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さようなら世界

本作品はカクヨムにも投稿しています。


 白い長髪に青い瞳、髪色と同じで雪みたいに真っ白な軍服姿の少女──リーゼリットとかいうこの女は、いったいなんなんだ。


 いや、それだけじゃなくて。

 この焼け野原はなんなんだ?


 この世界は終わったとかなんとかって、なに言ってんだこいつ?


「もう1度言うよ。この世界はもう終わったの。多分、厄災の獣の仕業」

「はぁ? ……いやっ、えっ? なに……? なん、なんだ?」


 まったくわからん。なんだこれ。なにを言ってるんだ。

 ……これはいわゆる、明晰夢ってやつか?

 夢って自覚はないけど、まぁこんなの現実なわけないし。


「明晰夢って、どんくらいで覚めんだろ」

「残念だけど、これは夢じゃない。現実」

「ハッ。いやいや、現実って。なに言ってんのお前。頭は大丈夫そ?」


 言うと、少女は表情一つ変えずに首を振る。

 真っ赤な視界の中、雪のように白い髪が映えて見えた。


「私の頭は大丈夫。ついでに言うと、あなたも。大丈夫じゃないのは、この世界。厄災の獣に滅ぼされた以上、もう終わりは確定してる」

「……はぁ?」


 さっきからなんだコイツ。明晰夢って、こんなに会話が成立するもんなのか?

 いや、この状況を会話が成立していると言っていいのかは微妙なところか。

 まるで話が通じねぇし。


「てか、さっきから何なんだよ。厄災の獣って。そういう専門用語をいきなり出されても、読者はなんも分かんねーんだわ。いや、夢だから視聴者か? どのみち俺しかいねぇけど」

「厄災の獣は、外宇宙から飛来した敵対生物の総称。本能や司令に従って行動し、侵入した世界で破壊活動を行うの」

「……ちゃんとできるじゃねぇか」


 言いながら、俺は立ち上がる。

 さっきからこの明晰夢、謎にレスポンス良いのはなんなんだ。

 それとも明晰夢ってのは全部こうなのか?


「他に、聞きたいことはある?」


 少女も俺に合わせて立ち上がると、それから首を傾げた。


「他ぁ? ……お前、何者?」


 少女はよく見れば、腰に刀をさげている。

 さっきのセリフも考慮すると、厄災のなんとかと戦うのか?


「私は剪定士せんていし。世界樹の守護者として、外宇宙からの侵略者と戦ったり、各世界でバランサーの役割を担ったり──」

「待て待て待て」


 思わず待ったをかけて、俺は呆れ切った表情を少女に向けた。


「さっき言ったろーが。いきなり専門用語だされても分かんねぇって」


 世界樹っていうと、ファンタジーを題材にした作品で登場する大木か。

 それで、少女……リーゼリットとか名乗ったコイツは、それを守るために戦うと。


「……そういや、今度追加される新キャラが似たような感じだったな」


 寝落ちする前までやっていたFPSの新キャラのことだ。

 起動エレベーターを守る防衛隊という設定の新キャラが、来週追加される。


「って、やべぇ。たしかマッチングしてたんだよな……。早く起きねぇと戦犯だろ! いや、起きてももう戦犯か? やべぇー……!」


 ランクが下がるのもヤバいし、ワンチャン晒されるのもマズい。

 今の今までそういうミスはしたことなかったのに、なんでマッチングした瞬間に寝落ちなんか……!


 心の内で愚痴っていると、不意に地響きのようなものが聞こえてきた。

 リーゼリットにも聞こえたようで、刀の柄に手を触れながら周囲を見回している。


「うおっ……!?」

「もう限界……。あなた、名前は?」

「は? 杠葉蒼斗だけど……っ!?」


 ぶっきらぼうに名乗った直後、ズズンと地面が縦揺れした。

 転びかけたところに、リーゼリットが手を伸ばしてくる。


「わ、悪い」


 ……って、なに夢の中で礼なんて言ってるんだ俺は。

 そろそろ覚めてくれないかなぁ。なんか熱いし、焦げ臭いし、焦げ以外の……なんの臭いか分からないけど、気持ち悪い臭いもするし。


「もうすぐ列車が来る。あなたも一緒に来て」


 この状況で列車? 線路もないのに?

 いや、仮に線路があったからなんだ、って話ではあるが。


「もうなんでもいいよ。さっさと覚めてくれれば」

「……残念だけど、あなたはもう目覚めてる。これは、夢じゃない」


 青い瞳がまっすぐ、俺を見つめてくる。

──なんだ、この質感。


 手で触れて、見つめられて、息を呑んだ。

 けど、夢じゃないって。目覚めてるって。


 急に背筋が寒くなってきた。

 現実とは思えないこの惨状が、光景が、世界が。


 急にリアルな質感を持ったものに変わっていくような気がした。

 同じなのに。目を覚ましてから見ていたものは同じなのに。


 肌にまとわりつく熱気も、触れているそこだけが不思議と冷たい、リーゼリットの手の平も。

 俺を見つめる瞳も、気配も、まるで実在するようで、ここが現実のようで。


「はっ……いやっ、んなわけ」


 言い切る前に、地響きとは違う音が聞こえてきた。

 ガタンゴトンと鳴るそれは、まるで列車の走行音だ。


 音のする方へ顔を向けて、俺は息を呑む。

 空を、列車が駆けている。

 線路もない、空中を……まるで何事もないように、蒸気機関車が……!


「──車掌さん!」


 突然リーゼリットが声を張る。

 大声が出せたのかと驚いていると、蒸気機関車の客車から、ひょいと顔を覗かせる人がいた。

 白髪交じりで濃い眉を持つ男だった。


「そいつ以外に誰も生存者がいねぇのは確かみてぇだ! 急いで離脱するぞ!」

「停まらないで! 跳び移る!」

「はっ? あっ、おい!?」


 突然ひょいと抱き上げられて、俺は裏返った声を出す。

 女の子とこんなに密着するのなんて初めてで、けどそれにドキマギする余裕なんてなかった。


「待てお前この距離を跳ぶって意味分かんねぇこと言ってんじゃ──!」

「舌噛むから静かに」

「ばっ!?」


 トンッ、と。まるで重さを感じさせない静かな跳躍。

 その軽やかさに反して。


「おわぁぁぁぁ!?」


 急上昇したかと思えば、あっという間に急下降。

 リーゼリットは列車の最後尾、デッキみたいになっている部分に軽やかに着地した。

 そのまま雑にドアを開けて客車に乗り込む。


「跳んで!」


 俺を担いだままリーゼリットは大声を出し、直後、車窓は虹色に変わっていく。


「ちょっ、離せ!」


 じたばたと暴れれば、リーゼリットはすんなりと俺を開放した。

 急いで窓に駆け寄り、虹色の隙間から遠ざかっていく街を──世界を見る。


「なんだ、これ……」


 眼下に広がるのは、歴史の授業で見た戦後の日本のような焼け野原。

 けど確かにそこには俺の家があって、俺の知る道があって、店があって。


 いや、違う。

 家だったもの、道だったもの、店だったものがあって。

 悪夢のようなその光景が──俺が最後に見た、俺のいた世界の姿だった。

崩壊していく世界が夢じゃないことを理解してしまった蒼斗は、果たしてこの先どうなってしまうのか。

前回のあとがきで何が起こったのかリーゼリットから説明してもらう的なことを書きましたが、いうほど説明してないですねこれ……。

まぁまぁ、今度こそ次回辺り、しっかり話してくれることでしょう。

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