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ファンタジー小噺

彼女からの別れ

作者: 白猫商工会
掲載日:2025/12/21

それは、うららかな小春日和が射し込む喫茶店の窓際で始まった。


店員が僕と、向かい合う彼女の前にホットのブレンドコーヒーをカチャリと置く。


「ごゆっくりどうぞー」


営業スマイルを残し、店員が立ち去ると、彼女はミルクのポーションをコーヒーにたらし、軽くスプーンでかき混ぜた。


僕はブラック派だ。

そのまま、カップを持ち上げて一口軽く含んだ。


彼女はカップから視線を上げた。

ほんの一瞬だけ、何かを確認するように間を置いてから、僕の目を見て言った。


「――さん、あなたをパーティメンバーから追放します」


こういうとき、僕はなんと言えば良いのだろう。


どうして僕が?

なにか気に入らないことがあったのか?


だが、その言葉は喉から出てこなかった。


それよりも、何よりも。

問題なのは。


彼女と僕は初対面だったのだ。


僕の目の前にスッと書類が置かれた。


一枚は、追放同意書。


そして、彼女の所属組織のチラシ。


――パーティメンバーとのやり取り不要。

スピード追放。

弁護士監修。


話には聞いたことがあるが、これがそうなのか。


コーヒーに静かに口をつける彼女に、恐る恐る声をかけた。


「あの。理由を聞いても?」


冷静な声が返ってきた。


「その開示義務はありません。

お互いに感情的にならないよう、私がおりますので」


それも想定できてはいた。

それでも、黙る理由にはならなかった。


僕は、少しだけ食い下がる。


「それでも。十年パーティを組んできたんです。

先週の魔将ドルギラン戦だって、僕のバフのおかげだってみんな……」


彼女は、手元のメモに一度だけ目を落とした。


「バフ……のことは気にされなくても結構です」


結構ですとは、どういうことだ?

だが、それ以上答える気はない。そう顔に書いていた。


そして、彼女は僕の感情を置き去りにして事務手続きに入る。


「パーティの寮からは退去でお願いします。

荷物は指定の住所へお送りしますので……ええ、この欄に」


僕は言われるがままに、書類にペンを走らせる。


だが、やはりここは言っておくべきだった。


「あの……」


彼女は、次の言葉を待ち受ける。


「僕のバフは、常時メンバーのステータスを底上げしていて。

いまのSランク冒険者の地位はそれがあるからで……。

その。それがなくなったら、ゴブリンにも勝てないんじゃないかな……って」


「有給の消化ですが。

一日につき小金貨一枚換算でお支払いするそうなので、選ばれる場合はチェックをつけてください」


淡々と進んだ。


そして、ひととおりの記入が済むと、彼女は書類を確認。


「では、これにて追放完了となります。

お疲れさまでした」


滑らかな手つきで、書類をカバンにしまう。


感傷もない。

というか、感情の持っていき場もないままに、追放を受け入れざるを得なかったのだ。


ぼつり、言葉が自然に落ちた。


「寂しいものですね」


だが、そうは言いつつも。


あいつらと本音でぶつかれば、まだ道はある……かどうかは自信がなかった。


なら、これも一つの形なのかもしれない。


彼女は、ほんの一瞬だけ瞳の奥の光を揺らしたように見えたが、静かにコーヒーの残りを飲み干す。


そして腕時計に目をやると、伝票を手に取った。


「では、失礼します」


僕は小さくため息をつく。


所在なさげに、目の前に残されたチラシをペラとめくった。


そして、席を立ちかけた彼女に声をかけた。


「……あの」


中腰のまま僕を見つめる彼女は、次の言葉を待ち受ける。


「この、“ザマぁ代行”の手続きなんですけど……」


彼女は、ゆっくりと着席した。

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