表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

第21話

 あるホテルへふたりは入った。ふたりはベッドの上へ座った。そしてユキの時と同じように、シンジはあおいの髪を触りキスをした。少しずつ舌を入れて絡めた。ユキと同じ味がした。コーヒーのせいだろうか。それともユキに似ているからだろうか。そう感じたシンジはあおいの身体を少しずつ触り始めた。あおいはすごく嬉しそうな表情を浮かべていた。それを見たシンジは、自分が好かれていると確信した。そしてふたりはひとつになった。

「ねぇ、あおいさん…」

「なぁに?」

「僕と付き合ってくれる?」

「はい…」

あおいはひとつ返事でそう返した。

「本当に?」

「ほーんーとー!」

「あはは。あおいさん可愛いよ。」

「そう?たまに言われる。」

「自分で言っちゃう?」

「うん。」

ふたりは幸せだった。ただシンジはやはりあおいにユキを重ねていたのだ。しかし、それを決して口にすることはなかった。口にすればふたりの関係は壊れてしまう…それがわかっていたからだ。そして翌朝、ふたりはホテルを後にして、あおいは仕事へ、シンジは通院の日だったので病院へ向かったのだった。


 病院へ着いたシンジはいつものように呼ばれた。

「シンジさん、診察室へお入りください。」

「はい。」

そしてシンジは診察室へ入った。

「その後、調子はいかがですか?」

「調子は良いと思います。」

「ユキさんの幻覚は?」

「最近はなくなりました。」

「何かありましたか?」

「はい。彼女が出来ました。」

「そうですか。良かったですね。」

「はい。ユキにそっくりな子なんです。」

「それは良かったですね。」

「はい。」

「では少し薬を減らしていきましょうか。」

「え?いいんですか?」

「はい。真面目に治療をしている方には、こちらもそういう対応をさせてもらってます。」

「そうですか…良かった…」

「それでは次からは二週間に一度にしましょう。」

「はい!」

シンジは病状が良くなってきていること、ユキに似た彼女が出来たことで嬉しかった。

「でもまだ仕事はしないでくださいね。」

「どうしてですか?」

「また悪化する可能性もあるので。」

「はい。わかりました。」

「薬もちゃんと飲むようにしてくださいね。これも守らないと悪化する恐れがありますから。」

「はい。」

そういうと処方箋を出され病院を後にした。


 そしてその夜、シンジはあおいに電話をかけた。

「もしもし。」

「はい。どうしたの?」

「特に何でもないよ。声が聞きたくて。」

「ふふ。嬉しい。あ、病院どうだった?」

「病状は良くなってるみたい。最近は幻覚も減ったし。」

「良かったじゃん!」

「うん。あおいさんのおかげだよ。薬の量も減ったよ。」

「すごいね、シンジさん。」

「そう?ねぇ、お互い「さん」付けするのやめようか。」

「うん。シンジ。」

「あおい。」

「ちょっと違和感…」

「すぐ慣れるよ。」

「そうかな。」

「うん。明日は仕事?」

「うん…」

「仕事終わった後にうちに来ない?」

「いいよ。」

「じゃあ、仕事終わったら職場まで迎えに行くよ。」

「あ、道覚えてるから大丈夫だよ。」

「そう?じゃあ、待ってるね。」

「あ、私、明日早番だからもう寝るね。」

「そっか。おやすみ、あおい…」

「おやすみ、シンジ…」

そう言うと電話を切った。ふたりは幸せを満喫していた。


 そして翌日、夕方が終わる頃あおいはシンジの家へ着いた。

「お邪魔します。」

「どうぞ。」

「うち散らかってるでしょ?ごめんね。適当に座って。」

「散らかってないよ。まだ綺麗な方だと思うよ。」

「そうかな。」

「うん、私は大丈夫だよ。」

「ねぇ、シンジ…」

「ん?」

「シンジの病気は治るの?」

「あぁ、どうなんだろう…でも症状が良くなってきてるみたいだから。」

「そっか。治るといいね。」

「うん。」

統合失調症もそうだが、精神疾患というものは完治ということが珍しいものだ。薬で抑える対症療法で精一杯なものが多い。シンジは薄々勘付いていた。


 そしてシンジはこう言った。

「コーヒー飲む?」

「うん。ありがとう。」

「クリームと砂糖を少しずつだよね?」

「うん。よく覚えてるね。」

「それぐらい簡単なことだから。」

「そっか。」

シンジがあおいのクリームと砂糖の量を覚えていたのは、言うまでもなくユキと全く同じだったからだ。


 そうこう話しているうちに夜が更けた。この日の夜はとても寒く、外は雪化粧で飾られていた。

「ねぇ、シンジ。私、シンジと一緒に暮らしたいな。」

「え?」

「ダメかな…」

「ここの家で?」

「うん。」

「僕は大歓迎だよ。」

「良かった。」

「じゃあ、不動産屋に行って今の家の解約してくるね。」

「うん。一緒に行こうか?」

「ううん。大丈夫。」

「そっか。」

そしてふたりは同棲を始めることになった。あおいは次の休みの日に、今の家の解約手続きをしてきた。


 「すみません、今の家を解約したいのですが…」

不動産屋であおいは言った。

「いつですか?」

「出来れば早く…」

「月毎の更新なので、今月いっぱいになってしまいますがよろしいでしょうか?」

「はい。ではそれでお願いします。」

そう言うと解約の手続きを済ませた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ