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第19話

 そして病院に着いた。出血が多過ぎたせいかユキは助からなかった。シンジは呆然とした。

「ユキちゃん…ユキちゃん…」

そう言ってシンジは泣いていた。ユキの葬儀にシンジの姿はなかった。ユキの死を認めたくなかったのだ。シンジはユキが死んだあと仕事を無断欠勤していた。もう解雇されてもいいと思っていた。何故なら好きな人を失ったせいか、他のことなどどうでもよくなっていたのだ。そして案の定、シンジは解雇された。シンジは毎晩のように泣いていた。


ユキ どうして僕を置いていったの?

ユキ どうして独りで逝ったの?

ユキ どうして僕を遺したの?

ユキ どうして独りで逝ったの?

ユキ どうして僕を独りにしたの?

ユキ どうして独りで逝ったの?

ユキ 君を愛しています


 「ねぇ、ユキ…会いたいよ。」

シンジの精神状態は明らかにおかしくなっていた。

「ユキ…好きだよ、ユキ。」

シンジは果物ナイフを手に取った。

「今から会いに行くよ…」

そうひとり言を言うと手に取った果物ナイフで左手首を切った。すると大量の血が辺りに散らかった。そのままシンジは倒れてしまった。


 翌朝、シンジは目が覚めた。ユキに会い行くことが出来なかったのだ。

「どうして?どうしてユキは拒むの?」

シンジにはユキの幻覚が見えていた。

「ねぇ、どうして?どうして会えないの?会いたいよ。」

シンジは必死にユキの幻覚に問いかけていた。


 それからシンジは精神科へ行くことにした。明らかに自分がおかしいことに気付いていたのだ。手遅れになる前にという思いがあったのだ。

「シンジさん、診察室へお入りください。」

そう呼ばれるとシンジは診察室へ入った。

「問診表を見る限り、統合失調症の恐れがありますね。」

「…」

「この病気はご存知ですか?」

「はい。」

「一番なりたくなかった病気ですから。」

「どうしてですか?お話を聞かせてもらえますか?」

「好きな人…問診表にも書いたと思いますが…」

「はい。」

「その人が生きていた時に、好きだった人と同じ病気なんです。」

「そうだったんですね…」

「でもその統合失調症だった人は死んでしまった人みたいなんです。」

「そうですか…」

「会いたいよ、ユキ…」

「え?今なんて?」

「ユキに会いたいんです。どうすれば会えますか?」

「ユキさんに会いたいのですか?」

「はい。自殺すれば会えますか?」

「会えません。」

「…ユキ…」

そう言うとシンジは泣き出してしまった。医師は蓮斗を好きだったユキのことだと気付いた。シンジはユキと同じ病院に来ていたのだった。

「それでは来週また来てください。」

「はい。」

そう言うとシンジは病院を後にした。


 翌週、シンジはまた病院へ行った。前回と同じように呼ばれた。

「シンジさん、診察室へお入りください。」

そして診察室へ入っていった。

「あれから調子はどうですか?」

「相変わらずです。ユキに会いたい。」

「そうですか…」

「どうすればユキに会えますか?先生ならわかるでしょ?」

「会えません。」

「…」

「どうしても会いたいなら、ちゃんと治療を続けてください。」

「そしたら会えますか?」

「まずは治療に専念してください。薬を処方された通りに飲んで、自傷行為はやめてくださいね。そしたらきっと答えは出ます。」

「わかりました。」

「これは医師からのお願いですからね。」

「はい。わかりました…」

「それではまた来週来てください。」

そう言うとその日の診察は終わった。


 それからもシンジの通院の日々は続いた。そんなある日、シンジはある女性と出会った。場所はユキと行った喫茶店だった。どうやら新人が入ったようだった。

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ…」

そう言われるとユキと一緒に行った時と同じ席へ着いた。シンジはコーヒーを注文した。そして注文したコーヒーが運ばれてきた。シンジは店員を見てハッとした。

「ユキ!」

「え?」

「ユキでしょ?」

「いいえ、人違いだと思います。」

「そうですよね…」

「私、あおいと申します。ほら…」

そう言うとあおいは名札を見せた。

「すみません…」

「いいえ、とんでもございません。ごゆっくり、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

ユキにそっくりな女性がその喫茶店で勤めていたのだった。そしてコーヒーを飲み終えたシンジは、あおいという女性にメールアドレスを渡した。

「良かったら連絡ください…」

「はい。ありがとうございます。」

そう言うとシンジは喫茶店を後にした。その日、あおいから連絡が来ることがなかったシンジは、連絡が来ないと諦めていた。所詮、そんなものだろうという思いも心のどこかにあったのだ。しかし、それでも連絡が来ないものかとシンジは携帯電話を握りしめたままだった。


 そして数日後、シンジの携帯電話が鳴った。メールが来たのだ。喫茶店のあおいからだった。

「先日はどうもありがとうございました。またいつでも来てくださいね。」

そう綴られていた。シンジはすぐに返信をした。

「連絡ありがとうございます。また喫茶店にも行きますね。良かったら今度会ってお話でもしませんか?」

それから数時間後、あおいから返信が来た。

「遅れてすみません。仕事でした。是非、今度お話しましょう。」

シンジはまたすぐに返信をした。

「ありがとうございます。いつなら空いていますか?僕はいつでも暇なので、あおいさんのお休みに合わせます。」

数分後、あおいから返信があった。

「来週の火曜日なら大丈夫です。」

シンジは返信をした。

「じゃあ、来週の火曜日に町田に十三時でいいですか?」

シンジは嬉しさのあまり、半ば強引に場所と時間を提示した。するとあおいから返信が来た。

「はい。ではその時間で。」


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