第14話
翌朝、蓮斗が起きるとそこに秋江の姿はなかった。置手紙さえもなかった。秋江は夜中に荷物をまとめ出て行ったのだった。
その日、蓮斗は仕事へ行けなかった。大切な人を失ったショックが大きかったのだ。結果としてバレてはいなかったものの浮気さえしなければ、そう思っていたのだった。失って初めて気付くことがあると言うけれど、本当だった。約五年ほど前に別れた時には、そんなことは不思議と感じなかったのだ。きっと春子となつを亡くし色々なことに気付いたのだろう。
その日の夕方、蓮斗の家のインターホンが鳴った。ユキだった。
「こんばんは。また来ちゃいました。」
「あぁ…」
「迷惑でしたか?また幻聴が出たのかなと思って…」
「ううん。今日は違うんだ。」
「風邪…ですか?」
「彼女と別れることになって。」
「ショックだったんですね…」
「うん…とりあえず入りなよ。」
そう言うとユキは家へ入った。すると寂しさを紛らわすために蓮斗はユキにキスをした。そして身体を触り、ふたりはひとつになった。ユキは抵抗することなく、むしろ嬉しそうな様子だった。寂しさを紛らわすためでもいいとユキは思っていた。恐らくそうだろうと感じていたが、好きな人を自分のものに出来ると思ったユキは幸せだった。
「蓮斗さん、こんな時になんですけど私、幸せです。」
「本当に?」
「はい。蓮斗さんの気持ちが今は私にないことは知っています。」
「…」
蓮斗がまだ春子を想っていること、なつと秋江に救われていたこと、ユキはそれに気付いているかのようだった。
「寂しさを紛らわすためですよね?それでもいいんです。」
「どうして?」
「蓮斗さんが好きだからです。」
とっくに蓮斗は気付いていたので驚くことはなかった。
「そっか。ありがとう。なんかごめんね。」
「謝らないでください。」
「でも…」
「いいんです、私。二番目でも良かったんです。」
「それは流石に良くないよ。」
「そうですか…」
「それならいつか一番になってみせます。」
「うん。」
「頑張ります!」
ユキの言葉に蓮斗は少なからず救われた。春子となつと秋江という大切な人を失ったショックが大きかっただけに…
その日からまた蓮斗はオーバードーズやリストカットをするようになってしまった。秋江と別れたショックが大きかったのだ。
そんなある日、蓮斗はリストカットをすると、いつも以上の出血に驚いた。しかし、何故か妙に落ち着いていた。出血の量は今までにないほどだった。そしてオーバードーズをして、眠くなるのを待っていた。少しすると薬の副作用の眠気と睡眠薬の眠気が蓮斗を襲った。そしてそのまま蓮斗は眠りについた…
翌日、職場に蓮斗の姿はなかった。すると所長がこう言った。
「ユキちゃん、蓮斗くんと連絡取れる?」
「はい、たぶん…」
「電話に出ないんだよ。」
「え?」
「ちょっと家まで様子を見てきて欲しいんだけど…」
「はい。行ってきます。」
そう言うとユキは蓮斗の家へ向かった。妙な予感だけが脳裏をよぎった。そしてユキは蓮斗の家へ着いた。インターホンを鳴らしたが蓮斗が出る様子はなかった。そしてドアノブを捻ると鍵が開いていたのでユキは入っていった。
するとそこには血塗れになって倒れている蓮斗の姿があった。
「蓮斗さん!」
蓮斗から返事はなかった。蓮斗はすでに出血多量で死んでいた。蓮斗の死体にユキはこう話しかけた。
「蓮斗さん。これで私だけのモノになりますね。すごく嬉しいです。私ね、今すごく幸せですよ。他の人から見たら変かもしれないですけどね。ふふふ。」
そしてユキは平然とした様子で所長に電話をした。
「もしもしユキです。」
「はい。所長です。蓮斗くんどうだった?」
「なんか自殺…してたみたいで…」
「え?…」
「脈もないし、心臓も止まってるみたいです。」
「救急車を呼んで!」
「はい。」
それからユキは救急車を呼んだ。救急隊員の話では、出血性ショック死とのことだった。
そして蓮斗の葬儀が行われたが、そこにユキの姿はなかった。春子となつの葬儀に蓮斗が参列しなかったように…
蓮斗さん やっと私だけのモノになってくれましたね
蓮斗さん 私ね すごく嬉しいの
蓮斗さん やっと私だけのモノになってくれましたね
蓮斗さん 私ね すごく楽しいの
蓮斗さん やっと私だけのモノになってくれましたね
蓮斗さん 私ね すごく幸せなの
蓮斗さん 貴方が私だけのモノになってくれたから




