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第23話

 そして仕事が終わったあおいが帰ってきた。相変わらずシンジを心配した様子だった。

「ただいま。」

「おかえり。」

「調子はどう?」

「うん…」

「ちょっと顔色悪いよ?」

「大丈夫。」

「いいから横になってて。」

「うん。あのさ…」

「なぁに?」

「もう病院行かなくていいかな?」

「どうして?」

「たぶん治らない病気だから。」

「それなら尚更だよ。薬で症状を抑えないと。」

「それが嫌なんだよ。ずっと薬を飲み続けるなんて…」

「でも…」

「馬鹿馬鹿しいよ、こんな病気!」

「だから薬で症状を抑えて?ね?」

「…うん。」

シンジはあおいに嘘をついた。今朝の薬を吐き出して捨てたことも、その日の昼の薬も飲んでいないことも…するとあおいの携帯電話が鳴った。

「もしもし。」

「もしもし、あおい、久しぶりだね。」

あおいの母親からだった。

「どうしたの?」

「実はおじさんが亡くなったの。明後日お通夜だから帰ってこれない?」

「うん。大丈夫だよ。明日、職場に休む連絡して、明後日には行くようにするね。」

「ありがとう。」

そう言うと電話が終わり、この件をシンジに話した。

「シンジ、おじさんが亡くなったみたいで…」

「そう…」

「一週間ぐらい実家へ帰らないといけなくなったんだ。」

「そっか…」

「でも心配だよ、シンジが…」

「僕は大丈夫だから安心して行っておいで。」

「うん。ありがとう。」


 そして翌日、あおいは職場に欠勤する旨を連絡した。それから実家へ帰る支度をして出発した。家でひとりになったシンジは薬も飲まずに、特に何もせずに一週間を過ごした。病状が少し悪くなっていることにシンジは自分でも気付いていた。あれ以来、一切薬を飲んでいなかったのだ。そして一週間後、あおいが帰ってきた。


 「ただいま。疲れたよー。」

「おかえり。」

「シンジ?すごく顔色悪いよ?」

「大丈夫だよ。」

「ちゃんと薬飲んでる?」

「うん。」

シンジは嘘をついた。薬は律儀にその日その日のうちに捨てていたのだった。

「ねぇ、ユ…」

「え?」

「あおい…」

「今、ユキって呼ぼうとしなかった?」

「…」

シンジはあおいをユキと呼ぼうとしてしまった。

「ねぇ、シンジ!やっぱり私をユキさんと重ねてるの?」

「…」

「答えて!シンジ!」

「…うん。ごめん。どうしてもユキのことが頭から離れなくて…」

「重ねないでよ!私はあおいなんだよ。」

「ごめん。」

「あんな亡くし方をしたから仕方ないとは思うけど…もう忘れてよ。」

「…」

「私だけを見てよ。」

「ごめん。あおいのことは好きだよ。」

「でもそれはユキさんに似てるからでしょ?」

「…」

「答えてよ。似てなかったら興味すら持たなかった?」

「うん…たぶん…」

「そう…」

「ごめん…」

「私、辛いよ。ユキさんと重ねられるなら一緒に居たくない…」

シンジは何も返せなかった。このやりとりに疲れたふたりは気付くと眠ってしまっていた。


 それからもシンジは二週間に一度の通院を、あおいは仕事へ行く日々が続いた。シンジは相変わらず処方された薬をその日その日のうちに捨てていた。そしてシンジの病状は悪化していたのだった。そしてシンジが通院の日が訪れた。通院だけはしっかりと通っていたのだ。


 「シンジさん。診察室へお入りください。」

いつもと同じようにシンジは呼ばれた。

「調子は…悪そうですね。顔色悪いですよ?」

「そうですか?調子は良好ですけど…」

「薬はちゃんと飲んでますか?」

「はい…」

医師はシンジが嘘をついていることを見抜いていた。

「ちゃんと治療すれば症状は抑えられるんですからね。」

「はい。わかってます。」

「それならちゃんと薬を処方箋の通りに飲んでください。」

「…」

「彼女とは上手くやっていますか?」

「いいえ。」

「何かありましたか?」

「はい。ユキの名前を呼ぼうとしてしまいました。」

「そうですか…それで彼女さんの反応は?」

「不機嫌になりました。」

「そうですよね。それは当然のことだと思います。彼女さんと上手くやっていく気があるのなら、薬をちゃんと飲んでください。」

「はい…」

「それではまた二週間後に来てください。」

そう言うとその日の診察は終わった。


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