第12話
「蓮斗さん!」
「どうしたの?」
「一緒に帰りませんか?駅まででいいので。」
「いいよ。」
そしてふたりは一緒に駅まで行くことになった。
「ユキさんは家どこなの?」
「私は新百合ヶ丘です。」
「じゃあ職場からは近いね。僕は町田なんだ。」
「結構遠いですね。」
「うん。」
「蓮斗さん、質問です!」
「ん?」
「彼女さんは居ますか?」
「え?うん。今は同棲してるよ。」
「…そうですか…」
「どうしたの?」
「いえ、何でもないです。」
「そう?」
「はい!」
「急にどうしたの?」
「いえ…」
そして駅に着いて途中まで同じ電車に乗った。ユキが降りる駅に着くと一言こう言った。
「私、負けません!」
「え?」
そう言うと電車の扉は閉まった。流石の蓮斗もユキの気持ちに気付いた。そして蓮斗は家路へと着いた。その間、ユキの台詞がずっと脳裏をよぎっていた。春子のことが少し頭から離れていた。そんな気さえしたのだった。
家へ着いた蓮斗は秋江の帰りを待っていた。それから一時間ほどして秋江が帰って来た。「ただいま。」
「お疲れ様。」
そして蓮斗はその日あったことを一部始終話した。
「今日ね、新人が入ってきたんだ。」
「どんな人?」
「まだ二十歳なんだけどしっかりしてる。」
「女の子?」
「うん。」
「へぇ。」
「帰り際に彼女居るか聞かれたよ。」
「なんて答えたの?」
「居るよって…もちろん。」
「へぇ。蓮斗もまだモテるんだね。」
「そうかな。」
「そうだよ。まぁ、でもモテない男と付き合ってるよりは鼻が高いからいいかな。」
「そっか。」
「それでユキって子、可愛いの?」
「うん。可愛い子だよ。」
そして夜も更けてふたりは眠りについた。
翌朝、秋江は蓮斗の様子が少しおかしいことに気付いた。
「蓮斗…蓮斗…」
「春子!」
どうやら幻聴が聞こえたようだった。
「今日は仕事休みな、ね?」
「うん…そうする。」
秋江は心配だったが自分の仕事へ行った。その日、秋江は蓮斗のことが心配で仕事が手に付かなかった。
夕方になりいつもなら蓮斗の仕事が終わる時間を過ぎていた。するとインターホンが鳴った。ユキだった。
「どうもすみません。勝手に来てしまいました。」
「よくわかったね。」
「はい。所長に聞いたので。」
「そっか。」
「上がっていく?」
「いいんですか?」
「折角来てくれたんだし…」
「でも…」
「あ、体調?大丈夫だから。うつらないから安心して。」
「彼女さんは?」
「まだ帰って来ないと思うよ。」
「それなら少しだけ…」
「コーヒーは飲める?」
「はい。」
「じゃあ、コーヒー入れるね。」
「ありがとうございます。」
「クリームと砂糖は?」
「えーと…少しだけ入れてください。」
「両方?」
「はい。」
蓮斗は春子のことを思い出した。コーヒーにはクリームと砂糖を少しずつ入れるからだ。春子と同じだった。そして蓮斗は自分の病気のことを話した。
「統合失調症って知ってる?」
「はい。私も精神化に通っているので。」
「そうなの?鬱病とか?」
「正解です。」
「今日はね、久しぶりに幻聴を聞いたんだ。」
「幻聴?」
「そう…ある人に呼ばれる声がたまに聞こえるんだ。僕は幻聴だとは思っていないけどね。」
「そうだったんですね。」
「私はただの鬱病なので…」
「ただのなんてことはないよ。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
「どんな病気だって辛いものでしょ?」
「ありがとうございます。なかなか理解されなくて…」
「そうだよね。目に見える病気ではないからね。職場では黙っておくから。」
「ありがとうございます…」
そう言うとユキは泣き出して、蓮斗の肩にもたれかかってきた。蓮斗は優しくユキの頭を撫でてキスをした。
「…」
ふたりはキスを続けた。少しずつキスは深くなり、蓮斗はユキの身体に触れた。ユキは抵抗することはなかった。むしろ嬉しそうだった。そして少しずつ洋服を脱がし、ふたりはひとつになった。
「蓮斗さん…彼女さんは…?」
「たぶんまだ帰って来ないから…」
そう言うと蓮斗はキスをしてユキの口を塞ぎ、またユキの身体に触れた。それでも拒むことは決してなく、相変わらず嬉しそうな表情を浮かべていた。そしてふたりはまたひとつになった。
「もうすぐ彼女が帰って来るかも…」
「じゃあ、私は帰りますね。」
「うん…」
「今日は顔が見れて良かったです。」
「うん。気を付けて帰ってね。」
そう言ってユキは帰っていった。それから二十分ほどすると秋江が帰ってきた。危うく蓮斗が浮気をしたことがバレるところだった。




