第8話 雪割草
ヨルンと二人で雪崩に巻き込まれた後、わたしは冬の女神さまに願い、女神さまはそれを叶えてくれた。
「ヨルンの身体を眠らせる」
わたしが、初めて女神さまの力を、自分の意思で使った瞬間だった。
大魔導士さまは、ヨルンのケガを魔法で治してくれた。
ヨルンは、まだ狩小屋の隅で眠っていた。
「レニ、自分のしたことは分かっているか?」
大魔導士さまに問われて、わたしは素直にうなずいた。
あぁ、また”夜の庭”でひとりぼっちか。
でも、ヨルンが生きててくれるほうが、どれだけ大切か─。
フィンがいてくれれば、わたしはきっと大丈夫よ。
そのとき、ふいに身体の芯が抜けるような不思議な感じがしたの。
「レニ、別れのときが来たようじゃ。短い間だが、なかなか愉快であったぞ」
女神さまが、わたしの身体から出ていく。
一体どうして─?
大魔導士さまが、静かに言った。
「レニ、お前は願ったのだ、自分以上にヨルンの幸せを。それが恋─いや、愛だ」
女神さまが楽しそうに続ける。
「人間の恋なるもの、わらわはたしかに受け取ったぞ!代わりに、これを授けよう」
それっきり、女神さまの気配は消えてしまった。
大魔導士さまが、わたしを見て息をのむ。
そのとき、わたしの髪は、大魔導士さまと同じ銀髪に、瞳は雪割草の群青色に変わっていたんだって。
目覚めたヨルンも、わたしの変化に驚いていた。
「レニ、とってもきれい」
ヨルンの手が、わたしの頬を包む。
ヨルンはほめてくれたのに、わたしはなぜか涙がこぼれて仕方なかったの。
けっきょく冬は、女神さまの言ったとおり、さらに1年続き、終わりを告げた。
冬の終わり、青とも紫ともつかない群青色の雪割草の花が、雪の下からのぞいた。
日に日にあたたかさを増す日差しにも、もうわたしの肌や瞳が痛むことはない。
だって、女神さまが加護を残してくれたから。
春の日差しの下、ヨルンとわたしは笑い合う。
わたしの時間は、まだ動き出したばかり─。




