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第2話

 蓮斗は家へ着くとお気に入りの音楽をかけた。

「これ知ってる!」

「ニルバーナだよ。一番好きなんだ。ニルバーナを聴くことが趣味みたいなものだから。他には特に何も…」

「私も好きだよ、ニルバーナ。」

「へぇ…意外だったな。」

「そう?」

「うん。なんとなくだけど、邦楽しか聴かないと思ってたよ。」

「そう?結構色々聴くよ。でもニルバーナは一番好きかな。」

ふたりはニルバーナの話題で持ちきりだった。

「カートみたいな男になりたいなと思ってるんだ。」

「だから髪長いの?」

「うん。ギターは弾けないけどさ。」

「触ったこともないの?」

「少しだけあるけど挫折した…」

「よくある挫折組だね。」

「うん。」

「でも雰囲気あるよ、蓮斗さん。」

「あ、呼び捨てていいよ、蓮斗で…」

「じゃあ、私も春子でいいよ。」

それからもニルバーナの音楽は流れ続けた。

「ねぇ、お水もらってもいい?」

「ちょっと待っててね。」

そう言うと蓮斗は春子に水を渡した。春子は薬を飲んでいた。

「風邪?」

「ううん。持病。」

「そっか。病気のこと聞いてもいい?」

「うん…でも引かないかな…」

「大丈夫だよ。」

「私ね、双極性障害っていう病気なの。」

「…?」

蓮斗は双極性障害という病気を知らなかった。

「それってどんな病気なの?」

「所謂、躁鬱病って呼ばれてた病気なの。躁状態と鬱状態を繰り返す、そんな病気かな。」

蓮斗はよくわからなかったがこう言った。

「そうなんだ。大変だね。」

「ちなみにカートも双極性障害だったみたいだよ。」

「そうなんだ…今はどんな感じ?大丈夫?」

「うん。今は大丈夫だよ。」

「それなら良かった。」

双極性障害を知らない蓮斗は症状が出るとどうなるのか不安だった。

「蓮斗、彼女居る?」

「え?」

「今、彼女は居るの?」

「今は居ないよ…もう暫く居ないよ。」

「かっこいいのに。」

「モテないよ、全くね。」

「本当にー?」

「本当だよー。」

「そっか。」

「そう、女っ気なくて…男っ気さえ…友達さえほとんど居ないよ。」

「そうなんだ。」

単身上京した蓮斗には、東京には友達がほとんど居なかったのだ。


 そうこう話しているうちに時間は二十二時を回っていた。

「私、そろそろ帰るね。」

「うん。駅まで送っていくよ。」

「ありがとう。」

そう言って、駅まで送っていった。


 そして春子は家路へと着いた。家へ着いた蓮斗は双極性障害について調べた。双極性障害は難しい病気らしく薬で症状を抑えることしか出来ないものだということを知った。躁状態の時は、何でも出来る気になったり、時に凶暴性を増すことがあること、鬱状態の時には、起き上がることさえも億劫になったり、何もかもが嫌になったり、時には希死念慮が増すことがあること、それ以外は蓮斗には難しくてよくわからなかったが、春子が言っていた通りカートも同じ病気だったという説があることはわかった。蓮斗は複雑な気分だった。春子を助けてあげたいという気持ちと、そんな春子に惹かれていた自分が居たからだ。世の中にはどうしようもないことがあるのは、幼い頃に両親を亡くした蓮斗にはよくわかっていた。蓮斗は自分がどうなろうと、どんな手を使ってでも春子を亡くす訳にはいかなかった。


 それから数日後、春子から電話がきた。

「もしもし、春子です。」

「もしもし、蓮斗です。」

「ふふふ。蓮斗、真似しないでよ。」

「あはは。」

「明日、会えないかな?」

「明日?大丈夫だよ。」

「私、明日は休みだから昼から会えない?」

「いいよ。」

「初めて会った場所に十二時に待ち合わせしない?あ、初めて会った場所覚えてる?」

「もちろん覚えてるよ。」

「じゃあ、十二時に…」

「うん。じゃあね。」

そう言うと電話は終わった。蓮斗は春子に会えることが嬉しくてあまり眠れなかった。同じように春子も蓮斗に会うことが楽しみであまり眠れなかったのだった。ふたりはまるで遠足の前日の小学生のようだった。


 そして翌日、ふたりは初めて会った場所、蓮斗が春子の携帯電話を拾った場所で合流した。懐かしい感じはもちろんだったが、どこか新鮮な感じさえ覚えた。ふたりは少し歩いた。すると蓮斗がこう言った。

「実は昨日はあまり眠れなかったよ。」

「私も…」

「偶然だね。」

「うん。お揃いだね。」

「でもどうして?」

「なんかドキドキしちゃって。」

「僕も同じだよ。」

「ふふふ。」

「なんかおなか空いたな。」

「じゃあ、何か食べる?」

「うん。この前の喫茶店でいいよ。」

「そうしようか。」

そう言うとふたりは喫茶店へ入った。ふたりはコーヒーを、それと蓮斗はパスタを注文した。

「久しぶりだね。体調はどう?」

「最近は順調だよ。」

「そっか。それなら良かった。躁状態の時って自分ではわかるの?」

蓮斗は思い切って聞いてみた。

「うーん…躁状態の時って自分ではよくわからないんだ。」

「なんか何でも出来る錯覚に陥るというか…そんな感じなんでしょ?」

「調べてくれたの?」

「うん、少しだけどね。」

「ありがとう。」

そうすると注文したコーヒーとパスタが運ばれてきた。蓮斗はブラックで、春子はクリームと砂糖を大量に入れていた。前回と同じだった。

「いただきます。」

蓮斗はパスタを食べ始めた。

「召し上がれ。ふふふ。パスタは美味しい?」

まだ一口しか食べていない蓮斗に春子は質問をした。

「うん。美味しいよ。」

「そう?それなら良かった。」

「春子と居るとなんか楽しいよ。」

「私も蓮斗と居るとなんか楽しい。」

恐らく春子も蓮斗に惹かれているのだろう。そんな発言だった。

「なんか良い関係だよね。」

「そうだね。お互いに楽しいのは良いことだもんね。」

店内が少し暑かったせいか、春子は上着を脱いだ。半袖を着ていた春子の左腕には薄いものの傷痕がたくさんあった。春子が右利きだということがわかった。

「腕…」

「あ、ごめんなさい。」

「謝ることないよ。」

「一度やると癖になっちゃうの。」

「そうなんだ。こんなこと言うのもなんだけどさ、もうやめなよ。」

「そうだよね…自分ではわかってるんだけどやめられないんだ。」

「そっか…」

蓮斗はそれ以上、何も言えなかった。パスタを食べ終え、コーヒーを飲み終えたふたりは喫茶店を後にした。


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