学園に通っている彼女らだが、今年からはそのクラスも変わる。ミリアベルは魔術師クラスに、マリアベルは騎士クラスになるのだ。今年からは三年間、専門的なクラスに分かれ、彼女たちは学ぶこととなるのだ。


「さて、楽しみだな」


ミリアベルは呟き、学び舎を見る。大きな学び舎、シャイア学園は輝かしい光と希望で満ちていた。二人はゆっくりと、だが着実にその学び舎に向かっていく。




かつて、この世界全土を巻き込んだ戦いがあった。この世界、【エデナ=アルバ】を創造した13人の神々と、彼らから世界を奪い取り、支配しようと画策した異世界からの侵略者『神』。敗れた神々は、再び現代において記憶を取り戻し、『神』を倒すため立ち上がった。世界中で画策されていた『神』の計画を阻止し、世界をまとめ上げ、世界の中心に位置する中央大陸オリュン山での決戦が行われた。これが、十六年前の【五大陸大戦】の概略である。

この大戦の後、それまで対立していた国家は互いに手を取り合い、訪れた平和を維持することを誓った。エルフ、ドワーフ、それに魔族と蔑称されていた亜人種との長きにわたる不和を取り除く動きもみられ、現在では随分暮らしやすい世界となっている。シャイア学園も、そのような試みの一環として作られたものであった。それは結果としては大成功、ということになったのである。

かくいう少女たちも、人間と亜人のハーフである。父親が亜人であり、インヴォテールと呼ばれる亜人の一種であるのだ。彼女たちは人間の血が濃いため、わからないが人間とは若干異なる部分もある。十六年前であれば、迫害の対象でもあったのだから、恐ろしい。

幸い今はそのようなことを叫ぶ者はごく少数である。世界有数の国家へと急成長したヨトゥンフェイム共和国と事を起こすことは誰もしたくないからだ。

【五大陸大戦】後、人々は戦争をしていない。精々が時折出現する魔物や、魔神との争いである。戦争後、魔物は数を減らしたが未だ存在している。そして、魔神と呼ばれる魔物とも人間種とも異なる、強力な力を持つ深淵の者たちも、めったなことでは争うことはなかった。彼らは【大戦】後、協定を結び、その多くは協定を順守している。魔神の中には人々に紛れて生活するものや、弟子をとる者もいる。双子も、そんな魔神を数人知っており、世話になっているものだ。


二人は途中まで同じ道をたどっていた。清潔な廊下を歩いていると、様々な人種を見かける。エルフ、ドワーフ、人間、亜人種。今ではこうした様子が一般的な世の中となっている。よく父がそのことを誇らしげに話すことがある。魔族と呼ばれた父と人間の母とのロマンスは有名であり、二人もよく両親以外の者から聞いた。母は元は一国の王女である、と知ったときは驚いたものであった。

魔術クラスと騎士クラスは校舎が異なる。校舎と校舎をつなぐ渡り廊下のところで二人は別れることとなる。だが、クラスが違うということは授業等が違う、ということであり、学園内で自由に会えない、というわけではない。だから、寂しいという感情はなかった。


「お互いにがんばりましょう、ミリアベル」


マリアベルが言うと、ミリアベルも頷き妹を見た。


「ええッ!」


紅い髪を振り、ミリアベルは魔術師クラスの校舎に向かう。マリアベルはそんな姉を見送ると、自分の校舎に向かって歩き出す。

期待に胸を躍らせて、彼女たちは互いの道を行く。




魔術クラスにミリアベルが進もうと思ったのは、ある人が理由である。その人もまた魔術師であり、その保有する知識から賢者と呼ばれる若き女性であった。父や母とは古い知り合いであり、その縁もあり幼少期から世話になることが多かった。ミリアベルはその彼女の語る神話や魔獣の話に興味を持ち、彼女に憧れた。いつか、この人の様になりたい、と思った彼女はこの学園に通う前から魔術師になると決意していた。幸い、父母の才能を受け継ぎ、彼女は魔術の才能があった。


校舎の廊下を歩きながら、少女はフ、と外を見る。生徒たちが会話をし、新たなk視閲に心躍らせる中、一人の少年の姿が見えた。なぜか、その少年のことが気になった。

初めて見る顔であった。この学園には、途中編入も珍しくはないから、彼もそう言った一人なのだろうと思った。白い髪に、紅い瞳。顔の左半分に描かれた文様は、竜を模しているようだ。少年は一人、空を見る。そして、手を広げた。喜ぶように、彼は空気を吸い、そして笑った。

それをぼう、と見ていたミリアベルはしばしそうしていたが、そろそろ最初のクラスでのガイダンスが始まる時間になり、意識を取り戻す。再び見た時、少年の姿はなかった。



ミリアベルのクラスはおよそ二十人で構成されており、そこに専属の魔術師が一人、つく。魔術師として名の知れたものが数多くいるこの学園。彼女たちの担任になった魔術師も、その一人であった。


「ヨンド・ミル・ガイナレストだ」


そう言い、黒板を前にした女魔術師。キリ、とした眼鏡が知的な印象を醸し出す。三十代半ばであり、若くしてゴゥレムや古代魔術に関する研究で名をはせたヨンドは、この学園の長に請われ教鞭をとるようになった。


「これから一年、よろしく頼む」


そう言い、頭を下げる。とりあえず、一年の間はこのクラスで基礎を学ぶ。そして、二年次三年次はそれぞれの目指す分野に分かれる。そのため、クラスもまた変わるのだ。この中には彼女と三年間ずっと担当となる者もいるが、そうでないものもいる、ということだ。


「諸君には、多くのことを学んでもらいたい。知識だけではなく、経験も。今の時代でしか経験できないもの、と言うのは多い。それを、大切にしてほしい」


以上だ、とヨンド師は言う。そして、軽くクラスの自己紹介の時間としよう、と言った。魔術師は孤高であるべし、と言う時代もあったが、知識の専有や、対立関係がかつて争いを起こしたという反省もあり、学園内では皆が壁なく過ごせるように、と教育方針もなっている。ヨンド師はそのことに賛成的であるようだ。

自己紹介が始まる。この世界に存在する五つの大陸の、異なる国家から皆来ていた。ミリアベルも見知る者もいれば、今年から編入してきた者も多い。ミリアベルがその紹介を聞きながらいると彼女の番が来た。ミリアベルは立ち上がり、教室内の生徒たちを見回し、堂々と自己紹介をする。


「ミリアベル・アルゲサスです」


アルゲサス、と聞いた時、教室内が少し、ザワ、とした。アルゲサス、と言う名前に反応するのも無理はない。その姓は、このヨトゥンフェイム共和国の代表者の姓と同じであるからだ。


「皆さんの想像通り、私はクィル・アルゲサスの娘です」


クィル・アルゲサス。先の【大戦】の英雄の一人。魔族の救世主であり、共和国の代表である。


「ですが、どうか普通に接してください。私はクィル・アルゲサスの娘ですが、それ以上でも以下でもない、皆さんと同じ人なのです。どうか、よろしくお願いします」


そう言い、彼女は座る。好奇の目が彼女を見ているが、それに慣れていた。

彼女の後も、紹介は続く。そして。

先ほど、ミリアベルが見た少年も、このクラスにいたのであった。

立ち上がった彼の姿を見て、ミリアベルは再び彼を見つめた。白い髪の少年は、低い声で喋り始めた。


「イーゼルロッド・ファーレンハイト。生まれはクライシュ大陸。・・・・・・以上です」


それだけの紹介で彼の番は終わった。皆大して彼に興味を抱かない中、ミリアベルはその黒い瞳で少年を見る。なぜかはわからないが。

ふと、彼の目が彼女を見る。二人の視線が一瞬、交錯したかと思ったが、それは気のせいだったようだ。

ミリアベルが視線を外し、次の紹介を聞き始める。そんな彼女を、赤い瞳がじっと見ていることに気が付かずに。




紹介が終わり、授業や使用可能な施設についてヨンド師が話し始めた。一通りの話が終わったのは、それから一時間ほどのちであった。その後、学園生全員を対象に、学園長からの話があるという。学園中心の大講堂へと全員集合、ということで各クラスごとに向かう。大講堂はこの学園の生徒を余裕で収納できる。学園には下手をすれば万に近い生徒がいるのに、それを全員受け入れられる、ということからも規模の大きさが計り知れる。

ミリアベルは途中、マリアベルの姿を見つけ、手を振る。双子の妹も気づき、手を振り、またあとで、と合図する。これが終わり、また各自クラスに戻れば昼休みだ。その時にまた会おうと決めていたのだ。

ミリアベルはうん、と返し、始まった学園長の話に集中する。彼女は何時にもまして真面目な顔であった。それは、ただ学園長の話だから、と言うわけではない。


大講堂の壇上に、一人の女性が立った。学園長、と言うからには年老いた老婆やそれなりの風格の魔術師が立つもの、と相場は決まっている。だが、その相場を裏切り、壇上に立ったのはまだ二十代と思しき女性だ。長いオレンジ色の髪。知的な光を煌めかせる彼女こそ、この学園の長であり、そしてミリアベルたちの父母と同じ【大戦】の英雄である。セラーナ・シャイア。それが彼女の名前である。そして、ミリアベルが両親以上に尊敬する、あこがれの魔術師であった。


「再び会う人たちにはお帰りなさい、と言う言葉を贈りましょう。そして、この学園に初めて通う方々には、ようこそ、と言う言葉を贈ります。この学び舎で、共に学べることを光栄に思います」


学園長はそう言い、一度全校生徒を見るようにじっくりと視線を動かした。


「あの長き戦争の時代が終わり、世界は平和の時代に向かっています。その時代でもあえてなぜ魔術や騎士としての技術が必要か。それを疑問に思いながらこの学園に来た人もいるでしょう。それに対する私なりの答えはありますが、あえてそれを言うことはしません。それはあなた方の今後の学園生活で自分で見つけ出すべきことですから」


彼女はそう言い、すう、と息を吸った。


「ですが、その答えを出す手伝いは出来ます。私も、この学園の教師も、そして学友たちとともに、答えを探していきたい。私でさえ、未だにわからないことはたくさんあります。学び、ともに高みに上っていきましょう。・・・・・・私からのお話は以上です」


そう言い、セラーナ学園長は礼をし、壇上を下りた。ミリアベルは彼女を見て、感激していた。あこがれの魔術師の言葉は、それだけで感動に値するものだ。

この生徒の前で、堂々と話すその姿。今も昔もそれは変わらない。あの人の様になりたい。そう思い、彼女は今、ここにいるのだ。

よし、と彼女は決意を強くした。





学園長の話の後に、学園の教師たちからの諸注意や連絡があり、再び教室に戻り一時間の昼休みとなった。

マリアベルとの待ち合わせ場所である学園内の食堂に向かうミリアベル。何千人規模の学園の食堂は非常に大きく、テラス席もある。

そこに向かうミリアベルのもとに、一人の少女が駆け寄ってきた。小柄な桃色の髪の狐の獣人であった。


「ミリア!」


その声に振り返り、ミリアベルは彼女を見る。ああ、と彼女は声を上げ、久しぶりに会った友人の名を呼ぶ。


「ピュリエ!久しぶり!」


ピュリエ、と呼ばれた少女は嬉しそうにその狐耳をひょこひょこと動かした。


「もう、ミリアったら私が会いに行ったときにはもういないのだもの」


「ごめんごめん」


ピュリエ・エオノーラ。亜人の一種、フォクサルシアの少女である。体型こそ小柄だが、ミリアベルらと年は同じである。俊敏な動きとその環境適応能力がフォクサルシアの特徴である。彼女は北のイヴリス大陸の出身であり、この春休み期間中は故郷に帰っていたのだ。

ミリアベルとマリアベルとは学園に入ってからの仲であり、互いに親友と認めあっている。

ミリアベルと同じく、魔術師クラスに進み、組は隣だという。来年は一緒になりたいね、と彼女が言うと、そうね、とミリアベルも返す。


「これからマリアベルと食事しようと思っているけど、当然ピュリエも来るよね」


「ええ、そうね!マリアと会うのも久しぶりだから、楽しみ!」


本当に楽しみと言った様子のピュリエの耳が動く。相変わらず見ていて飽きない、とミリアベルは思った。

あ、そうだ、とピュリエが後ろを振り返り、手を振る。彼女の手に応えるように、一人の少女が奔ってくる。が、奔っているのに速度は歩くよりもゆっくりで、体力切れしているのかハァハァ息をついている。


「待ってよ~、ピュリエちゃぁん」


そう言った少女はいかにも魔術師、と言った娘であった。人間の少女で、亜麻色の髪を三つ編みにし、緑色の瞳は眼鏡の厚いレンズで遮られていた。もう、突然走っちゃうんだから、と息を切らしながら言う少女に、ごめんごめん、と先ほどのミリアベルと同じ様子でピュリエが言う。ようやく隣まで来た少女の肩掴み、紹介するね、とピュリエが言う。


「今年から同室で同じクラスのリュートよ!」


リュートはミリアベルを見ると、こんにちわ、と頭を下げた。ピュリエから話は聞いており、ミリアベルと話すことを楽しみにしていた。


「リュート・スキ-ターです」


よろしくお願いします、と少女が頭を下げる。よろしくね、とミリアベルも返す。


「この子も一緒だけど、いいよね?」


「ええ、もちろん」


友達は多い方が楽しいもの、と言い受け入れてくれたミリアベルにありがとうと言い、リュートは笑う。可愛らしい笑顔に、ミリアベルはいい友人になれそうだ、と思った。


「それじゃ、いこっか」


そう言い、三人は食堂に向かって歩き出す。



食堂はやはり、混んでいた。ミリアベルたちは先に席取りをしよう、と思っていると、見知った顔を見つけた。


「マリアベル!」


「ミリアベル、それにピュリエも!」


久しぶりね、と言う紅い髪の少女にピュリエはそうだね、と言い駆け寄っていく。ミリアベルとリュートも近づき、マリアベルを見る。


「この子もいっしょだけど、席、大丈夫?」


「ええ、そう言う時のことも考えて席はとってあるの」


どうぞ、というマリアベルにありがとうございます、とリュートは言い、自己紹介をする。


「違うクラスだけど、仲よくしましょうね」


そう言い、マリアベルも紹介を済ませた。マリアベルは私もみんなに紹介したい人がいるの、と言った。今、ちょっと席を外しているけれど、と言っていると、マリアベルの横に一人の少女が来る。長身で、同い年の男子よりも下手をすれば高いかもしれない。浅黒い肌の色の、人間族の少女であった。


「ああ、来たわね。リオーネ」


無言でうなずくリオーネと呼ばれた少女。紹介するわね、とマリアベルが言う。


「リオーネ・カサンドレー。バラル帝国出身で、私と同じクラスなの。ちょっと無口だけど、悪い子ではないわ」


「・・・・・・よろしく・・・・・・・」


静かにそう言い、リオーネは沈黙する。魔術師クラスの三人も彼女に挨拶を返した。


「それじゃあ、食事にでもしましょうか」



五人でワイワイはしゃぎながら、食事をとるミリアベルたち。互いの話もし、リュートが東のクライシュ大陸にあるグラウキエ大宗主国から来たことや、家族の話などもした。最初はおどおどし、壁を持っていた少女たちも、少しの時間で大分打ち解けることができた様子であった。

そんな風に話し込む少女たちの席に近づいてくる影があった。


「やあ、ミリアベルにマリアベル」


「あ!」


「お久しぶりです」


話しかけてきた人物に驚くミリアベルと、挨拶をするマリアベル。友人たちもその人を見る。

黒い髪の、知的な美人と言う印象の人間族の少女。落ち着いた様子で、薄らと微笑を浮かべている。目は澄んだ黒であり、ミリアベルの瞳と似た色である。

彼女は学園最高学年であり、この学園にいる各クラスから選ばれる【エメラルド】の一人である。【エメラルド】とは、この学園における主席たちの総称であり、その中でも彼女はひときわ目立っていた。


「お久しぶりです、フィノラさん」


フィノラ、と呼ばれた少女はそうだねえ、と少女たちを見る。マリアベルよりも少しだけ長い髪を靡かせている。

フィノラ・アレイシア・アクスウォードというのが彼女の名前である。この学園のあるヨトゥンフェイム共和国と同じく、南の大陸ラカークンの西部に位置するアクスウォード王国。その現国王カッシートのの一番下の妹である。そして、ミリアベルとマリアベルの母、エノラの妹に当たる人物であるため、二人からすればおば、という位置にいる。

年は二歳しか違わないため、幼いころは」お姉さん」と呼び、今は「フィノラさん」と慕っている。二人にとっては、良き姉であった。

春休み期間中は、母国アクスウォードには数日しかいなかったようで、二人が会いに行ったときには留守にしており、結局会えなかったのだ。それも彼女らしいと言えばらしかった。


「春休み中は、どこに行っていたんですか」


ミリアベルの問いに、フフ、と笑い、フィノラが口を開く。ウィンクして双子を見る。


「少しばかり、【外海】の向こうにね」


そう言ったフィノラは悪戯っぽく笑った。エデナ=アルバでは中央大陸をアウラ海が囲み、それを四つの大陸が囲んでいる。その外側に存在する、アウラ海とは異なり荒れ狂う海。それが【外海】と呼ばれる海である。【五大陸戦争】後、外界の向こうに新たな地が見つかった、ということで冒険者や魔術師による探索が行われている。フィノラは休み期間を利用し、それに少しばかり参加していたようだ。その時の話はまた今度、と言い、フィノラは少女たちを見た。


「新しい友人もできたようだし、またこうして君たちに会えるのがうれしいよ」


今年からは最高学年だし、ね。そう言い、彼女は笑う。ミリアベルとマリアベルと仲良くしてね、と言うと、ピュリエらは頷いた。

去っていくフィノラを見ながら相変わらず素敵だな、とピュリエは話す。


「いいなぁ、ああいう人が親戚にいて」


羨むピュリエ。双子もあの人がいてくれて本当に助かっているという。フィノラは優秀だが、それを鼻にかけない人で、意外とお茶目だ。良き遊び相手であり、頼れる先輩なのだ。

また、こうして楽しい日々が始まる。楽しいだけではないけれども、けれど。


希望に満ちた、春の木漏れ日の中で、少女は微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ