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第18話

 「ユキさん、診察室へお入りください。」

そういつものように呼ばれると診察室へ入っていった。

「あれから調子はどうですか?」

お決まりの文句から始まった。いつもと同じだった。

「いつもと変わりありません。」

「そうですか…薬はちゃんと飲んでますか?」

「…はい。」

「嘘はつかないでくださいね。」

「嘘なんてついてません。」

「それなら良いのですが。」

「はい…」

「嘘ついていたら良くなるものも良くなりませんからね。」

「わかってます。」

「その後、彼とはどうですか?」

「上手くやってますよ。」

「そうですか…」

医師は思い切ってこう言った。

「ユキさん、あなたは恐らくサイコパスという精神疾患です。」

「サイコパス?」

「ええ。ただの鬱病ではありません。もちろん鬱病も併発しているのですが…」

「はぁ…」

「薬をちゃんと飲んでないこと、恐らく自傷行為をしていることもわかってますよ?腕を見せてもらえますか?」

そう言われるとユキは袖をまくった。ユキの腕はリストカットの痕でいっぱいだった。

「いつからですか?」

「蓮斗さんが死んでからです。」

「そうですか。辛いものは辛いと素直に言ってくださいね。」

「はい。ありがとうございます。でも辛い時は蓮斗さんに話してますから。」

「蓮斗さんのこと…まず忘れることから始めましょう。これは治療です。」

「嫌です。蓮斗さんは大切な存在なんです。」

「それはもちろんわかってます。ただもうこの世に存在しないんです。」

「…いや!そんなのいや!」

「落ち着いてください!」

ユキは泣き出し暴れ出した。医師は必死でユキを抑えつけた。

「誰か薬を!」

「はい!」

医師がそう言うと看護士が薬を飲ませた。暫くしてユキは落ち着いた。そして疲れたのか眠ってしまった。

「やっぱりサイコパスだったか…」

医師は唖然とした様子だった。どうしてもっと早く気付かなかったのか…そういう思いもあったのだ。しかし、サイコパスという精神疾患を見抜くのは難しいもので、他の精神疾患と誤診されることも多い。これは他の精神疾患にも言えることだった。目に見えないもののため区別が難しいのだ。問診表でもわからないことや、患者の発言でもわからないことは山のようにある。


 そして十七時頃、ユキは目を覚ました。

「私…」

「あ、起きましたか?」

「眠ってたんですか?」

「はい。眠ってましたよ。」

「そうですか。すみません。」

「今日からはちゃんと薬を処方箋の通りに飲んでくださいね。悪化してしまいますから。」

「…はい。」

「サイコパスってどんな病気なんですか?」

「説明するのは難しいです。」

「そんなに重たい病気なんですか?」

「薬をしっかり飲めば症状は抑えられますから。」

「…はい。」

「では来週また来てください。」

そう言われるとユキは家路へと着いた。


 そしてまた仕事が始まった。その朝、ユキはいつもと同じ様子だった。しかし、仕事を辞めようと考えていた。その日の帰り際にユキは所長に話しかけた。

「あの…私、仕事を辞めようと思うのですが…」

「どうしたの?」

「いえ、特にこれと言った理由はありません。」

「そうですか…」

「今月いっぱいでもいいですか?」

「わかりました。それでは今月いっぱいはお願いね。」

「はい…突然すみません…」

そしてその月…一月いっぱいでユキは仕事を辞めることになった。所長も特に問い詰めることはなかった。決してユキの勤怠が悪い訳でもなかった。ただ倉庫の作業の職場というのは、退職者が多いものだったので特に問い詰めなかったのだった。


 そして一月三十一日、雪がちらついていた。仕事が終わりユキは職場のみんなへ挨拶を

した。

「短い間でしたがお世話になりました。」

「みなさん、ユキちゃんに拍手。」

すると拍手でユキは見送られた。


そして帰り道のことだった。

「ユキちゃん!」

シンジが呼びかけた。

「一緒に帰らない?」

「はい。最後ですからね。ふふふ。」

「寂しいな…」

「じゃあ、今日うちに来ますか?」

「え?いいの?」

「はい。もちろんですよ。」

それからふたりはユキの家へと向かった。


 「お邪魔します。」

「どうぞ。」

「薬…すごい量だね。」

「飲んでいませんからね。」

「大丈夫なの?」

「はい。私のことは私が一番わかってますから。」

「そっか。でも良くないんじゃない?」

「いいんです。そういう病気ですから。」

ユキは嘘をついた。

「そうなんだね…」

病気の知識がないシンジはユキが嘘をついていることに気付かなかった。

「コーヒー淹れますね。」

「うん。ありがとう。」

「シンジさんは蓮斗さんと同じブラックでしたよね?」

「うん…」

「私のはクリームと…砂糖を…」


 そして少しコーヒーに口をつけると、シンジの横にユキが座って、以前のように髪を触りキスをした。シンジが舌を入れてもユキは抵抗しなかった。相変わらずだった。少しずつ身体を触り、胸を触った。そしてふたりはひとつになった。事件はその夜に起きた。


 「私、薬飲みますね。」

「うん。」

ユキは大量にある薬を大量に飲んでいた。それを見たシンジは何も思わなかった。処方された量を飲んでいると思ったのだった。しかし、ユキはオーバードーズをしていた。するとユキはこう言った。

「なんかふらふらする…」

「大丈夫?薬の量、間違えてない?」

「はい。」

「本当のこと言って。」

「少し多目に…」

「やっぱり…」

明らかに様子がおかしいことにシンジは気付いた。

「救急車呼ぶ?」

「いいえ、本当に大丈夫です。」

「ねぇ、前から気になっていたんだけど、腕…」

「自分でやりましたよ。」

「やっぱり…」

「こうやるんです…」

こう言うと果物ナイフを取り出し、ユキは左手首を切って見せた。その傷は明らかに深かった。

「ダメだよ!」

辺りは血塗れになっていた。

「救急車呼ぶね!」

「大丈夫です、これぐらいなら。」

「大丈夫じゃないよ!」

シンジは必死の思いで救急車を呼んだ。十分後ぐらに救急車は到着した。

「出血が酷いですね…」

「え…ユキ…彼女、大丈夫ですよね?」

「とりあえず縫合が必要なので病院へ行きますね。」

「はい。お願いします。」

「彼女、助かりますよね?」

「出血が酷いので…今は止血することしか出来ません。」

「お願いします。助けてあげてください。」

「…」


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