第16話
「今日から皆さんと一緒に働くことになりました、シンジくんと純子さんです。それでは一言、挨拶をお願いします。」
「シンジと申します。よろしくお願いします。頑張ります。」
「純子と申します。よろしくお願いします。」
「それでは…有田さん、シンジくんの教育をお願いします。山田さんは純子さんを…」
「はい。ちょっとシンジくん、可愛いじゃない。おばさんだけどよろしくね。」
「山田です。純子さん、よろしくね。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「私たちも頑張りましょうね、純子さん。」
「はい。頑張ります。」
「それじゃあ、よろしく。」
所長がそう言うと仕事へ就いた。
「シンジくん、これはね…」
「はい。こうですよね?」
「すごいじゃない!早い早い!」
「ありがとうございます。」
「純子さんも覚えが早いわよ。こっちだって負けないわよ!」
山田はシンジと有田のところへ行ってこう言った。
「これじゃあ、ひとりで仕事をするのも時間の問題ね…おばさん寂しいわ。」
「あはは。僕なんかまだまだですよ。」
「そんなことないわよ。」
「これは…こうでしたよね?」
「そうそう…」
そんなうちに休憩時間に入った。
するとユキが昼食を取っているテーブルにシンジが来た。
「ここ空いてますか?」
「はい。空いてますよ。良かったらどうぞ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「お仕事どうですか?」
ユキは珍しく気遣って声をかけた。
「はい。有田さんのおかげで順調です。」
「そう。それなら良かったですね。」
「あの…お名前…」
「私、ユキです。好きなように呼んでください。二十歳です。」
「僕は…」
「シンジさんでしょ?朝、紹介があったから知ってますよ。」
「ああ…ユキさんまだお若いんですね。」
「シンジさんはおいくつですか?」
「二十八歳です。」
「じゃあ、蓮斗さんと同じですね。」
「蓮斗さん?」
「少し前までここで働いてた方です。」
「辞められたのですか?」
「いいえ。自殺しました。」
「え…」
シンジは聞いてはいけなことを聞いてしまったと思った。
「それで私だけのモノになりました。」
「え…」
シンジはユキの発言に戸惑っていた。
「私、変ですか?」
「いいえ…少し変わっているだけだと思います。」
「シンジさん、少し蓮斗さんに似ています。」
「そうですか…」
「今日、一緒に帰りませんか?」
「…はい。」
正直、シンジはどうしたら良いのか困っていた。そうこう話しているうちに休憩時間が終わった。すると純子がシンジに声をかけた。
「シンジくんちょっと待って!あの子、気をつけな?」
「どうしてですか?」
「何か不穏と言ったら失礼だけど、何かある気がするのよ。」
「はぁ…」
「この話は誰にも言わないでくださいね。」
「はい…」
そう言うと純子はシンジの前から去っていった。
その日シンジは有田にずっと仕事を教わり、黙々と作業をこなしていた。ユキは相変わらずといった感じだった。
仕事が終わり約束通り、ユキはシンジと一緒に帰った。
「私は新百合ヶ丘に住んでます。シンジさんは?」
「僕は町田です。」
「蓮斗さんと一緒ですね。ふふふ。」
「…」
シンジはユキが変わっている…いや、変な子だなと思った。
「あの…知り合ったばかりですが、聞いてもいいですか?」
「いいですよ。何ですか?」
「まだ蓮斗さんのこと、好きなのですか?」
「ええ、もちろん!私だけのモノになってくれましたから。」
シンジはユキに恐怖感を覚えた。
「そうですか。そういうものですよね。」
「そういうもの?」
「はい。未練というか…」
「未練なんてありません!私のモノですよ?」
「あ…すみません。」
すると電車は新百合ヶ丘へ着いてユキは降りていった。
「また明日…」
「ユキさん!」
そう言うとシンジも電車から降りた。それに気付いたユキは振り返った。
「どうしましたか?」
「良かったら少しお茶でも…」
シンジは思いきってユキを誘ってみた。
「ええ。大丈夫ですよ。」
するとふたりは駅から一番近い…蓮斗がユキと行った喫茶店へ入った。そしてふたりはコーヒーを注文した。コーヒーはすぐに運ばれてきた。ユキはクリームと砂糖を少しずつ、シンジはブラックだった。
「ねぇ、シンジさん…」
「なんですか?」
「蓮斗さんにそっくりです。」
「え?」
「蓮斗さんもコーヒーはブラックなんですよ。」
「…」
「ふふふ。」
コーヒーを飲み終えるとふたりは喫茶店を後にした。
シンジはユキの可愛い顔と恐らく未練であろう一途さに少なからず惹かれていたのだった。ユキにはどこか不思議な魅力があったのだ。そしてどんどんシンジはユキに惹かれていくのだった。




