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第15話

 それからユキが診察の日が訪れた。

「ユキさん、診察室へお入りください。」

するとユキは診察室へ入った。

「調子はどうですか?」

医師はユキが嘘の報告しかしないことをわかっていた。

「調子ですか?とても気分がいいんです。」

いつもと違うユキの返答に医師は戸惑った。

「何か良いことでもありましたか?」

「はい。とても良いことがあったんです。」

「それは何か教えてもらえますか?」

「大好きな人が私だけのモノになりました。」

「それは良かったですね。良いお付き合いが出来るといいですね。」

「はい。」

「どんな方ですか?」

「とても仕事が出来て素敵な方です。統合失調症ですか?その病気みたいです。」

「統合失調症ですか…大変ですね。」

「ただ…」

「ただ?」

「もうこの世には居ません。」

「え?」

「数日前に自殺しましたから。」

「…」

医師は返す言葉に困った。

「私、変ですか?」

「え…いえ、そんなことないですよ。」

医師はユキがただの鬱病ではないと感じざるを得なかった。

「そうですか?それなら良かった。私、変じゃないですか?」

「…とりあえず、いつもの薬に追加して別の薬も出しておきますので様子を見ましょう。」

「薬、増えるんですか?」

「ええ。念のために。」

「私、やっぱり変ですか?」

「いいえ。そうではないですよ。念のためにです。」

「良かった…」

「次回は二週間後に来てください。必ずですよ。ユキさんはいつも診察日に来ませんから。」

「やっぱり来ないとダメですよね…」

「そうですよ!ちゃんと来てください。お待ちしてますから。」

そう言うとユキは診察室から出た。処方箋をもらい薬をもらった。新しい薬が追加されているのは一目瞭然だった。明らかに量が多過ぎたからだ。


 ユキは処方された通りに薬を飲むことはなかった。調子の悪い時にオーバードーズが出来るように手持ちの薬が欲しかったのだ。新しい薬がどんな薬なのか楽しみだった部分もあった。

 家へ帰るとその薬がどんな薬か調べた。どうやらただの精神安定剤のようだった。ユキは正直つまらなかった。これだとオーバードーズをしても、以前と大して変わらないと思ったからだった。そして翌日、ユキはいつものように仕事へ行った。


 「おはようございます。」

「ユキちゃん、おはよう。」

「蓮斗さん死んじゃったから新しい人は入るんですか?」

「そうだね。ただでさえ人手不足だからね。」

「そうですか。また蓮斗さんみたいな方が来るといいですね。」

「…そうだね。」


 そして仕事が始まり、休憩時間に入るとユキはひとりで昼食を取っていた。蓮斗が死ぬまでは蓮斗と昼食を取っていたのだ。しかし、今ではひとりだった。それでも寂しそうな表情を浮かべることもなく、いつもニコニコしていた。するとある年配の女性がユキに声をかけた。

「蓮斗くん死んじゃって寂しくないの?」

「いいえ。私は大丈夫ですよ。」

「そう…でも…」

「でも?なんですか?」

「ほら、仲良くしていたじゃない?」

「はい。でも寂しくはないですから…」

「そう…それならいいのよ。」

「私は大丈夫ですから。」

「本当に?」

「はい。」

「無理はしないようにね。」

「ありがとうございます。」

年配の女性はユキが無理をしているのではないかと思っていた。ユキが喜んでいることなど誰も知るよしもなかった。休憩時間が終わり、ユキは仕事へ戻った。


 ユキが通院の日が訪れた。しかし、ユキは病院へは行かなかった。自分はどこも悪くない、そう思っていたからだ。蓮斗が死んでからというもの、ユキは好きな人が自分のモノになったという感覚で満たされていたのだった。だから通院の日も調子が良いと思っていたのだ。するとユキの携帯電話が鳴った。病院からだった。

「もしもし太田クリニックですが…」

「はい。」

「ユキさん、診察の時間が過ぎているのでご連絡を差し上げたのですが。」

「私、調子良いので行かなくてもいいかなと思って…」

「ダメですよ。今からでもいいので来てください。」

「…どうしてもですか?」

「はい。」

「じゃあ、今から向かいます。」

「必ず来てくださいね。」

「…はい。」

そう言うと化粧をして着替えて、渋々とユキは病院へ向かった。そしてユキは病院へ着いた。


 「ユキさん、ちゃんと診察の日は来てくださいね。」

「…」

「病状も良くなりませんよ?」

「はい。でも調子良かったので…」

「鬱病は調子の良い時と悪い時の波があるんです。」

「もちろんわかってます。」

「次回からは調子が良くても必ず来てください。」

「…はい。」

「今週はどうでしたか?」

「いつもと変わりません。」

「そうですか…」

「好きな方は?」

「私だけのモノです。」

「そうですか…」

医師はやはりただの鬱病ではないと思った。明らかに異常だと感じたのだった。

「やっぱり私、変ですか?」

「正直に話しますね。その好きな方はこの世には存在しません。好きだという想いが強いのでしょう…恐らく。はっきり言います。ユキさんはただの鬱病ではないと思います。」

「それなら何ですか?」

「…」

医師は言葉に困った。まだはっきりと病名は断定出来なかったからだ。

「私、そんなに悪いんですか?」

「はい。少なくとも今は以前より悪化していると思います。」

「病名は?」

「まだ断定は出来ません…申し訳ないのですが…」

「じゃあ、わかったら教えてくださいね。」

「はい。」

「私、何でも構いませんから。」

「…」

「どんな病気でも私は私ですから。」

「わかりました。では今日はこれで…次はまた来週来てください。薬は前回と同じものを出しておきますね。ちゃんと処方箋通りに飲むこと…これは約束してください。」

「はい。」

ユキは悪びれることなく嘘をついた。処方箋通りに飲むことなど考えもしなかったのだ。そして診察が終わった。


 この時、冬も本番といった感じで、街を歩く人たちはコートを羽織るようになっていた。ユキはもちろん、職場の人たちもコートを羽織って出勤していた。とてもとても寒い冬だったのだ。


翌日、ユキが仕事へ行くと新人が入る話題で持ち切りだった。

「おはようございます。」

「おはよう。新人さん入るみたいだよ。」

「どんな方でしょうね。ふふふ。」

「楽しみだね。かっこいい人だといいな。」

「ふふふ。」

「あ、おばさんだってイケメン好きなんだからね!」

そんな他愛もない会話をしていると朝礼が始まった。すると新人が前に来るようにと呼ばれた。そして新人は前へ出たのだった。



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