第17話
翌日、ユキとシンジは仕事へ就いた。この日もシンジは有田に仕事を教わり、黙々と作業をこなしていった。休憩時間になるとユキからシンジに声をかけた。
「良かったらまた一緒に食べませんか?」
「はい。」
「蓮斗さんの話してもいいですか?」
「はい。聞かせてください。」
「シンジさんと同じ二十八歳だったんです。」
「昨日、聞いた気がします。」
「あ、言いましたね。ふふふ。」
「…あと町田に住んでいたことは聞きました。」
「ニルバーナが好きで、カートみたいに髪が長いんですよ。」
「へぇ…」
「ニルバーナ、知ってますか?」
「はい。僕も好きでたまに聞いてますよ。」
「髪が長いのもカートの影響ですか?」
「…は、はい。少し意識してます。」
「お似合いですよ。」
「ありがとうございます。」
「なんかやっぱりシンジさんは蓮斗さんにそっくりです。」
「そうなんですか?」
「はい。外見も少し似ています。」
「はぁ…」
「髪の長さや顔つきも。」
「…」
「話し方も…あ、敬語やめてもらえますか?」
「じゃあ…ユキさんも。」
「私は敬語が好きなんです。あとユキさんではなくて、ユキちゃんと呼んでもらえますか?」
「じゃあ、ユキちゃん。」
「ふふふ。あと秘密の話があります。」
「何?」
「今日、仕事終わったあと時間ありますか?」
「うん。じゃあお茶でもする?」
「はい!」
そしてその日の仕事が終わり、ふたりは町田へ行った。駅から少し歩くとシンジはこう言った。
「ここの喫茶店に入らない?」
「はい。お任せします。」
ふたりはコーヒーを注文した。シンジはブラックで、ユキはクリームと砂糖を少しだけ入れた。
「やっぱりコーヒーはブラックなんですね。」
「うん。味がちゃんとわかるからね。」
「私はクリームと砂糖を入れないと飲めなくて…」
そう言ってユキはクリームと砂糖を少しずつ入れた。
「やっぱりシンジさんは大人ですね。それに蓮斗さんにそっくりです。」
「そうなんだ…」
「そうですよ。」
「そういえば秘密の話って?」
「私、鬱病…あ、違うのか…」
「え?」
「鬱病って診断されてたのですが、なんか別の病気みたいなんです。」
「そうなんですか。職場の方は知ってるの?」
「いえ、誰にも話してません。蓮斗さんは知ってましたけど。」
「そうだよね。言いづらいよね…」
「いえ、そうではなくて…なんかめんどくさくて…」
「確かに噂とかになったら面倒だよね。」
「はい。」
「でもよくバレないね。」
「隠し事、上手いんです。」
「そう…」
「あ、誰にも言わないでくださいね。」
「もちろん。」
「シンジさん、優しいですね。そろそろ出ますか?」
「そうしようか…少しふらふらしない?」
「ふふふ。いいですよ。」
そう言ってふたりは喫茶店を後にした。
夜の町田は昼とは違う顔をしている。若干だが、治安が悪い感じがする。それはシンジの気のせいかもしれない。しかし、違う表情をしていることには変わりはなかった。
「ねぇ、ユキちゃん、何か見たいものとかない?」
「私は大丈夫です。シンジさんの見たいところを見てください。」
「ねぇ、うちに来ない?」
「え?いいんですか?」
「うん。ユキちゃんさえ良ければ。」
「行ってみたいです。」
「じゃあ、うち行こうか…」
シンジには下心があった。ユキはそれに気付いていると思っていた。そしてシンジの家に着いた。
「お邪魔します。」
「少し散らかってるけど気にしないで。適当に座って。」
「はい。」
シンジはユキの横に座ると、ユキの髪の毛を触って頭を撫でた。
「ねぇ、もう蓮斗さんのこと忘れなよ。」
「…」
シンジはニルバーナの音楽をかけた。そして黙ったユキにシンジはキスをした。ユキは抵抗することはなかった。キスをすると一度少し離れ、シンジはまたユキの髪を触ってまたキスをした。シンジが舌を入れるとユキが舌を絡めてきた。それから長い時間、深い深いキスをした。シンジは少しずつユキの身体に触れ始めた。シンジはユキの胸を触った。それでもユキは抵抗することはなかった。むしろ求めていたようにさえ感じた。そしてふたりはひとつになった…
その夜、ふたりは翌日が休みだったため、ユキはシンジの家に泊まっていくことになった。その夜、こんな会話をしていた。
「ユキちゃん…」
「何ですか?」
「蓮斗さんのこと忘れて欲しい。」
「どうしてですか?」
「僕と付き合って欲しい。」
「え?」
「ユキちゃんのこと好きなんだ。」
「でも私…彼氏居ますから…」
「彼氏?」
「はい。蓮斗さん。」
「蓮斗さんはもう居ないんだよ。」
「どうして?」
「もう死んじゃったんだよ。」
「だから永遠に私の彼氏なんです。」
「…」
シンジは戸惑った。
「わかったよ。」
「ごめんなさい。」
そう言うとまたシンジはユキにキスをした。拒まれることはなかった。さっきと同じように胸を触り、またふたりはひとつになった。蓮斗という彼氏が居ると言い張るユキだったが、シンジの行動を拒むことはなかったのだった。シンジは少し不思議な感じがしたが、その手を止めることはなかった。
翌朝、ふたりが目を覚ますとユキはこう言った。
「あ、私、今日病院なんです…」
「そうなんだ。」
「本当は行きたくないんです。」
「でも行かないと。」
「そうなんです。先生に怒られちゃうんです…」
「僕も着いていこうか?」
「いいえ。ひとりで大丈夫です。」
「そう…」
「じゃあ、今日は帰りますね。」
「うん。駅まで送ろうか?」
「道覚えてるので大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
「わからなくなったら電話してね。」
「はい。ではまた…」
そう言うとユキは病院へ行った。




