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蒼斗の世界発、ターミナル行世界線列車

本作品はカクヨムにも投稿しています。

 家だったもの、道だったもの、店だったもの。

 知っている景色の残滓が、虹色の光の彼方に消えていく。


 少しして虹色すら消えて、車窓に残ったのはどこまでも続いていそうな真っ黒い闇と、その中でたしかに輝く無数の光たち。

 俺の知識にある言葉を当てはめるなら、それは宇宙としか言いようのない光景だ。


「さ、座って。ここはもう安全だから」

「……おう」


 リーゼリットに勧められて、俺は古めかしいボックスシートに腰かけた。

 見た目の割に、シートはそこまで硬くなかった。

 

 そう、硬くない。

 この椅子は硬くないし、体を預けても受け止めてくれる。


 この空間には酸素があって、重力があって。

 目の前の少女は本物で、俺も、本物で。


「……夢、じゃないんだよな」


 もう明晰夢だなんて思ってない。思えない。思いたくても。


「なぁ、さっきおっさんが言ってたよな。生存者がいないって。俺以外」

「うん」


 短い答えに、俺は息を吐く。


「別に両親とはそこまで仲良くなかったんだよな。嫌われてもなかったけどさ。欲しいものはなんでも買ってもらえたけど、最近はほとんど喋ってなかったし」

「うん」

「友達も……ま、当然いたんだぜ? 一緒にゲームよくやってた連中がさ。つってもアイツら所詮雑魚だからな。最強はやっぱ俺で、アイツらはまぁ、取り巻きみたいなもんよ」

「うん」

「けどよ。なんつーか、もう会えないんだな」

「……うん」


 両親と最後にした話はどんなだっただろう。友達と最後にした話にはどんなだっただろう。

 こんな喪失感を抱いたのはきっと、人生で初めてだ。


 両親や友達のことだけじゃない。俺の大好きだったゲームももうできないんだよな。

 新キャラの実装は楽しみだったし、まだやりたいこともあったのに。


「……なんでだ? なんで……俺が、こんな目に遭わなくちゃいけないんだ?」


 きっと違う。そう言いたいのは、死んでいったあの世界の全員のはずだ。

 俺は生きてるだけマシなんだ。


 けど、だから。あの世界の、どうやら最後の生き残りらしい俺は聞かなくちゃいけないんだと思う。

 意味分かんねぇことばっかり言ってたこいつの、リーゼリットの話をすべて。


「剪定がどうとか言ってたけどよ……。結局、お前らは何者だ? 俺の世界はどうしてああなった? 親も友達も……なんで死んだ……!」


 抑えられない苛立ちに語気が荒れ、リーゼリットに詰め寄る。


「なんで死ななくちゃいけなかったんだ! 父さんも母さんも、アイツらもなんで! どうして!」

「あなたの疑問はもっとも。だから、順番に話す」


 詰め寄られてなお、リーゼリットは動じない。

 座ったまま、背筋をピンと伸ばして俺を見据える。


 その冷静さに腹が立つ。

 けど、怒鳴り散らしても進まないってか。

 

「チッ……。早く話せよ」


 舌打ちに乗せても余る怒りを、俺は溜息に混ぜて吐き出した。


「まず大前提として、世界は1つじゃない。この世界……ううん、宇宙には世界樹って呼ばれてる世界があって、あなたたちの世界は世界樹から枝分かれして生まれた世界なの」

「世界樹……」


 さっきも話してた。それを守っているとかって。


「簡単に言うなら……。そう、パラレルワールド? すべてのパラレルワールドの元になったのが世界樹の幹、今はターミナルって呼ばれてる世界。枝分かれした世界はターミナルとは別の次元に存在してるけど、繋がりは保たれているの」


 パラレルワールドっていうと、なにか理由があって分岐した世界とか、そんなもんだろう。

 世界樹がどうとか言われてもよく分からなかったけど、パラレルワールドなら理解しやすい気がする。


「そしてターミナルとパラレルワールドの繋がりっていうのが、この列車。正確には、この列車が走っている世界線っていう路線なの」

「じゃあこの列車は、世界を自由に行き来できるってことか?」


 リーゼリットは頷き、窓の外へ目を向けた。


「この宇宙空間は、世界同士の狭間。今は、ターミナルへ続く路線を走っているの」


 ターミナル。ターミナル駅とかいう言葉があるけど、そういうことか?


「世界の構造についてまとめると、世界樹と呼ばれる中心世界があって、そこから枝分かれした別次元に無数の世界がある。それは理解できた?」

「まぁ、なんとなくはな」


 ぶっきらぼうに返すと、特に気にした素振りもなくリーゼリットは頷いた。


「ただこの世界の構造、実はこれだけじゃないの。世界は世界樹の外にもあって、外宇宙と呼ばれてる。あなたの世界の概念で言うなら」

 リーゼリットは無表情のまま首を傾げ、それからなにかに気付いたように僅かに眉を動かす。


「太陽系? あなたの世界が地球で、世界樹が太陽。その太陽系の外にも星々があって、銀河があって。そういう風に、世界樹に属してない宇宙もあるの。それがいわゆる外宇宙」

「外宇宙ね」


 なんかまた話が難しくなってきたな。

 つまり、俺のいた世界の親は世界樹だけど、その世界樹の外にも似たような構造の世界……いや、世界樹があるってことか?


「……分かった、多分」


 完全に理解したわけじゃないけど、完全に理解する必要もないだろ。

 俺が聞きたいのはそういうことじゃない。


「大丈夫。あなたが聞きたいことにも、ちゃんと答える。ただ説明のために、この宇宙の構造を話しておく必要があったの」


 俺の苛立ちを察知したか、リーゼリットは言う。


「分かったよ。それは分かったから」


 続きを話せよと、手で示す。


「じゃあ次は、あなたの世界を襲った存在について」

「っ……!」


 突然核心に踏み込んだ言葉に、思わず前のめりになる。


「襲ったって言ったよな? ……じゃあなにか。世界がああなったのは災害がどうとかじゃなくて……!」

「そう。厄災の獣。それがあなたの世界を終わらせた存在」

「……そういや、言ってたっけか。そんなこと」


 そのときは明晰夢だと思ってたし、まったく聞いてなかったから忘れてた。


「厄災の獣は外宇宙からの侵略者の総称なの」

「外宇宙ってのは、お前らと戦争でもしてんのか?」

「してるところもあるし、してないところもある。きっとまだ互いを認知していない宇宙もある」

「なんだそれ。じゃあ、今回俺のいた世界を襲ったのは、その戦争してる外宇宙の奴なのか」


 聞けば、リーゼリットは静かに首を横に振った。


「違うのか?」

「分からない。今回の獣が特定の外宇宙が送り込んだ生物兵器なのか、純粋に私たちの宇宙に迷い込んだ野生生物なのか。そこは現状ではまだ。その調査のために、私は派遣されたから」

「……調査、ね。そのことについても教えてくれよ」


 剪定がどうとか世界樹の守護者とか、そんなようなことをこいつは言っていた。


「お前は軍人なのか? なんだっけ。ターミナルとかいうとこの」


 彼女の傍らに置かれた刀を見据えながら聞く。


「厳密には違うけど、認識としてはそれでも良い。剪定士は特別な異能を持つ人間がその力で世界を、この宇宙を守るために活動するための役職」

「異能? いや、そんくらい持っててもおかしくねぇか。この状況」


 空飛ぶ列車に、それに軽々跳び移る少女。 

 世界観はもはやファンタジーのそれだ。


「異能、異能ね。あの世界じゃ結局ゲームやアニメの中だけの存在だったな。けど生まれる世界が違けりゃ、俺もそういう力持ってた説もあんのか」

「あなたも持ってるよ。異能」

「……は?」


 思わず出た怪訝な言葉に、リーゼリットは何も返さない。

 青い瞳がまっすぐ、じっと俺を見つめている。


「いや、俺は普通の人間だが? ただの高校生、一般人。体育の成績は普通くらいなんだが?」

「あなたの成績は知らないけど……。けど、持ってるよ。……ほら、ちょうど光ってる」


 そう言って、リーゼリットは窓の向こうを指差した。


「はぁ? やっぱ意味分かんねぇよおま──」


 俺は最後まで言い切れなかった。

 さっきまで車窓に反射して映っていた俺は、いつも通りの俺だったはずだ。


 黒い髪に、赤い瞳に、インドア派故の色白い肌に。

 今は違う。


「おかしいと思わない? あれだけの惨状、世界すら終わってしまう破壊の後、どうしてあなたは無事なのか。怪我もなく、五体満足で」


 黒い髪に、赤い左目に、色白い肌に──琥珀色の右目に、頬を駆ける、ヒビのような刻印。


「あなたはもう、こっち側──ううん、それすら違う。あなたはもう、こっち側ですらない。私たちとも違う体系に属する存在」

「はっ──?」


 青い瞳を見返すと、細い手が俺の顔へと伸びてくる。


「あなたは刻印持ち。厄災の火種」


 直後、全身を冷気が駆けた。

 そうと認識したときにはもう、俺は──。



リーゼリットが何者で、なにをしているのか。蒼斗の世界がどうして滅んでしまったのか。

ようやく説明することができました。

蒼斗の身になにが起こったのかだけはまだ謎に包まれていますが、それもおいおい明らかになっていきますので、ぜひ次回もよろしくお願いします。

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