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未練があるなんて、思わないで下さい  作者: みん


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29/32

29 ブレイザー伯爵家

*アシュトン視点*




『貴方は、私を裏切ったのよ──』


『──二度と貴方の顔なんて見たくなかったわ。アシュトンにもブレイザー家にも未練なんてこれっぽっちもないわ。貴方(自分)に未練があるなんて思わないで!』



ー私がマリレーヌを裏切っていた?ー


あれは、マリレーヌが咄嗟についた嘘じゃないのか?それとも、私の気を引く為の嘘では?ラヴィーからは、事故に遭うよりも前に会っていたなんて話は聞いた事がない。ブレイザーに帰ったら、ラヴィーに確認しなければ──の前に、いろいろと大変な事になった。

マリレーヌを連れて来るどころか、助けてもらう事すらできずにサザリアン迄帰って来てしまった。しかも、スカレティア皇国を出国する際に──



『アシュトン=ブレイザー伯爵ですね?皇城から通達がありまして、“この出国後、ブレイザー伯爵家の者は5年はスカレティア皇国への入国を禁止する”との事です』

『5年の……入国禁止!?どうして!?』

『理由は、私ではわかりかねます。とにかく、5年は入国できません。破った場合は、即刻拘束対象となりますので、お気を付けください』



5年はマリレーヌと接触できないという事だ。どうして私達がそんな扱いをされるのか──あの、リシュー=コペリオンだろう。あの男が、マリレーヌをスカレティアに連れ去り、今では自分の家に住まわせている。


ーこれから、一体どうすれば……ー







******



「マリレーヌを連れて帰って来られなかった!?」

「はい。マリレーヌは、もうサザリアン王国の者ではなく、スカレティア皇国のナルターレル侯爵の籍に入っていたんです」

「なんて事なの!?」


怒りを露にしているのは母上だ。マリレーヌを連れて帰って来られなかった上に、他にも問題があった。


「それと……アンセルとコネリーも……スカレティアに残ると言って、一緒に帰って来ていません」

「何て事なの!?」


コペリオン邸を追い出された時に、アンセルに渡された書類を見て驚いた。執事アンセルと侍女コネリーと、ブレイザー伯爵家の契約解消の契約書。勿論、当主である私は、そんな物を書いた覚えは全くなかったが、その書類にはブレイザー伯爵(わたし)の当主印が押されていた。

マリレーヌが居なくなってから、執務はアンセルに任せていたから、当主印もアンセルに渡していた。その当主印を使われたんだろう。それを私が訴えたところで……私が無能だと言っているのと同じ事になり、私が笑い者になるだけだ。だから、おとなしく私は護衛の3人と帰って来るしかなかった。


「別に、あの2人が居なくても、他にも使用人が居るから大丈夫じゃないの?」


ラヴィーの言う通り、使用人は他にも居るけど、領地の執務や運営ができるのはアンセルだけなのだ。領民達からの信頼もアンセルが一番だった。そのアンセルが居なくなった。


「一体……誰が……立て直せるんだ?」

「し……しっかりしなさい!アシュー!貴方ならできるわ!マリレーヌにできて、貴方にできない事なんてあるはずがないもの!貴方なら、やればできるわ!」

「母上……」


ーそうだ。マリレーヌにできたなら……私も頑張れば……ー




それから、改めて過去の資料をもとに執務をこなそうとしたけど、どこからどう手を付けていいかさえも分からなかった。しかも、資料の殆どがマリレーヌとアンセルの筆跡だった。


他の使用人に聞いても執務内容は分からず、領民との土地の改良もうまくいかない日々。

そんな日々を私は過ごしているのに、ラヴィーと母上は手伝おうともせず、毎日優雅な生活をしている。


ーマリレーヌが居たら、こんな苦労をせずにすんだのにー


マリレーヌは、記憶を失くした私にも優しかったし、文句の一つも言わなかった。


「マリレーヌ……」


今更後悔しても遅い。ハッキリと拒絶されたのだ。


「アシュー、今日も仕事なの?」

「ラヴィー……アンセルが居なくなった分、やらなければいけない物が増えたんだ」

「もう……最近は『仕事仕事!』って言って、全然構ってくれないから、寂しいわ」

「すまない……」


プクッと頬を膨らませて拗ねるラヴィー。以前は、そんなラヴィーを愛おしく思っていたのに、今では煩わしいと感じてしまっている。


「申し訳ないと思ってるなら、代わりにネックレスでも買っていい?」

「ああ……いいよ」

「ふふっ。ありがとう、アシュー」

「ところで……ラヴィー。その……私とラヴィーが関係を持ったのは……私が事故に遭う前だったと……マリレーヌから聞いたんだけど……」

「へぇ……あの女……そうよ。私とアシューが寝たのは事故に遭う前よ。でもね、その1回で子供ができたのは本当よ。ディランがアシューの子供だという事に変わりはないわよ。それじゃあ、お仕事頑張ってね」


ヒラヒラと手を振って、部屋から出て行くラヴィーの背中を見ている事しかできなかった。



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