彼女からの別れ
それは、うららかな小春日和が射し込む喫茶店の窓際で始まった。
店員が僕と、向かい合う彼女の前にホットのブレンドコーヒーをカチャリと置く。
「ごゆっくりどうぞー」
営業スマイルを残し、店員が立ち去ると、彼女はミルクのポーションをコーヒーにたらし、軽くスプーンでかき混ぜた。
僕はブラック派だ。
そのまま、カップを持ち上げて一口軽く含んだ。
彼女はカップから視線を上げた。
ほんの一瞬だけ、何かを確認するように間を置いてから、僕の目を見て言った。
「――さん、あなたをパーティメンバーから追放します」
こういうとき、僕はなんと言えば良いのだろう。
どうして僕が?
なにか気に入らないことがあったのか?
だが、その言葉は喉から出てこなかった。
それよりも、何よりも。
問題なのは。
彼女と僕は初対面だったのだ。
僕の目の前にスッと書類が置かれた。
一枚は、追放同意書。
そして、彼女の所属組織のチラシ。
――パーティメンバーとのやり取り不要。
スピード追放。
弁護士監修。
話には聞いたことがあるが、これがそうなのか。
コーヒーに静かに口をつける彼女に、恐る恐る声をかけた。
「あの。理由を聞いても?」
冷静な声が返ってきた。
「その開示義務はありません。
お互いに感情的にならないよう、私がおりますので」
それも想定できてはいた。
それでも、黙る理由にはならなかった。
僕は、少しだけ食い下がる。
「それでも。十年パーティを組んできたんです。
先週の魔将ドルギラン戦だって、僕のバフのおかげだってみんな……」
彼女は、手元のメモに一度だけ目を落とした。
「バフ……のことは気にされなくても結構です」
結構ですとは、どういうことだ?
だが、それ以上答える気はない。そう顔に書いていた。
そして、彼女は僕の感情を置き去りにして事務手続きに入る。
「パーティの寮からは退去でお願いします。
荷物は指定の住所へお送りしますので……ええ、この欄に」
僕は言われるがままに、書類にペンを走らせる。
だが、やはりここは言っておくべきだった。
「あの……」
彼女は、次の言葉を待ち受ける。
「僕のバフは、常時メンバーのステータスを底上げしていて。
いまのSランク冒険者の地位はそれがあるからで……。
その。それがなくなったら、ゴブリンにも勝てないんじゃないかな……って」
「有給の消化ですが。
一日につき小金貨一枚換算でお支払いするそうなので、選ばれる場合はチェックをつけてください」
淡々と進んだ。
そして、ひととおりの記入が済むと、彼女は書類を確認。
「では、これにて追放完了となります。
お疲れさまでした」
滑らかな手つきで、書類をカバンにしまう。
感傷もない。
というか、感情の持っていき場もないままに、追放を受け入れざるを得なかったのだ。
ぼつり、言葉が自然に落ちた。
「寂しいものですね」
だが、そうは言いつつも。
あいつらと本音でぶつかれば、まだ道はある……かどうかは自信がなかった。
なら、これも一つの形なのかもしれない。
彼女は、ほんの一瞬だけ瞳の奥の光を揺らしたように見えたが、静かにコーヒーの残りを飲み干す。
そして腕時計に目をやると、伝票を手に取った。
「では、失礼します」
僕は小さくため息をつく。
所在なさげに、目の前に残されたチラシをペラとめくった。
そして、席を立ちかけた彼女に声をかけた。
「……あの」
中腰のまま僕を見つめる彼女は、次の言葉を待ち受ける。
「この、“ザマぁ代行”の手続きなんですけど……」
彼女は、ゆっくりと着席した。




