第6話 幸せになる方法
ドラゴンを町の中に下ろしたのは、この国で一番偉い大魔導士アーレンさまでも、ちょっとやりすぎだったみたい。
町長さんから頼まれて、わたしたちはフィンを連れて、しばらく近くの山の狩小屋で過ごすことになった。
大魔導士さまとわたし、どうしても一緒に行くと言って聞かなかったヨルン。
三人でフィンの背に乗って、わたしたちは雪深い山へと出発した。
わたしは、冬の女神さまの力のおかげで、おなかも空かないし、喉も乾かない。
でも、大魔導士さまとヨルンは違う。
水は雪を溶かせばいくらでもあるけど、ごはんは自分たちで獲らないといけない。
「ヨルンと言ったか。多少の魔力はあるようだな」
大魔導士さまは、ヨルンを連れて、狩用の小型魔法陣を仕掛けにいった。
大魔導士さまは、若い頃、大陸を冒険してたことがあるんだって!テキパキと獲物をさばく姿は、わたしが知らない大魔導士さまだった。
その夜、狩小屋にあった小鍋で、大魔導士さまが薬草茶を沸かしてくれた。
わたしたちは、鍋の周りに集まって座った。
小屋の外では、フィンが太い寝息を立てている。
「冬の女神は、まだお前の中にいるようだな。仕込んでおいた魔法をことごとく解呪されて、追跡に手を焼いたぞ」
女神さまがまだわたしの中にいるのは、大魔導士さまにとっては、いい知らせだったみたい。
わたしが口を開く前に、女神さまが得意げに答えた。
「わらわの手に掛かれば、そなたの姑息な魔法の解呪など、一瞬よ!」
あの磁石みたいにヨルンに触れなかった魔法や、時間魔法だけじゃなかったみたい。
フィンをわたしに与えたことも含めて、大魔導士さまはわたしが思うよりずっと、用意周到に女神さま殺しの計画を進めていたのね。
「殺せないのであれば、”夜の庭”に戻ってもらうしかない。レニ、お前、冬の女神の力を自由に使えるのだろう」
え?女神さまの力を、わたしが使う?
考えたこともなかった。
「冬の女神の力を消すことはできずとも、お前の意思でコントロールできるのであれば、それは我々にとって光だ。ただ、同時に、お前が自分の欲のままに力を使うことを、防がねばならぬ」
ヨルンが口を挟んだ。
「待ってください!レニの身体に冬の女神が入ったままだと、レニは不老不死なんでしょう?いつまでレニを閉じ込めるつもりですか!?」
大魔導士さまの言葉は、冷たかった。
「ずっとだ」
ずっと?わたしは、あと千年”夜の庭”で過ごすの?
あの退屈な世界に、ひとりぼっちで。
時間魔法にかかったままのわたしだったら、耐えられたのかもしれない。
でも、ヨルンに再会して、人のぬくもりを思い出してしまった。
ヨルンの背中のあったかさを知ってしまったのに。
ひとりは嫌。もう絶対に。
「大魔導士さま、わたし、絶対女神さまの力を自分のために使ったりしないわ!だから、”夜の庭”には戻さないで……お願いです……」
最後のほうは、思ってたよりずっと声が小さくなっちゃった。
わたしのきつく握った手は、小さく震えていた。
大魔導士さまは、諭すように言った。
「レニ、可能性があることを、人は必ず試すものだ」
それが人間の業だから、って大魔導士さまは言った。
じっと聞いていた女神さまが口を開いた。
「その業の結果が、3年ずつの春夏秋、そして今の冬ではないか」
大魔導士さまが反論する前に、女神さまは続けた。
「冬は災いではない。春の芽吹きに備える眠りの季節じゃ。冬なくして、春は訪れぬ」
傲慢なことよ、と女神さまは結んだ。
大魔導士さまは、何も言わなかった。
口を開いたのは、ヨルンだった。
「納得できません。レニだけが、人間の業を背負うなんて。もうレニを振り回さないでください!」
ヨルンが自分の手で、わたしの震える手を包んでくれた。
だから、わたしは少しだけ勇気を出すことができたの。
「わたし、恋をするから……恋をしたら、女神さまもわたしも自由になれるんでしょう!?」
わたしが恋をする。
それが、みんなが幸せになる方法。




