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消したい2文字

作者: たたた文庫
掲載日:2026/03/05

自分は、弱い男です。自分は自分の事が嫌いです。でも。

「あんな女辞めとけ。」

幼馴染の琴音にそう言われました。

「俺の事が好きだから早く別れて欲しいんだろ?」

こう言うと、大抵の女性は顔を赤らめて、だんまりしてしまうものだと思っていました。でも、琴音は違いました。

顔を赤らめるどころか、さらに声を張り。

「わざわざ警告してやってんだ。」

俺を見下ろし、高圧的に距離を詰めてきます。

そう、俺は琴音より身長が小さいのです。俺が特別小さいというわけではなく、むしろ平均より高いレベルです。そう、琴音が大きすぎるのです。スタイルが大変よろしいのです。おまけに、その整った顔つきから、男子たちからは大変な人気を博しています。

「そんなに俺の事が好きか。」

完全に調子に乗ってしまって。

「仕方ない、キスしてやるぜ。」

自分には彼女がいます。それは琴音も知っています。

「最低。」

冗談のつもりだったのですが、意外にも間に受けてしまったようで、その日、琴音は一直線に家まで帰ってしまいました。

その日、自分は彼女の家に行きました。

玄関を空けます。

バタン、というドアを開ける音とともに玄関から出てきて。

「金、出せ」

そう言って、俺を殴ります。

彼女の文香です。

そう、俺は俗に言う、DVというのをされているそうです。でも不思議と、嫌と思ったことは、一度たりともないのです。だって俺は、文香が好きだから。

「はい、お金。」

いつもよりも多い額のお金をみて文香は。

「偉いね。」

優しく俺の頭を撫でます。その優しさがとても嬉しいのです。

そんな生活を続けて1ヶ月。お金が底を尽きました。

もう、文香に渡すお金は、ありません。

別れられるのかな、そんなことを考えながら文香の家に向かいます。

ドアを開けると。

「金。」

いつもの声です。

「ごめん、お金なくなっちゃった。」

本当のことを言いました。言わなければ、嫌われちゃうから。

別れられても仕方ないよな、そう思っていました。

けれど、意外にも文香は。

「あっそ。」

許してくれたのです。

「まあ、上がりな」

やっぱり俺は文香が好きです。

その夜、文香が風呂に入っているとき、文香のスマホから通知が鳴ります。

気になります。

見ました。

画面には 

雄馬

早く会いたい

そう、綴られていました。

絶望。この2文字は今この瞬間を表すための言葉と言っても過言ではない。そのぐらい、絶望しました。

風呂から上がる文香を問い詰めます。としたいところでした。俺にはそんな勇気がないのです。

つま先から指先まで、全身が震えます。

文香はそんな自分をみるなり。

「なによ、寒いの?」

そんな訳はありません。暖房の温度は、28度なのですから。

「あ、あの。」

勇気を振り絞って言葉を発します。でも、俺にはこれ以上勇気を出せそうにありません。

「何。」

苛ついている。見るだけで分かります。でも、不思議と怯えません。なぜでしょう。自分には、見当つきません。

「スマホ、雄馬って誰。」

言えました。今度こそ言えました。

「めんどくさ」

果たして、文香は本当に面倒くさいと思っているのか、自分には、そうには見えませんでした。もう、自分は捨てられたのかもしれません、いや、きっとそうなのです。

「めんどくさいって、何が。」

スラスラと言葉が出てきます。

「はぁ、浮気、浮気、浮気ですよ」

文香の口からこぼれる、浮気の2文字、それを3回。

俺は確信しました。

今この瞬間初めてです。俺は文香に愛されて居ないのです。

「    」

だめだ、何も言いたくありません。

「バレたんだったらあんたは用済み、さよなら」

呆然と立ち尽くす俺を前にして、淡々と俺の荷物をまとめる文香。

「じゃあ、帰ってね」

文香と付き合ってきて、今この瞬間が、一番、本音を話してくれている気がします。

その後のことは、覚えていません、いや、思い出したくありません。

文香と別れました。

まず、一番に琴音にその報告をしに行きました。

「別れた。」

「嘘?」

「本当。」

琴音は俺を抱きしめます。

温かい。

久しぶりに、人のぬくもりを感じました。

「急に抱きつくな」

照れ隠し、というやつでしょうか、反射的に出ました。

ですが、ドキドキはしません。

文香に抱きしめられたときはドキドキしていたのに。

何故か。

答えは簡単です、俺は琴音が好きではないのです。

それから1年間。

俺は琴音から毎日のように猛アピールを受けました。ですが、好きになれません。

1年間もアピールされ、好きになれないのは何故だ。

俺は、その答えを知っています。

俺は、文香のことが、まだ好きなのです。

そのとき思いました。

俺は俺が嫌いだ。

俺は弱い男だ。

でも、クズだ。

そこから何年経ったのかもわかりませんが。頭の片隅には、いや、頭の大部分が文香でいっぱいです。

そして、スマホのトーク履歴にも、「文香。」の2文字が綴られています。

消したい。消したい。消せない。

俺の心は、文香に殺されたのです。

いや、もしくは、俺が俺を殺したのかも知れません。

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