懐かしい思い出
月の調べにのせて、オトギバナシをしましょう。
オルゴールと月の音が重なるとき、その瞬間のお話をーーー。
「母上っ!」
まだ小さな手を懸命にのばして、私の娘、華夜が抱きついてくる。
「どうしたの、華夜?」
優しく抱きしめてやると、華夜はとても嬉しそうに言った。
「かやね、壱夜さまと結婚したい!」
壱夜!?あの身分も地位も高い?
「それは…できないわ。できても、貴方が辛いだけよ?」
それに、壱夜様には婚約者がいらしたはず。
すると華夜は、怒った顔で抱きついたまま、
「でも、壱夜様はいいよって言ってくださったわ!」
あらまあ…!
まるで、昔の自分のようね。
今の夫、秋玲様に婚約をお願いした時みたい。
「誰だ!」
…あれ?母様がいない!はぐれちゃった!?
「ご、ごめんなさい!私、母様とはぐれてしまい…」
「そなた、名前は?我は秋玲と申す」
「しゅうれい…様?」
綺麗な黒髪、すらりとした容姿。
「私は凪紗ともうします。あの」
私は思わず
「私と婚約してください!」
と言ってしまった!
言わずにはいられなかった。
こんなに綺麗で不思議なお方、惚れないわけがない!
「…我は気に入った!我からも婚約を願い申す!」