赤の世界に1人
本作品はカクヨムにも投稿しています。
無限に続く星空の中を、列車は進む。
大昔の蒸気機関で動く汽車に似せた、けれど中身はまるで違う魔力機関車。
それでも人は汽車と呼び、だから私もそれに倣う。
汽車の引く客車は長く、けれど乗客は私だけ。
窓ガラスに反射して映るのは、肩甲骨の辺りまで伸びた白髪と、澄んだ青い瞳。
白いシャツの上からコートを纏い、左肩にはペリースを付け、ミニスカートの下には黒いタイツを履いている。
『リーゼリット。そろそろジャンプする、席に着いてくれ』
古風な客車には似合わないアナウンスが聞こえて、私──リーゼリット・エメローゼは口を開いた。
「ずっと席に着いてるよ、車掌さん」
『む、そうかい。ならすぐにでも飛ぶぞ!』
「よろしく」
職人気質を感じさせる声に短く応じると、車窓が一変する。
宇宙の暗闇を虹色の光が広まっていき、その眩しさを拒むように瞳を閉じた。
やがて──。
「っ……!」
激しい揺れが汽車を襲う。
手すりを掴みながら瞳を開け、窓の外へ目を向けた。
広がるのは星空でも虹色の光でも、青空でも曇り空でもない。
「──酷い」
視界一面に広がるのは、炎が燃え盛る赤の世界。
建物は崩れ、地面は抉れ、硝煙が暗い夜空を塗りつぶしているみたいだ。
「車掌さん。私は直接降りるから、安全圏で待機してて」
『きぃつけろよ!』
傍らにかけていた刀を手に取り、私は客車の扉を開ける。
まず感じるのは、やっぱり熱。
それはなにかが焼ける臭い、焦げ付く臭い。
建物が、草木が、血肉が。
だけど多分、この破壊をもたらした存在の本質はそこじゃない。
この街を、この国を──いや、この世界を破壊した存在の証明と解明、そして討伐。
それが私に与えられた使命だ。
ひとつ息を吐いて、空中に身を躍らせる。
それを合図に列車は再び高度を上げ、夜空に溶けるように消えていった。
それを横目に見ながら、私は幹線道路だっただろう場所に着地する。
「……誰か、生きてる?」
疑問形だけど、誰かに投げかけた言葉じゃない。
ふと気配を感じて、その方角へ歩き出す。
(対消滅……ううん、この歯形みたいな痕跡は……?)
破壊の痕を観察しながら歩くこと十分ほど。
この距離感で気配を感じたのは、気配の主以外生命体がこの世界に存在しないからか、それとも──。
「……まさか、どっちもってこと?」
崩れ落ちた家の、瓦礫の隙間からのぞく人体。
そこで淡く輝いているモノを見て、驚嘆の声をこぼした。
瓦礫をどかして、その下に埋もれていた少年を引っ張り出す。
あまりに凄惨なこの状況で、瓦礫に押しつぶされてなお五体満足な少年。
この世界は異能の類が存在しない世界線のはずだ。
なら間違いない。刻まれてしまったんだ。
目の前で眠るように穏やかに呼吸する、あまりにも場違いなその少年。
この子は、私とおんなじだ。
お話を読んでいただきありがとうございます。
第1話ラストに出てきた少女、リーゼリット視点のお話でした。
話自体は第1話のラストにつながる形なので、主人公蒼斗の世界に何が起こったのかは次回、彼女の口から説明してもらうことになるでしょう。




